10月31日 新型コロナウイルス感染に必要なホスト側の分子(10月20日 Cell オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2020年 > 10月 > 31日

10月31日 新型コロナウイルス感染に必要なホスト側の分子(10月20日 Cell オンライン掲載論文)

2020年10月31日
SNSシェア

新型コロナウイルス(Cov2)を含むコロナウイルスは、その生活サイクルを通して、細胞内オルガネラを上手に再構成することで、安全に複製する仕組みを持っており、これに関わるのがnon-structural proteinだ。これまでもコロナウイルスの細胞生物学として多くの研究が蓄積している面白い分野だ。私が読んできた中では、今年の7月UC BerkeleyのグループによってJBCに発表された総説が最もわかりやすくお勧めだ。

ウイルスタンパク質と協力するホスト因子を探すためにはいくつかの方法がある。例えば、Cov2タンパク質と結合するホスト分子を網羅的に調べる方法は早くから利用され、最近でもScienceに掲載されたが、この方法では、それぞれの分子が本当に機能しているのか、結合しているだけなのか、改めて調べる必要がある。

この問題を解決するのが、今年のノーベル化学賞に輝いたCRISPR/Cas9を用いる方法で、細胞機能に重要な遺伝子全てをカバーする何万ものガイドRNAを別々に挿入されたレトロウイルスを用いて、万のオーダーの遺伝子がそれぞれ欠損した細胞ライブラリーを作成し、これにウイルスを感染させて残った細胞のガイドRNAから、欠損するとウイルス抵抗性が生じる遺伝子を特定するという方法だ(この逆も可能で、導入したライブラリーの中で感染後すぐに消失する遺伝子はウイルスに対する抵抗性に必要と言える)。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文はCov2の感染と増殖に必要なホスト側の遺伝子の機能を、何万種類のガイドRNAを導入してノックアウトして探索した研究で10月20日号Cellにオンライン出版された。

実際には、この論文がオンライン掲載される少し前にイェール大学のグループも同じ方法を用いたホスト因子の探索を発表している。

同じ様に見えても、2つの論文は手のかけ方が大きく違う。Yale大学の方は、ウイルス自体の代わりに、感染に絞って調べるためのVSVウイルスにCov2スパイクを導入する感染重視の方法を用い、さらにインターフェロンが欠損したVero-E6細胞を用いて感染実験をしやすくしている。この結果、ほとんど感染時に必要な分子とその転写だけに関わる分子がリストされ、ウイルスのライフサイクル全体を見渡した研究にはなっていない。

一方NY大学のグループは、CRISPR/Casと数万のガイドRNAを用いる点では同じだが、感染にはウイルス自体を用い、細胞は肺胞細胞ガン株を用い、ウイルス感染による細胞の生存を指標としている点で、手間がかかっており、ウイルスライフサイクル全体をカバーして、ウイルス分子と強調するホスト分子を特定できる。そこで、今回はこの論文について紹介する。

生き残った細胞に濃縮しているガイドRNAによりノックアウトされる分子Top50をリストし、あとはこのリストされた分子がウイルス分子と結合して、ウイルスのライフサイクルに機能的に関わるかを確かめるための実験を、よくまあここまでと思えるぐらいに行なっている。これらを全て紹介するのは大変なので、個人的に面白いと思った結果だけを以下にリストする。

  1. 当然ウイルス感染の入り口になるACE2分子はいずれの研究でも、ホスト因子の筆頭だが、驚くことにカモスタットやなフモスタットのターゲットTMPRSS2やFurinなどがリストされなかった。この代わりにカテプシンLがリストに入り、ウイルス融合に関わる分子の階層性を再検討する必要を感じた。臨床的には検討が必要だ。
  2. リストされた分子の多くはウイルス分子と結合しこれまでのnspの理解を大きく前進させた。例えばnsp7はウイルス複製複合体のなかでプライマーゼとして働いていることが知られているが、昨日紹介したRab7aと結合している。今後の研究が期待される。
  3. ウイルスのエンドゾームへの侵入からdouble membrane vesicleの形成とその中での複製、そして排出と、ウイルスにとって小胞輸送のコントロールは必須だが、期待通り多くの分子はこの過程に関わることが示された。ただ、この論文もリソゾームまでは考えていなかった様で、扱いが少ない。ただ、細胞の生存を見る方法は、ウイルス排出自体が結果に影響しないスクリーニングかも知れない。昨日紹介したRab7aはリストに上がっているので、今後新しい目で、このリストを調べ直すと面白い。
  4. 意外にも、ノックアウトされた細胞の遺伝子遺伝子発現を調べる実験から、エンドゾーム形成に関わる遺伝子が、細胞内のコレステロール合成に関わり、ノックアウトされると細胞内のコレステロールが上昇することがわかった。また、Cov2感染で細胞内コレステロール合成が阻害されることも知られている。そこで、この研究ではカルシウムチャンネル阻害剤として知られるアムロディピンで処理して、細胞内コレステロール合成を高める実験を行い、ウイルス抵抗性が高まることも示している。 事実、アムロジピンを降圧剤として服用している患者さんではcov2感染が少ないという報告がある。
  5. この論文と直接関係がないが、最近膜上のコレステロールを障害するとCov2の感染が抑えられ、またSTATINの服用がCovid-19の回復を早めるという論文があった。この論文の結論からどう考えるか、臨床的には重要な問題だ。

以上、昨日と同じで多くのことを学ぶことができ、頭の整理ができるだけでなく、新たなインスピレーションが生まれる論文だと思う。新型コロナウイルス感染の生物学は着実に進展している。

カテゴリ:論文ウォッチ