4月1日 最小生物を用いて生命の条件を解く(4月29日発行予定 Cell 掲載論文)
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4月1日 最小生物を用いて生命の条件を解く(4月29日発行予定 Cell 掲載論文)

2021年4月1日
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このホームページでは、毎日論文を紹介するだけでなく、授業や講演の準備として書きためた文章を残している(https://aasj.jp/lifescience-current.html)。書いた後はアップデートしていないが、40億年前に無生物から生物が誕生する過程を想像した「38億年前地球に生物が誕生した:Abiogenesis研究を覗く(https://aasj.jp/?s=Ventor&x=15&y=3)や、「言葉の誕生」(https://aasj.jp/news/lifescience-current/10954)は、今も十分通用すると思っている。

生命誕生を考えるとき、有機物が無機物から形成され、それが環境から自立した生命へと形成されるための条件を調べる方向の研究と、逆に今ある生物を一度分解して再構成する合成生物学的研究が必要だが、後者の代表がCraig Ventorらにより進められている、マイコプラズマ遺伝子を削ぎ落として最小自立生物(Minimal Cell)に必要な遺伝子を定義、それを合成してマイコプラズマのゲノムと置き換えた人工生命を完成させた(これについてはhttps://aasj.jp/?s=Ventor&x=15&y=3 の後半に詳しく記載している)。

こうして再構成されたminimal cell (MC)は473個の遺伝子を持っているが、ここまで削ぎ落としても、このうち149個の遺伝子は何をしているのかわからないというのは驚きだ。

今日紹介するCraig Ventor研究所からの論文は、MCが自力で分裂するために必要な遺伝子を特定した研究で、4月29日発行予定のCellに掲載されている。タイトルは「Genetic requirements for cell division in a genomically minimal cell(最小ゲノムを持つ細胞分裂に必要な遺伝的条件)」と素っ気ないが、MCの重要性がよくわかる面白い論文だ。

MCはギリギリのところで生きているため、一つ遺伝子を欠損させても生命が維持できないとすると、機能のわからない149個の遺伝子の機能を調べるのは簡単ではない。一方、MCにはできないことを調べるのはまだやさしい。今日紹介する論文では、900個の遺伝子を持つ、最初の世代のMC-V1と現在のMC-V3を機能的に比べて、473個の遺伝子だけでは難しい生命過程を明らかにしている。

まずMCをバイオリアクターの中で物理的ストレスに晒すと、V1では正常に分裂するにもかかわらず、V3ではゲノムの複製は進んでも、細胞質の分裂がうまくいかず、フィラメント状に核が連なった細胞ができる。また、そこから細胞がちぎれてきても、形が多様になることに気づく。

そこでV3確立の過程で作成した、V1から様々な遺伝子を除去した中間段階の性質を調べ、デザインして再構成したRGD6と名付けた76遺伝子を含むセグメントをV1から除去すると同じ分裂異常が現れることを特定する。さらにこれらの遺伝子をもとに戻す実験を行い、最終的に7種類の遺伝子を特定している。

特定された遺伝子の中で最も注目できるのはFtsZ遺伝子で、原核生物として特定された最初の細胞骨格タンパク質で、この量が上昇すると分裂することが知られている。後の3種類は機能が想像できるが、残り3個の遺伝子は全く機能がわからない。

残念ながら、一つの遺伝子でもとに戻るという結果ではないので、今後はこれら遺伝子セットの動態を調べて一つ一つの機能を特定することが必要になる。幸い、全ての遺伝子は他の原核生物に存在しているため、このように見るべき対象さえ明らかになれば、最初の細胞分裂機構にも迫れるように思う。

進展はゆったりしているという印象だが、いつ読んでもワクワクする。

カテゴリ:論文ウォッチ