10月11日 耳鳴りの新しい治療法(10月7日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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10月11日 耳鳴りの新しい治療法(10月7日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年10月11日
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自分が長年耳鳴りとともに生活してきたため、耳鳴りの治療法に関する論文にどうしても目がいく。そんな私が最近のトレンドとして感じるのが、脳を刺激することで耳鳴りを抑制しようとする治療だ。最初に紹介したのはTMSと呼ばれる頭蓋の外から磁場を方法で、我が国でも既に治療に使っている施設がある(https://aasj.jp/news/watch/3789)。問題は、10日間、毎日治療を受けにその施設に出かける必要があり、また結構高額な治療費になることだろう。これに対して、患者さんの耳鳴りのピッチに合わせた音を聞かせるのと、頚部の電気刺激を組み合わせ、自宅でもできる治療法の開発が報告され紹介した(https://aasj.jp/news/watch/7895)。このとき、読者の一人Sakumaさんから同じような新しい治療がアイルランドから発表されているという情報をいただいた。

今日紹介する論文はSakumaさんから紹介いただいた会社Neuromod Devices Ltdの製品についての治験論文で、おそらく我が国でも導入できる方法に仕上がっていると感じたので紹介することにした。タイトルは「Bimodal neuromodulation combining sound and tongue stimulation reduces tinnitus symptoms in a large randomized clinical study (音と舌の刺激を組み合わせた脳刺激は大規模な無作為か臨床試験で効果を示した)」で、10月7日号のScience Translational Medicineに掲載された。

この研究では無治療グループというのが存在しない。すなわち、耳鳴りが自然に改善することはないという前提に立っているようだ。個人的には納得するが、これを問題にする人はいるように思う。この方法は、耳に様々な周波数の音をミックスたパルスを聞かせるとともに、舌に32本の電極が並んだプレートを当てて、1日60分毎日自宅で電気刺激をおこない、これを12週間続ける。この研究では、この刺激の内容を(音の周波数を低周波数だけにしたり、舌の刺激と、音の刺激のパルスの感覚を変化させたりして)変えた3種類の刺激を用いてその効果を比べる立て付けになっている。

この中で全く効果がないグループがあればそれを無処置のコントロールとして扱えるのだろうが、この治験では3グループ全て効果が認められており、要するに音と舌への電気刺激は効果があるという結果になっている。

驚くことに、治療開始後6週間まで耳鳴りは改善を続け、それ以上は改善しない。この程度は、今回調べた3グループ全て同じで、また前回紹介した首の刺激と耳鳴りのピッチに対応する音だけを聞かせた方法と比べると(実際に比べたわけではなく検査指標から判断している)、Neuromod社の方が優れている。

ここまでは3種類の刺激全てほぼ同じ効果だが、治療終了後の持続効果で見ると、本来彼らが治療用として提供しているモードが最も優れており、一年以上にわたって改善状態は続く。一方、周波数を低周波領域のみに限定し、また舌への刺激を同期させない方法では、18週目に50%ほど改善効果が低下するという結果だ。最後に、副作用についても調べているが、特に大きな問題はないというのが結論になる。

Neuromod社のサイトを見ると(https://www.neuromoddevices.com/company/technology)、既に多くの施設で治療が提供されているので、我が国でも導入される日は近いように感じる。

もちろん20%の人では何の効果もなかったことも示されており、過度の期待は禁物だが、可能になれば高齢者代表としてぜひ受けてみたいと思う。ただ、個人的予想としては、私のように30年近く耳鳴りとともに生きている場合は改善しにくいのではないだろうか。

カテゴリ:論文ウォッチ