パーキンソン病にはαシヌクレインの蓄積が重要な働きをしており、シヌクレイン症として包括的に捉えるようになった。その意味で、アミロイドやタウタンパク質の蓄積によるアルツハイマー病と同じ土俵で考えられる過程も増えてきている。特に、蓄積したタンパク質をミクログリアに貪食させ、神経死をある程度抑えるプロセスについては共通性が高い。
少し古い論文になるが今日紹介するジョージア大学からの論文は沈殿したシヌクレインの除去にNK細胞も関わる可能性をモデルマウスで示した研究で米国アカデミー紀要に1月20日発表された。タイトルは「NK cells clear α-synuclein and the depletion of NK cells exacerbates synuclein pathology in a mouse model of α-synucleinopathy (NK細胞はαシヌクレインを除去する。そしてシヌクレイン症のマウスモデルでNK細胞を除去すると病像が悪化する)」だ。
この研究は、普通なら関連付けないパーキンソン病(PD)とNK細胞を関連付けられないかと考えたことが全てだ。実際パーキンソン病の患者さんで特にNK細胞の機能が低下したという話はあまり聞いたことがない。ただ、この研究では多くのPD患者さんの脳ではNK細胞が観察され、その数も増えていることを確認する。
あとは動物モデルでNK 細胞とαシヌクレイン、そしてPDとの関わりを調べている。結果をまとめると以下のようになる。
- 試験管内でNK細胞株は変性シヌクレインと反応して細胞内に取り込み、分解することができる。
- NK細胞が変性シヌクレインに反応すると、キラー活性が低下し、インターフェロン産生能が低下する。
- マウスPDモデルで、病気発症が始まる頃に抗体投与でNK細胞を除去すると、発症率が高まり運動機能の悪化が見られる。
- 病理的にもNK細胞が除去されたPDモデルでは、病変の拡大が見られ、また神経炎症も認められる。
- ドーパミン神経の細胞死も起こるが、線条体が中心で不思議なことに黒質の神経細胞死はほとんど起こらない。
以上が結果で、黒質の細胞死を促進しないということで、モデルとしては一般的PDの枠内で考えるより、シヌクレイン症一般で見られるNK細胞の特殊な役割を明らかにしたと考えたほうがよさそうだ。これを念頭にまとめなおすと、シヌクレイン症ではNK細胞が脳に現れ、変性シヌクレインを除去するが、その時炎症誘導能が抑えられるので、ミクログリアなどの他の炎症細胞を活性化しない。すなわち、純粋なシヌクレイン除去が可能になるという話だ。その意味で、もう少しミクログリアの状況を調べる必要があったのではと思う。
ミクログリアと比べて炎症が起こりにくいという点で、面白いメカニズムだが、ではNK細胞移植がレビー小体認知症などシヌクレイン症にお治療になるのか気になる。