12月15日 ガンのゲノム不安定性を利用する(12月10日 Cell 掲載論文)
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12月15日 ガンのゲノム不安定性を利用する(12月10日 Cell 掲載論文)

2020年12月15日
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増殖するガンはDNA複製を繰り返す頻度が高いため、複製時のミスは当然多い。もちろんほとんどはミスマッチ修復システムにより修復されるが、この修復能力が落ちているガンでは、ゲノム変異の確率が上がり、この修復ミスを短い繰り返し配列を持つマイクロサテライトの反復回数の不安定性として検出することができ、ガンのマイクロサテライト不安定性検査として知られている。

ガンが遺伝子の不安定性を持つことは誰でもわかるが、しかし不安定性が高いほどガンが治る確率が高いと聞くと意外に思われるかもしれない。この理由は、ミスマッチが修復されずに残ることで、正常細胞にはない分子が発現することで、新しいガン特異的抗原(ネオ抗原)が生まれ、これがキラー細胞により検出されるからだと考えられるようになった。マイクロサテライト不安定性が見られるガンをチェックポイント治療の適用対象と認めるのも、このガンのネオ抗原に期待するからだ。

今日紹介する米国マウントサイナイ病院からの論文はマイクロサテライト不安定性が見られるガンのネオ抗原の多くは、遺伝子の読み枠のずれ(フレームシフト)により発生することを示す研究で12月10日号Cellに掲載された。タイトルは「Shared Immunogenic Poly-Epitope Frameshift Mutations in Microsatellite Unstable Tumors(マイクロサテライト不安定性を示す主要に見られる、複数の免疫原性エピトープを持つ共通のフレームシフト変異)」だ。

正直恥ずかしいことに、ミスマッチ修復で発生するネオ抗原の由来は突然変異が挿入された変異のことと私は思ってきた。しかし、マイクロサテライト不安定性の発生を考えてみると、変異が入ってコドンの読み枠が変化し、変異部から最も近いストップコドンまで、正常には存在しないペプチドが合成されることは当然のことだ。しかも、このようなペプチドは自己とは認識されず、キラーによるアタックの標的抗原(エピトープ)になる。さらに、一定の長さがあれば、このようなペプチドからは複数のエピトープが発生できることから、正常ペプチドに変異が入るよりはるかに抗原性が高い。そして、マイクロサテライト検査から想像されるように、フレームシフトによるネオ抗原は、個々のガンを超えて、共有される可能性が高い。

ある程度生物学を習っておれば、フレームシフトでもネオ抗原ができることを気づくだけで、上に述べたことを想像することができるが、この研究ではまさにこれらが実際に起こっていることを、データベースにある、子宮内膜ガン、大腸ガン、胃ガンのゲノムデータを見直すことで明らかにしている。

まず、各ガンでフレームシフトにより発生する新しいペプチド配列をリストし、その中からホストのMHCと反応できる幾つのネオ抗原が発生できるかを推定し、多くのフレームシフトで生まれるペプチドが、ガンの共通抗原として共有されること、さらにその一部はガンの種類を超えて共有されることを明らかにしている。

次に、このようなペプチドが実際に合成され、ミスマッチ修復が低下したガン患者さんでは、マイクロサテライト変異のない患者さんと比べ、その数が多く、強い抗原として働きうることを示している。

また、このようなペプチドを選び出し、正常人、ガン患者さんを問わず、末梢血中のT細胞を刺激できることも示し、ガン抗原として利用できることも示している。

ただ、フレームシフト由来の共通のネオ抗原を持つことと、ガンの予後を比べると、共通のネオ抗原と予後とはほとんど相関がなく、PD-1チェックポイント治療を行っている人で比べると、少し差があると言う程度だ。これは、ミスマッチ修復異常では共通抗原を超える数の多くの変異が発生し、これに対して免疫反応が誘導されると考えられるので、ガン共通のネオ抗原である必要はないことを意味している。

結果は以上で、一見共通のネオ抗原自体は意味がないように思えるが、このネオ抗原をワクチンとして用いることで、少なくともマイクロサテライト不安定性を持つ人共通に、ガン免疫を誘導する可能性は明らかになったと評価している。この研究でリストされたペプチドプールを用いる臨床治験を進めてほしいと期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ