4月16日 今新型コロナウイルス症状として話題になっている臭いの受容は極めて複雑(4月10日号 Science 掲載論文)
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4月16日 今新型コロナウイルス症状として話題になっている臭いの受容は極めて複雑(4月10日号 Science 掲載論文)

2020年4月16日
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阪神の藤浪投手についての報道以降、新型コロナウイルスの可能性を調べる一つの症状として嗅覚障害が認められ、メデイアでも盛んに報じられている。最近 International Forum of Allergy & Rhinologyにカリフォルニア大学サンディエゴ校から発表された論文では、インフルエンザ症状を示した中で新型コロナと確定された患者さんの68%が嗅覚障害を示した一方、通常のインフルエンザでは16%で、嗅覚障害は100%ではないが、新型コロナと強く相関することを示していた。

今我が国では一般の感染がどの程度広がっているのか、クラスター対策が限界を迎えてしまったため、わからないという状況になっている。各地域でこれを調べる一つのアイデアがやはり同じ雑誌に紹介されていた。Google Trendを使って嗅覚障害に関わる様々な言葉が何回検索されているのかを調べると、その地域でのコロナウイルス感染者数とgoogle 検索数が高い相関を示すという研究だ。PCR検査を徹底的に行なっているドイツでも相関が見られることから、信頼できる方法ではないだろうか。メディアも、国の調査不十分を非難する前に、自前で様々な検索を行えばいい。前に紹介したように下水のPCR検査(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/12703)と合わせれば、原発事故モニター並みの推定ができるかもしれない。

個人的には匂いに関わる単語検索数はかなり使えると思う。というのも、十年以上前私も感冒にかかり、すっかり匂いを失った。幸い徐々に回復したが、面白いことに花の匂い、香水の匂い、ワインの匂いなど良い匂いは回復し、今や前以上にワインテースターになった一方、臭いと言われる匂いは排泄物も含めて全く戻ってこない。介護向きの人間になったのも巡り合わせかと親の介護を待ち構えていたが、この能力を使う間も無く全員亡くなってしまった。

少し余談になったが、匂いを失うと回復するかどうかが不安になる。その結果間違いなく、検索は増える。一般の人にとっては藤浪選手の報道が一つのピークになると思うが、現在の検索数を調べてみるのは絶対おすすめだ。

と前置きが長くなったが、今日紹介したいコロンビア大学からの論文は個々の嗅細胞が様々な臭い物質に反応を示し、細胞の興奮を入り口で調節している可能性を示した論文で4月10日号のScienceに掲載された。タイトルは「Widespread receptor-driven modulation in peripheral olfactory coding (抹消の嗅覚コードの受容体依存性の調節は普通に起こっている)」だ。

この研究では匂いに反応する1万個近くの嗅覚細胞の興奮を、様々な匂い物質にさらして同時観察している。仕掛けは大掛かりだが、目的は単純で、1つの細胞が様々な匂い物質に反応する可能性を確かめようとしている。

これまでのコンセンサスは、それぞれの嗅細胞は原則1つの分子に反応して興奮し、ワインのような複雑な匂いは全て高次の統合で行われるとされていた。ところが、1万個単位の細胞を同時にモニターすると、1個1個の物質に対しては確かに反応細胞は分離しているように見えても、同時に2種類、あるいは3種類の分子に晒すと、1つの分子にしか反応しないと思われていた細胞の興奮がポジティブ、ネガティブな様々な影響を受けることがわかった。

詳細は全て省いて結論だけ紹介するが、匂い受容体は実際には様々な分子と反応することが可能で、興奮の閾値を超えるという点で調べると匂い物質との一対一で対応しているように見えるが、単独では刺激の閾値を越せない分子も受容体の反応をポジティブ、ネガティブに変化させられるということだ。要するに、一つの受容体で、何種類もの刺激に違う反応を示すということで、これは入り口から大変複雑だということを示している。なぜワインの匂いが区別できるのか、到底わかりそうもない。

コロナに戻るが、匂いが戻るまで、嗅覚障害に陥った人はgoogleやYahoo検索を続けるだろう。嗅覚細胞は新陳代謝する細胞なので、必ず回復すると言えるが、自分の経験では完全に元どおりにならなかった。おそらく、この回復過程で素晴らしい匂いを脳に焼き付けることで、ぜひ素晴らしい自分の匂い世界を形成してほしい。この論文が示すように、匂いの受容は入り口から複雑だ。

カテゴリ:論文ウォッチ