10月6日 転移と自然免疫(9月30日号 Nature オンライン掲載論文)
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10月6日 転移と自然免疫(9月30日号 Nature オンライン掲載論文)

2020年10月6日
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ガンに炎症が伴うと転移しやすくなることが知られているが、ガンのEMTを誘導したり、血管新生を促したり、様々なメカニズムが示されてきた。従って特に珍しくもない話だが、今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、血管が発現すると転移を誘導し、ガンが発現すると転移が抑えられるという不思議な分子(SLIT2)の話で、9月30日Natureにオンライン出版された。タイトルは「Tumoural activation of TLR3–SLIT2 axis in endothelium drives metastasis(ガンによる血管内皮のTLR3-SLIT2経路の活性化が転移を促進する)」だ。

もともとSLITとその受容体ROBOは、神経軸索ガイダンス分子として発見された。その後血管新生、白血球の移動、さらにはガンの転移に関わることは既に報告があり、おそらくSLIT2が転移に関わるというタイトルを見てもそれほど注目されないだろう。ただ、これにTLR3というウイルス由来二重鎖RNAを認識する分子が絡まっているとなると、急に話は面白くなる。

この研究ではCre-recombinaseを用いて細胞系列特異的にリボゾームを標識し、それに結合する新たに合成中のRNAを濃縮し配列を決める方法を用い、マウスメラノーマの転移組織の血管内皮でSLIT2の転写が新しく誘導されることを確認している。すなわち、SLIT2の血管での発現が転移に関わる可能性を示唆している。

そこで血管特異的にSLIT2がノックアウトされたマウスを作成し、腫瘍を移植する実験を行い、SLIT2が血管内皮で発現しないと転移が強く抑えられることを発見した。また、血中を流れる腫瘍細胞数も低下する。逆に腫瘍にSLIT2を添加する実験では、腫瘍の遊走を誘導し、この遊走は腫瘍側のSLIT2受容体ROBO1をノックダウンすると抑えられる。

以上のことから、SLT2は転移血管内皮で上昇し、これが腫瘍の遊走を高め、転移を促すことがわかった。次の問題は、血管内皮のSLITを誘導する因子だが、ガン細胞の培養液に存在する二重鎖RNA(dsRNA)がSLIT2を誘導することを発見する。dsRNAはTLR3を介して自然免疫反応を誘導することから、SLIT2もガン由来のdsRNA自然免疫反応の一環として内皮に誘導されると考えられる。実際、内皮のTLR3をノクアウトするとSLIT2の誘導は低下する。

次に腫瘍由来のdcRNAの配列を調べて、多くが内在性のレトロウイルス由来であることも確認している。これらの結果から想像されるシナリオだが、ガン細胞で内在性のレトロウイルス(これだけではないが)が活性化され、dsRNAが細胞外へ遊離されると、血管内皮のTLR3を介してシグナルが入り、SLIT2が分泌され、それが周りのガンに働きかけて遊走を高め、血管内への侵入を促進して、転移ガンが起こるというものだ。

血管内皮から見るとこのシナリオはOKだが、ガン細胞自体では SLIT2発現が抑制されており、またガン細胞SLIT2を過剰発現させると、転移が低下する。以上のことから、ガン細胞自体SLT2を発現せず、ROBOが血管内皮由来のSLIT2に刺激されることが、転移に重要であることを示している。

SLIT2とROBOと転移の関係はこれまでも話がこんがらがっている気がしたが、その意味ではこの研究は混乱を解消する一つのわかりやすいアイデアを提供した。ただ、実際の臨床例で同じことが起こっているのか明確にして、転移抑制手法が開発されることを期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ