3月18日 新型コロナウイルス感染動態(The Lancet オンライン掲載論文)
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3月18日 新型コロナウイルス感染動態(The Lancet オンライン掲載論文)

2020年3月18日
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各国の厳しい対応を見ていると、一旦始まった感染は次から次へと広がると思ってしまうが、実際にはそれほどでもないという論文を最後に紹介したい。もちろん気を緩めろというわけではないが、恐すぎるのもどうかと思う。

The Lancetに3月12日、16日と相次いでオンライン出版された論文で、最初は米国イリノイ州のEpidemic Intelligence Serviceからの論文で、タイトルは「First known person-to-person transmission of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) in the USA (米国での最初の人から人への感染が確認された新型コロナウイルス感染)」、16日はシンガポール厚生省からの論文で、タイトルは「Investigation of three clusters of COVID-19 in Singapore: implications for surveillance and response measures (シンガポールで起こった3つのCOVID-19感染クラスター:検査と対策についての示唆)」だ。

まず最初の論文だが、12月25日から1月13日まで武漢に滞在した女性からの二次感染の記録で、この女性は帰国後1週間目に発熱、倦怠感で診察を受け、最初の受診後7日目になってようやくPCRで新型コロナと診断されている。この女性がクリニックを訪れてから11日目に夫も発熱したので、すぐに検査して、家庭内感染と診断された。

夫は慢性閉塞性呼吸器疾患を持っていたが、どちらも入院後症状は回復、20日目には自宅待機で様子を見ている。症例自体は特にどうということはないが、確定診断時、鼻腔、口腔粘膜のシュワブだけでなく、喀痰もウイルスが検出され、さらに他の場所からウイルスが消えても長期間検出された点が気になった。すなわち、喀痰なら採取方法を工夫すれば、自分で採取して検査所に送ることができ、コロナと思ったら病院に行く前に電話という指示に適合するように思う。実際、確定診断はウイルス検査なので、結局病院に行くことになるのでは元も子もない。

さて、この武漢から帰国した女性および夫とコンタクトした人を、CDCの基準を使って3段階に分けて2次感染を調べると、ハイリスクの高い夫以外は全てウイルス陰性という結果で、また医療スタッフにも感染しなかったことが確認されている。すなわち2次、3次と感染が広がる可能性は高くないと期待させる。

この結論は、16日に発表されたシンガポール厚生省からの論文からもサポートされる。この研究では、シンガポールに訪れた中国人観光客から感染したと思われる3つのクラスターについて調べている。

一つのクラスターは感染していた中国人観光客が立ち寄った宝石店と健康グッズの店で接客した店員で、30分程度の接触だが、握手を含め身体的接触があったケースで、なんと6人が感染している。ただ、2次感染は一人の家族だけに止まっている。

次のクラスターは会議のため世界から人が集まり、会議、会食などを行なったケースで、この中に感染した中国人も参加していたと考えられる。この会議に参加した3人のシンガポール人、2人の韓国人、1人のマレーシア人、そして4人の英国人が感染している。この時の会議場やホテルのスタッフには2次感染はない。ただ、マレーシア人、英国人の家族で2次感染が確認されている。

3番目のクラスターは、教会の礼拝に中国から来た参加者が感染していた例で、最初の感染者はわかっていないが、5人がこの礼拝を通して感染している。幸いこの場合は家族感染も含めて2次感染はなかった。

以上が結果で、一緒に生活をする場合は2次感染が起こっているが、それぞれのクラスターから家族以外の2次感染がないということは、家族的な濃厚接触がない限り、伝染する可能性は低いということを示している。

一方、店頭での接客、会議と会食、礼拝などは、他人でも握手を始め直接の身体的接触があるため、多くの人が感染したことになる。

以上が結果で、読んでみると確かにまだ発症前の人からの感染が一番やばいという事が分かる以外は特に新しいことはないが、改めて肌と肌の触れ合いの危険性がよくわかった。また、今行われている対応は全て適切で、要するに、一定の距離をおく付き合い、これがコロナ対策一丁目一番地ということになる。とすると、日本は比較的対策が取りやすい国と言えるかもしれない。

明日からは普通の論文ウォッチに戻すが、もちろん重要な論文は重点的に紹介するつもりだ。

カテゴリ:論文ウォッチ