4月8日 ネズミにも幻覚が現れるか(4月2日号 Science 掲載論文)
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4月8日 ネズミにも幻覚が現れるか(4月2日号 Science 掲載論文)

2021年4月8日
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例えば統合失調症の患者さんに現れる幻覚は、おそらく知識がないと、本当のことだと騙されてしまうのではないだろうか。それほど確信に満ちているのがサイコーシスで見られる幻覚や妄想だ。ではなぜ妄想や幻覚が生じるのか?以前解離体験の論文で紹介したように、ドーパミンの分泌を高めると幻覚が生じることが知られており、またドーパミン受容体阻害剤は統合失調症治療薬として使われている。しかし、この過程を動物で研究することは簡単でない。というのも、幻覚や妄想は、周りが見ていないものを見ていると主張する症状なので、主観的な体験をレポートする能力がない動物では実験ができない。

今日紹介する米国コールドスプリングハーバー研究所からの論文は、マウスに幻覚を誘導し、それを客観的に検出できるようにし、幻覚の回路を明らかにしようとした研究で4月2日号のScienceに掲載された。タイトルは「Striatal dopamine mediates hallucination-like perception in mice(線条体のドーパミンがマウスの幻覚様感覚を媒介する)」だ。

さて、どのようにして幻覚を誘導し、それをどのようにして検出するか?ホワイトノイズの中でシグナル音が聞こえたか、聞こえなかったか判断させ、成功すると褒美を与える。この時、5%ぐらいの成功例では褒美が出ないようにしておくと、マウスは一定時間褒美を期待してバーを押し続ける。ただ、シグナル音が聞き取りにくくて自信がない場合は、すぐに判断ミスと諦めるのが普通だ。

このシステムで、もし幻覚が生じたとすると、当然自分が感覚したという自信があるので、なぜ褒美が出ないだろうかと長くバーを押し続けることが期待できる。まずこの予想が正しいかを、音を聞かせる確立を増やしたセッションで、音が聞こえるはずだという期待を高め、聞こえないのに聞いた気になるかどうか調べると、自信を持って聞いたと幻覚している確率が上がることがわかる。

さらに、以前紹介した幻覚を誘導するケタミンを投与して、同じ課題を行わせると、幻覚が発生する確率が上がる。

これを幻覚と結論してもいいのだが、この研究では念を入れて、同じような課題を人間に行わせ、聞こえていない音が聞こえたとレポートしてもらう実験を行うと、マウスとほとんど同じ結果になる。また、正常人の対象だが、様々な精神的症状についてアンケートをとると、この課題で幻覚が現れる確率が高い人ほど、幻覚が現れやすいと自分で答えており、他のサイコーシスの症状も持っていることがわかった。

このように、人間の幻覚に近い現象がマウスでも再現できることを確認した上で、この課題を行なった時、幻覚が現れた行動でのドーパミン神経の反応を見ると、線条体でのドーパミンが、幻覚が現れる少し前に現れ、またそれぞれの部位を光遺伝学的に刺激すると、幻覚が現れる確率が上がることを確認する。そして、腹側側の線条体の興奮が、褒美への期待に関わり、線条体尾部での興奮は、幻覚が現れることへの予想に関わることを発見する。そして、線条体尾部への刺激により、幻覚が現れ、それをドーパミン受容体阻害剤で抑制できることを明らかにしている。

以上が結果で、聞こえるぞ、聞こえるぞと期待した時、聞こえてしまう幻覚と同じとしているなど、少し気になる点もあるが、幻覚の回路を検出しようとし柔軟な脳には恐れ入った。

カテゴリ:論文ウォッチ