4月22日 ロックダウンの後に備える技術(Nature Biotechnology 掲載論文)
AASJホームページ > 2020年 > 4月 > 22日

4月22日 ロックダウンの後に備える技術(Nature Biotechnology 掲載論文)

2020年4月22日
SNSシェア

ヨーロッパ各国で感染係数が1を切り始めて、オーストリアを皮切りに、ドイツやイギリスでロックダウンを徐々に解除する動きが始まっている。ただ、ワクチンや、絶対と言われる治療法が開発途上の段階で、パンデミックが再発しないという保証はない。実際、抗体を用いて感染の広がりを調べたカリフォルニア大学の結果では、抗体保有者が4.1%に拡大しているという結果が出て、大変な数の人が非顕在感染していたと大騒ぎになっているが、もし感染者が5%程度しかいないなら、必ず2回目のパンデミックは起こるだろう。パンデミックを防いだ社会には6割の人が感染している必要があるとされている。

いずれにせよ、繰り返す流行を覚悟つつ、それを最も低いダメージで抑える政策を進めるのが重要で、政治家がダメなら、いまこそ優秀と言われる役人の構想力の新しい出番が回ってきたのかもしれない。当然科学の方も、目の前の対策のための研究だけでなく、感染症に対する一歩先の技術を構想する必要がある。

例えばワクチンも、非常時ならどんな方法でも安全に抗原を作って注射することになるが、この時自然免疫も同時に誘導する技術が必要になる。ただ、コロナも、インフルエンザも、抗体を誘導できるワクチンだけで正常な社会を保証できるかわからない。感染細胞が減少した時にウイルス感染細胞を除去してくれるのはT細胞免疫だ。実際、エイズウイルス感染細胞を完全に消滅させるためにエイズ感染細胞を殺すCAR-Tの開発が進んでいる。さすがに、CAR-Tがコロナに対する次の技術にはならないと思うが、T細胞を誘導できるワクチンはパンデミックの再発を防ぐために必須になるだろう。例えば肺のサーファクタントに馴染むリポソームを用いた吸入ワクチンは、抗体誘導能はそれほどでもないのに、これまで考えられなかったインフルエンザ免疫能を与えることができるという最近の研究はヒントになる(https://aasj.jp/news/watch/12433)。非常時のワクチンと、その次を睨んだワクチンは必ず違うので、そこまで視野に入れた研究が必要だろう。

治療でもそうだ。SARSでわかったようにウイルス由来のRNAすら治療標的になる(https://aasj.jp/news/watch/12590)。幸い肺の場合、線維性嚢胞症の治療なので吸入遺伝子治療も進んでいる。事実、オルベスコが効果を上げたとすると、吸入療法だったからだろう。

将来型の検査開発も重要だ。PCR検査を増やす、増やさない(フェーズが変わって現在はもはや必要ないという意見は少数になったように思うが)という議論が延々続けられているが、この延長に検査拡充によるキャパシティーの拡大だけを見ているようでは次に備えることはできない。極論すると自宅隔離の時代には、自宅でもできる検査を目指してもいいはずで、インフルエンザのようイムノクロマトを開発して、例えばAIアプリと組み合わせて自宅トリアージができるようにすることすら可能になる。

もちろん感受性などの問題で、もう少し専門的に検査することも大事だが、それでも現在のように検査がボトルネックになるのは最悪だ。とすると、簡単な機械で検査ができる必要がある。すなわちワンステップで検査ができる必要がある。理研の林崎さんたちのワンステップ法の開発がメディアで報道されていたが、もともとこの分野は日本のプレゼンスは高く、例えばMERSの診断でRT-LAMP法が開発されている。

個人的にもう一つ注目しているのが、CRISPR/CASを用いる方法、特に活性化されると周りの一本鎖RNAやDNAを切ってしまうCas13やCas12を使う方法だ。ずいぶん昔にCas13aを使った検査法を紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/6731)。この方法はすでにSherlockという名前でキット化されており、新型コロナウイルスを検出するキットがすでに発売されている。

最後になるが、同じように今日紹介したいと思ったのがカリフォルニア大学からNature Biotechnologyに発表されていたCas12を使った方法だが、原理はSHERLOCKと同じなので、タイトルだけを紹介しておく。

SHERLOCKも、この論文も、Cas13,Cas12の差はあるが、ラベルされた一本鎖RNA or DNAを、ウイルスRNAで活性化されたCasで切断させ、切断された断片をクロマト法で検出する方法で、現在のところ最初の段階で、定温の遺伝子増幅を用いている。

ただこれは検出時間短縮を目指すためで、実際には活性化されたCas13or12の活性が持続すれば切断反応は無限に続くので、将来増幅が必要のない方法にグレードアップできるかもしれない。また、カリフォルニア大学ではウイルスRNAを捕捉するガイドRNAはウイルスの3種類の場所から選んできて感度を上げている。

要するに病院すら足りなくなることが今回よくわかった。政治も大事だが、これに有効な答えをまず提供できるのは、一歩先を見据えた科学技術研究で、それが結局は様々な政策を可能にする。いまこそ科学者の力を見せる時だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ