現在我が国ですい臓ガンに対して行われている化学療法はジェムシタビンが中心だが、DNA修復が低下しているガンに対してはプラチナ製剤も使用されていると思う。また、施設によってはEGFR阻害剤を組み合わせることも行われているのではないだろうか。
このような抗ガン剤の組み合わせを計画するときに重要なのは、細胞に対する異なる効果を合わせることで、一番わかりやすいのがガンの増殖を抑えた上で、免疫をチェックポイント療法で高めるといった組み合わせだろう。しかし、抗ガン剤自体もその効果を把握すると、さらに論理的な抗ガン治療が可能になる。
今日紹介するスローンケッタリング癌センターからの論文は、最近注目のガンに対する老化誘導がモデルマウスのすい臓ガン治療に高い効果を示すことを示した研究で4月16日号のCellに掲載された。タイトルは「Senescence-Induced Vascular Remodeling Creates Therapeutic Vulnerabilities in Pancreas Cancer (老化によって誘導される血管のリモデリングによってすい臓ガンの治療感受性を高められる)」だ。
研究は単純で、これまで著者らが提案していたCDK4/6阻害剤(パルボシリブ)とMEK阻害剤(トラメチニブ)を組み合わせてRB依存性の細胞老化を誘導して、すい臓ガン治療を改善できないか確かめることが目的だ。
遺伝子導入によるマウスすい臓ガンモデルに両方の薬剤(T/P)を投与すると、増殖を止めて老化が誘導されたことを示すマーカーが検出できるが、個体の生存曲線としてはほとんど変化ない。すなわち、ガンの方はこの治療を乗り越えられる。
つぎに同じ治療でガンの細胞老化が誘導されることで、周りの組織が変化するか調べ、ガン局所に血管が誘導され、しかも血管はしっかり開いて循環を維持していることを発見する。また、様々な分子マーカーを使った組織の検討から、ガンの老化により血管のリモデリング誘導されたことになる。
次にリモデリングされた血管の機能を調べる目的で、腫瘍への抗ガン剤ジェムシタビンの浸透を調べると、T/P治療を行わなかった群と比べ、アイソトープ標識されたジェムシタビンが腫瘍内に浸透し、その結果ジェムシタビンの効果を大きく高まる。すなわちT/Pとジェムシタビンを組み合わせた化学療法は、ジェムシタビン単独と比べて2倍の効果がある。
さらに、血管が腫瘍に浸透することで腫瘍周辺に多くのCD8T細胞も浸潤していることがわかる。しかし、この細胞はPD1を強く発現し、また腫瘍のPD-l1発現もT/P治療で上昇するので、結局CD8T細胞の活性はすぐに抑えられ、あまりガン抑制に役に立っていない。
そこで、抗PD1抗体を投与すると、T細胞の活性が復活し、ガンの抑制が可能になる。すなわち、T/P治療とPD1抗体を組み合わせることで、生存を2倍に伸ばすことができる。
以上が結果で、論文としてはよくCellに受理されたなと印象があるほど単純な話だ。しかし、全ての薬剤は今使われていることから、明日から臨床治験が可能になることは明らかで、このインパクトでCellは掲載したのだと思う。
現在ニューヨークはコロナで大変な状況だと思う。おそらくスローンケッタリングでは治験が進んでいると思うが、この状況に打ち勝って是非早期に朗報がもたらせるのを期待している。