4月29日 新しい cryo-SIM/FIB-SEM を使って ER/Golgi 輸送見る (4月29日号 Cell 掲載論文)
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4月29日 新しい cryo-SIM/FIB-SEM を使って ER/Golgi 輸送見る (4月29日号 Cell 掲載論文)

2021年4月29日
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小胞体(ER)で合成されたタンパク質は極めて巧妙な輸送システムを使ってGolgi体へと移送される。この過程は、遺伝子ノックアウトなどの遺伝学的技術、細胞内の分子局在を高分解能で観察する顕微鏡技術の進展により、1編の総説ぐらいでは足りないほど詳しく調べられている。しかし、最後のところでまだ霧に閉ざされた部分が存在していた。その中の一つがER/Golgi輸送過程で、それに関わる分子はわかっていても、どうそれらが組織化され、合成されたタンパク質を輸送しているのか「絵を描くこと」は難しかった。

今日紹介するハワードヒューズ財団自身が持つ研究施設Janelia Research Campusからの論文は、この霧に閉ざされた過程を新しい顕微鏡技術を用いて眼に見えるようにした研究で、新しい技術のパワーに目を見張る。タイトルは「ER-to-Golgi protein delivery through an interwoven, tubular network extending from ER (ERからゴルジへのタンパク質移送はERから突き出した管状構造が編み合わさったネットワークを通して行われる)」。

この研究で用いられたのは、同じ細胞を一種のクライオ電子顕微鏡と超高解像度顕微鏡の両方を用いて観察する技術で、細胞を蛍光染色した後、超低温でタンパク質が壊されないようにして電子顕微鏡で観察し、そのままレジンで包埋して超高解像度顕微鏡で細胞の形態や蛍光標識した分子の局在を可視化、両方を重ねて、さらに3次元に再構築する技術だ。これにより、細胞全体という大きな対象を電子顕微鏡レベルの解像度で、観察が可能になる。読めば読むほど、我が国の光学メーカーからこのような技術が生まれなかったことが残念に思えるし、我が国の科学技術力の低下を思い知らされる。

愚痴はこのぐらいにするが、見えたものは素晴らしいが、美しい景色をその通り描写するのが難しいのと同じで、結局興味がある人は是非論文を見てほしい。

もちろん、この技術では生きたままタイムラプスで観察するのは不可能だ。代わりに、タンパク質がある場所に一度止めておいて、そこから移動を再スタートさせたあとの分単位の経過を見ることができるRUSH技術を用いて、ERからGolgiに輸送されるタンパク質の動態を分刻みで追跡している。また、ERからGolgi輸送に関わる様々なシグナルを阻害して、輸送を止める方法も利用している。すなわち、これまでの細胞学的知識を総動員し、ERからゴルジまでの過程を目で見ることに集中したのがこの研究だ。幸い見てきた結果がまとめられた図はCellのサイトで公開されているのでこれを参考にしてもらえればよい (https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(21)00366-4?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867421003664%3Fshowall%3Dtrue#undfig1)。

実際の論文は、細胞科学の勝利とも言うべき感動に満ちたものだが、全部割愛して、結果だけを以下にまとめておく。

  • ERからゴルジに至るためには、タンパク質を積んだカーゴはERから離れる必要があるが、これはERからERESと呼んでいる管状の構造が伸びる新しい輸送基地へタンパク質を濃縮することで始まる。
  • このERESが伸びているERとの結合部位にはCOPIIと呼ばれる輸送の鍵を握る分子が集まって、おそらくGタンパク質シグナルと協調してERES構造の形成に関わっている。
  • タンパク質を積んだカーゴはここからERESに移動するが、これにはおそらくERESにコレステロールが濃縮することで、膜のダイナミックスを変化させて方向性が与えられる。
  • ERESに輸送されたタンパク質は、次にそこからCOPIの作用により形成されGolgiへと伸びるさらに細長い管を通ってGolgiに運ばれる。この時、このような細長い構造を支えるのが微小管で、これにより安定にゴルジまでの配管が可能になる。

結果は以上で、最後の細長い管状の構造などは、見ることでしかわからないことがあることをはっきりと認識させてくれる。今後、この研究で見た結果をもとに、さらにメカニズムの研究が進むだろう。

このテクノロジーについては、昨年Scienceに発表されていたようで、早速ダウンロードして読んでみたが、感動の論文で、見落としたのを恥いるが、コロナ論文が多すぎてミスってしまったと反省している。しかし、今度はこのテクノロジーを用いたコロナウイルス増殖過程解析をぜひ見てみたいと思う。コロナウイルスは、細胞内小器官の膜を支配する方法を備えている。おそらくそれをみてみることで、新しい創薬も可能になるのではないだろうか。おそらく近々そんな論文が発表されることは間違い無いと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ