12月7日 動脈硬化に対する自己治癒機構がある?(12月2日号 Nature オンライン掲載論文)
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12月7日 動脈硬化に対する自己治癒機構がある?(12月2日号 Nature オンライン掲載論文)

2020年12月7日
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動脈硬化を炎症の観点で見直すことの重要性は、ハーバード大学のPeter Libbyらにより指摘されたように思うが、その後外因ではなく、内因性の炎症が糖尿病や肥満を始め、アルツハイマー病まで多くの慢性疾患の病理を決める重要な要因になっていることは広く認められるようになった。この背景には、炎症が全ての細胞で、根本的には同じメカニズムで誘導できることがわかってきたからだと思う。

当然内因性炎症は自然免疫と重なることから、動脈硬化症で免疫機能が高まっている可能性はある。今日紹介するスペインの心臓血管研究所からの論文は、動脈硬化で血管内にプラークができることで、自己抗体が誘導されるのではないかと構想して行われたのではないかと思える研究で12月2日Natureにオンライン出版された。タイトルは「ALDH4A1 is an atherosclerosis auto-antigen targeted by protective antibodies (ALDH4A1は動脈硬化症の自己抗原で抗体による治療標的になる)」だ。

先に述べたように、この研究では動脈硬化が進行すると内因性炎症により自己抗体が誘導されるのではないかという単純な構想に基づいて始められている。この可能性を調べるために、高脂肪食を与えたLDL受容体欠損マウス(動脈硬化マウス)のリンパ節を見てみると、胚中心形成が高まり、記憶B細胞や、T 細胞、プラズマ細胞が上昇しており、特異的免疫反応が進行しているとを発見する。

次に、胚中心に存在するB細胞の抗原特異性を調べる目的で、発現している抗体遺伝子を1700個のB細胞について調べると、クラススイッチという点では動脈硬化マウスでIgG2aへのスイッチが強く誘導されている以外は、特定の抗原に対して抗体ができていることを示唆する抗体遺伝子の偏りの証拠は出なかった。しかし、抗体遺伝子の突然変異の蓄積で見ると、動脈硬化マウスで明らかに蓄積が高まっているので、特定の抗原ではなく、動脈硬化巣で発現する様々な抗原に対して免疫が進行していることが示唆された。

そこで動脈硬化が進展しているマウスで繰り返し出現するクラスター抗体を56種類再構成し、動脈硬化巣を抗体染色すると、なんと32%の(正常マウスでは8%)の抗体が動脈硬化組織を染色することがわかり、動脈硬化巣由来の抗原が免疫誘導に関わることが示された。

最初の話はここまでで、動脈硬化組織に外来抗原が存在しないなら、動脈硬化は一種の自己抗体を誘導することが示された。このことをさらに明確に示すために、これらの抗体の中から動脈硬化組織に高い反応性を示すA12と名付けた抗体を選び出し、反応する抗原を探索して、ミトコンドリアでタンパク質の分解に関わるaldehyde dehydrogenase 4 A1(ALDH4A1)がその抗原であることを特定している。実際、正常マウスでもALDH4A1で免疫すると抗体を誘導することができることから、動脈硬化による炎症の結果細胞死が誘導され、遊離された抗原に対して自己抗体ができると結論している。事実動脈硬化患者さんでは血中ALDH4A1が上昇している。

これだけでも面白いと思うが、最後にこの自己抗体を動脈硬化マウスに12週間投与する実験を行い、血中ALDH4A1の上昇を抑えるだけでなく、コレステロールやLDLのレベルを低下させ、肝臓での脂肪代謝を改善し、その結果としてプラーク形成を抑えることを示している。

以上、動脈硬化が自己免疫を誘導するのではと探索を始めて、それを証明しただけでなく、動脈硬化の新しい治療標的を発見したという盛り沢山の論文になっている。しかし、もしALDH4A1に対する抗体産生が動脈硬化で高頻度に見られるとすると、自己抗体が動脈硬化の進行を抑えてくれていることになるはずだ。本当ならさらに面白い発見なので、是非人間でALDH4A1反応性B細胞を追跡してほしい。

カテゴリ:論文ウォッチ