10月23日 腸内細菌叢による炎症コントロールの一つの経路(10月21日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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10月23日 腸内細菌叢による炎症コントロールの一つの経路(10月21日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年10月23日
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腸内細菌叢が局所の免疫システムに大きな影響を与えることは広く認められ、健康な免疫システム確立のための様々な方法の開発が進められている。また、安倍首相の炎症性腸疾患の再発時に話題になった様に、腸内の炎症を鎮めるために、わざわざ便を移植するのも、免疫システムに細菌叢が大きな影響を持つと考えられているからだ。

今日紹介するカナダ・マクマスター大学からの論文は、腸内細菌が免疫系に作用する一つの経路が Aryl hydrocarbon receptor(AhR )を介している可能性を示した研究で10月21日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Aryl hydrocarbon receptor ligand production by the gut microbiota is decreased in celiac disease leading to intestinal inflammation (芳香族炭化水素受容体のリガンドが腸内細菌叢により合成されることで腸管の炎症に繋がるセリアック病を抑える)」だ。

AhRはダイオキシンの受容体として働いた悪いイメージがあるが、バクテリアなど外界で合成された有機物のセンサーとして働いていると考えられてきた。しかし、免疫システム調節機能や、血液幹細胞の自己再生を高めることがわかって、これらのシステムの操作法の開発に用いるための研究が進んでいる。今回腸炎をAhRで制御しようというタイトルを見て、なるほどとすぐ納得するぐらい重要なシステムだ。

これまでの研究でAhRは腸上皮のバリア機能を高め、炎症性サイトカインを抑えることが知られている。そこでまず、細菌叢のAhRリガンド合成の材料になることがわかっているトリプトファンを3ヶ月食べさせたマウスで、グルテンにより誘導されるセリアック病を抑えられるか調べ、トリプトファン食がT細胞の浸潤を抑え、上皮のバリアー機能を維持し、抗菌物質リポカリン2の分泌が抑えられることを示している。

そして、これがトリプトファンに適応した腸内細菌叢が、通常の細菌叢と比べて多くのAhRリガンドを合成することによることを示している。元々グルテンを投与した腸内では細菌叢の変化が起こるが、トリプトファンに適応した細菌叢はグルテン投与でもAhRリガンド合成能を維持できることもわかった。

一方、トリプトファンが私たちの細胞で代謝されると、AhRの機能を抑えるキヌレニンが合成されるが、腸内細菌叢がトリプトファンに適応することで、私たちの細胞の代謝に回らないため、炎症を高めるキヌレニンの合成は低下するという効果もあることを明らかにしている。

トリプトファンの話はここまでで、あとはトリプトファン合成能を高めたロイテリキンを投与すると、トリプトファンを摂取させるのと同じ効果があること、そして当然ながらAhRのリガンドを投与することでも同じ様に炎症が抑えられることを示している。すなわち、トリプトファン食の効果は、トリプトファンからAhRリガンドを合成できるバクテリアの作用であること、そして炎症が外因性のAhRリガンドで抑制されていることを示している。

最後に、人間のセリアック病の患者さんの便を調べ、AhRリガンドの合成が低下していること、逆にキヌレニンのの量は上昇していること、そしてその結果AhRの活性が低下していることを明らかにしている。

以上単純だが、なるほどと納得できる研究だ。ぜひ、セリアック病だけでなく、腸管の慢性炎症治療の方法開発に至ることを期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ