ダウン症候群は21染色体の数が3本に増えることによる病気で、知能の発達遅延とともに、様々な身体症状を伴う。この様に病気の原因がはっきりしていても、発症メカニズムは複雑でまだまだわからないことは多いが、トリソミーによるタンパク質合成の変化で細胞内にストレスがたまり、変性や炎症が起こることが引き金になっているのではと考える研究者は多い。その結果、直接このストレス反応を標的にした薬剤治療の可能性も示唆されてきた(https://aasj.jp/news/watch/11744)。
今日紹介するイタリア工業研究所からの論文はマウスモデルではあるが、ダウン症候群の神経症状の一部がミクログリア異常活性化により誘導され、この過活性を是正することで症状を改善させる可能性を示した研究で12月9日号のNeuronに掲載される予定だ。タイトルは「Rescuing Over-activated Microglia Restores Cognitive Performance in Juvenile Animals of the Dp(16) Mouse Model of Down Syndrome (過剰活性化されたミクログリアを是正することでマウスダウン症モデルDp(16)の認知機能を改善できる)」だ。
このマウスで使われたのは人間の21番染色体に相当するマウス16染色体の一部を重複させたモデルマウスで、ダウン症では110〜150遺伝子が重複するのに対して、113種類の遺伝子が重複しているモデルで、炎症やミクログリアに関わる遺伝子はほぼ全て共通して重複している。
この研究では最初からダウン症による脳内のミクログリアの変化に注目して研究を行い、様々な指標で見たときにダウン症モデルマウスの脳内ミクログリアが過剰活性していること、そして1型インターフェロン刺激下流の分子を中心に発現が上昇していることを発見する。
そこでミクログリアの数を減らす目的でCSF-1の機能を阻害する薬剤を投与すると、脳内のミクログリア数が低下するとともに、シナプスのスパイン形成が正常化し、並行して認知機能も改善することを示している。
ただ闇雲にミクログリアを除去するというのは問題が多いので、次にこれまでも示唆されてきた炎症を抑えるCox2阻害剤acetaminophenでミクログリアの活性を抑えられないか調べ、acetaminophen投与でミクログリアの活性化が抑制され、認知機能も改善することを示している。
元々acetaminophenはCox2を抑えて、炎症メディエーターであるプロスタグランディンを抑えるのだが、この研究では炎症だけでなく、ミクログリアのメカのセンサーTrpV1にも働いてミクログリア特異的に活性化を抑える可能性も示している。
そして、acetaminophenの作用メカニズムがインターフェロン刺激によるサイトカインの発現抑制、それによるスパイン形成阻害の解除などを介していることを示しているが、詳細は省いていいだろう。また、この効果は決してDp(16)モデルに限らないことも示している。
以上、ダウン症の認知障害の一部を、ミクログリアの活性化を抑制することでh治療する可能性が示され、薬剤の候補としてCox2阻害剤とともに、TrpV1阻害剤が特定できたことがこの研究のポイントだ。では、実際のダウン症の認知機能低下の治療は可能なのだろうか?
この研究では成人後のダウン症の剖検例を調べ、確かにミクログリアの活性化が起こっていることを確認し、副作用の問題さえ克服できれば、大人になった後でもミクログリアを標的として認知機能低下を治療できる可能性を示唆している。
今後、発達期の介入も含めて、ミクログリアを標的にするダウン症治療の薬剤治療が開発されることを願う。