当たり前のこととして認めていることの中には、しかしなぜそうなのかについてわかっていないことも多い。そんな一つが、脳内で神経活動が起こっている領域に選択的に血液上昇が見られるという現象だ。実際、この現象は機能的MRIで脳活動を見るときの前提で、もし血流が脳活動を反映しないとすると、fMRI研究は成り立たない。結局うまくできているなとただ感心するだけだ。
今日紹介するハーバード大学からの論文はこの脳活動と血流の連結のメカニズムに取り組んだ研究で先週号のNatureに掲載されている。タイトルは「Caveolae in CNS arterioles mediate neurovascular coupling (脳の細動脈のcaveolaが神経血管連結に関わる)」だ。
これまで神経血管連結は、神経興奮がアストロサイトが分泌する血管拡張因子、例えばNOなどを介して血流を高めるというシナリオが提案されている。一方、血管側の分子メカニズムは全くわかっていなかった。この研究では、血流調節のキーと言える小動脈血管内皮にcaveolaと呼ばれる膜直下の小胞の数が多いことに着目し、これが神経血管連結に関係あるのではないかと着想する。
これを確かめるため、マウスのヒゲに対する刺激を感じる神経領域の興奮と、その周りの小動脈のサイズを同時にモニターできる実験システムを確立し、ヒゲを刺激して神経興奮が起こると、周りの小動脈が拡張し、血流が上がることを確認している。
この系を用いてcaveola形成に重要なcaveolin-1ノックアウトマウスを用いて同じ実験を行うと、血管拡張が見られない。また、血管内皮特異的にcaveolin-1ノックアウトを行うとやはり神経興奮に伴う血流上昇が見られなくなる。すなわち、小動脈のcaveolaを形成する能力が、脳神経の興奮を感知して血管を拡張させるために必須であることを示した。
この結果がこの研究のすべてで、あと血管平滑筋のcaveolaはあまりこの経路に関わっていないこと、caveolaの形成は脳血管関門に関わる分子Mfsd2aにより抑制されていること、またcaveola依存性メカニズムはNOとは無関係であることなどを示しているが、caveolaとリンクするどのシグナルが血管拡張に関わるかは結局示されなかった。
Caveolaはシグナル伝達を構造的にバックアップする仕組みと考えられていることから、この結果は謎の多かった神経血管連結を理解するためには重要だと思うが、納得できるシナリオまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。