シトルリン化されたタンパク質に対する抗体は、リューマチ性関節炎(RA)との相関が高く、我が国でも鑑定診断の重要な検査項目になっている。しかし、この自己抗体がRA自体の原因になっていると考える人は少ない。しかし、本当にシトルリン化タンパク質に対する反応がRA発症に関係がないのか、またなぜこのような自己抗体が誘導されるのか、これを調べるためには患者さんのシトルリン化タンパク質(CP)に反応するB細胞を詳しく調べる必要がある。
今日紹介するオランダ・ライデン大学からの論文はシトルリン化ペプチドを用いたCP反応性B細胞検出系を確立し、RA発症へのCP反応性B細胞の関わりを調べたオーソドックスな研究で、11月18日号のScience Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Persistently activated, proliferative memory autoreactive B cells promote inflammation in rheumatoid arthritis(持続的に活性化され、増殖する自己反応性記憶B細胞はリュウマチ性関節炎の炎症を促進する)」だ。
このグループは環状シトルリン化ペプチドを用いて高い感度でCP特異的B細胞を特定する方法を開発しており、この研究ではこの方法で検出できる自己反応性B細胞を、普通の抗原の代表として用いた破傷風トキシン(TT:ワクチンで免疫されており、またワクチンで再刺激も可能)に対するB細胞と比較することで、このようなB細胞が誘導される原因および、RA病理に対するこのB細胞の役割を明らかにしようとしている。
結果は明瞭でTT特異的B細胞と比べると、RA患者さんのCP特異的B 細胞では、CD80/86やHLA-DRの発現が高く、増殖マーカー陽性の活性化型B細胞が多い。また、CD80の発現量とリュウマチの重症度には相関が見られる。
次に、関節痛だけが見られる段階、病歴の短いRA、そして確立したRAの3群に病気を分けて、同じようにCP特異的B細胞の状態を調べると、病歴の長さを問わず、RAと確定診断された患者さんでだけCP特異的B細胞が活性化型になっている。すなわち、RAが確立する過程で、CP特異的B細胞が持続的に刺激される状態が作られることになる。この活性化状態が、持続的抗原刺激を反映していることを確認するため、TTワクチンで再刺激すると、活性化型のTT特異的B細胞が末梢血に現れることから、RAが確立した患者さんでは、CP抗原による刺激が持続していることを示している、
さらに、このような活性化型B細胞では、逆に活性化を抑えるCD32の発現が強く抑制されており、この結果自己抗体だけでなく、様々なサイトカインを発現していることが想定される。そこで、末梢血、関節腔から採取したCP特異的B細胞についてサイトカイン分泌を調べると、TNFαやIL-6などリュウマチ炎症に関わるサイトカインの分泌も高まっているが、何よりも好中球の浸潤を高めるIL-8の分泌が高まっていることを発見する。
以上が結果で、かなりオーソドックスな病態解析を通して、
- RA患者さんでは、シトルリン化タンパク質が、特異的にB細胞を刺激し続ける結果、自己抗体が作り続けられること。
- 活性化した自己反応性B細胞はCD80/86のようなT細胞刺激共刺激分子に加えて、HLA-DRを強く発現することで、持続的T 細胞活性化に関わること、
- また活性化されたB細胞はIL-8を分泌することで、好中球の浸潤を促し、炎症をたかめること、
がわかり、シトルリン化タンパク質に対する自己抗体がRAの原因でないにしても、RAの病態形成に重要な役割を演じていると結論している。実際、多くの自己免疫病で病態はT細胞も関わる複雑な炎症なのに、CD20に対する抗体でB細胞を除去することで改善するケースが多いことは、自己抗原によるB細胞の持続的刺激が、炎症持続の鍵になっている可能性が示されていた。
リンパ節などのリンパ組織は、ILCと呼ばれるB細胞によく似た細胞により誘導されるが、RAでも関節腔にリンパ節様の組織化された細胞集団が形成される。この研究ではリンフォトキシンについては調べていないが、この論文を読んで、自己反応性のB細胞が、ILC と同じような役割を演じている可能性は高いと感じた。