4月30日 瘢痕化のない傷の修復(4月23日号 Science 掲載論文)
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4月30日 瘢痕化のない傷の修復(4月23日号 Science 掲載論文)

2021年4月30日
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どんな生物でも外界から障害を受ける危険に晒されている。障害によって生じた損傷を治すのが、再生過程で、爬虫類に至るまで失われた元の組織を再生する能力を有している。ところが、私たち哺乳動物となると、このような能力はほとんど失われている。代わりに、線維芽細胞中心の修復が行われるため、元どおりの組織が回復されることができなくなっている。

なぜ進化過程でこのような修復方法が選ばれたのか理解できていないが、現役時代に設立に当たった、京大の再生研や、神戸理研の発生再生科学総合研究センターの一つの目標は、私たちに正常な組織を再生させる能力を取り戻す方法の開発だった。ただ、線維芽細胞中心の修復が起こりやすい哺乳動物では、まずこの過程を抑えることが重要になる。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、マウスモデルではあるがいわゆる瘢痕化として知られる線維芽細胞中心の修復機構を理解し、それをコントロールする目的に一歩迫った重要な研究で、4月23日号のScienceに掲載された。タイトルは「Preventing Engrailed-1 activation in fibroblasts yields wound regeneration without scarring (線維芽細胞のEngrail-1活性化を抑えることで瘢痕化のない皮膚再生が可能になる)」だ。

このグループは、皮膚損傷により転写因子Engrail1(Eng)が線維芽細胞で発現し、コラーゲンなどのマトリックスを分泌する細胞へと再プログラムされることで、瘢痕が形成されることを示してきた。この研究では、皮膚でEngが活性化するとGFPタンパク質が発現するようにしたマウスを用いて、

  • 損傷部位でEngが活性化した線維芽細胞が特異的に増殖し、瘢痕を形成する。これらの再プログラム過程のほとんどは、Engにより誘導される。
  • Engが活性化される線維芽細胞は、皮膚深部のreticular層に存在しており、機械的な刺激により活性化される。活性化されると、胎児で見られる線維芽細胞と同じ性質を示す。
  • 機械刺激は、Yapシグナル経路を介してEngを活性化する。
  • Yapシグナル阻害剤verteporfinを損傷部位に注射すると、Engの活性化が抑えられ、瘢痕化が起こらない。この結果、修復された皮膚には、正常と同じ毛根の形成が行われ、ほぼ元どおりの皮膚が再生する。
  • 同じことは、線維芽細胞でYapをノックアウトしたマウスでも見られる。また、Engを活性化した線維芽細胞をジフテリアトキシンで除去できるノックインマウスでも同じように瘢痕化は起こらず、元どおりの皮膚が回復する。

以上が結果で、マウスではあるが瘢痕化に関わる主役の線維芽細胞を特定し、この細胞の刺激を抑制することで、線維芽細胞中心から、再生中心の損傷治癒が可能であることを示しており、人間でどうかは今後の問題だが、瘢痕化のないしかも毛根の再生が見られる損傷治癒の可能性を示した画期的な結果だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ