4月11日 人間の脳の進化を探る(4月9日号 Science 掲載論文)
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4月11日 人間の脳の進化を探る(4月9日号 Science 掲載論文)

2021年4月11日
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昨日に続いて人類進化の論文を取り上げることにした。

昨日取り上げた2篇の論文からもわかるように、人類の歴史を知る上でゲノムに残された情報解析は欠かせない。しかし、ゲノム情報を媒介するDNAの化学的性質上、必ずどこかで分解の壁が立ちはだかる。事実どれほど保存状態がよくても、100万年前のゲノム解析がようやく可能になったというところだ(https://aasj.jp/news/watch/15022)。

しかし猿から人間への大きな変化は大体150〜200万年前に起こっているため、この過程は今も残された頭蓋骨の化石と、残された石器の精巧性などから判断していくしかない。

例えばこのHPに書いた「生命科学の現在」の中の「言葉の誕生」(https://aasj.jp/news/lifescience-current/10954)を開いていただき、「道具と言葉」のセクションを見ていただくと、アウストラロピテクスから直立原人の過程で、体格の男女差がなくなることの記載がある。このことは、メスをめぐるオスの競争が無くなった、ひょっとしたら一夫一婦制が成立したのではないかと考えられていることが窺える。もし一夫一婦制だとすると、このような社会性を可能にする脳の発達が起こったことになる。

現段階でこのような変化を知るためには、例えば社会性に関わる脳領域についての解剖学に基づき、脳各部位を比較することが重要だが、もちろん脳実質は残っていない。従って、脳実質の構造に合わせて発達した頭蓋内部の構造から、脳実質の変化を検証する必要がある。

今日紹介するスイスチューリッヒ大学からの論文は、様々な原人の頭蓋骨の内部の形態から、サルから人類への変化を定義し、言語やを含む前頭葉の大きな再構成が150万年前のアフリカで起こったと結論した研究で、4月9日号のScienceに掲載された。タイトルは「The primitive brain of early Homo (初期人類の原始的脳)」だ。

今までサルから人間へ、脳が大きくなったと簡単に済ませてきたが、現存のサルと比べると、脳の中心前溝を中心とした、脳溝の位置からより詳しく定義できることがわかる。この研究では、この脳溝の位置を、発達期に頭蓋内部に残された線から推察できることを示し、この方法をこれまで出土した様々な頭蓋に当て嵌め解析している。

最も大きなポイントは、頭蓋が合わさるときに形成される縫合の一つ、冠状縫合と中心前溝に対応する線が交差するのがサルで、その後二股状になった後、直立原人と呼ばれる最も人間らしくなった人類では、完全に分離して並行した2本線になる過程を、多くの頭蓋を集めて解析している。

結果だが、これまで人類に近いか、サルに近いかと議論が続いていた、グルジアで発掘されたドマニシ原人を、直立原人の亜種では無く、類人猿型の脳だと断定している。

同じようにケニアで発掘された170万年前のホモ・ハビリスもサル型だが、同じケニアで発掘された150万年前の頭蓋は、サル型から中間型、そして人類型が混じっており、おそらくこのとき人類型の変化が起こったと提案している。事実、高度なアシューリアン型石器への変化もこれに呼応している。

以上が結果で、ドマニシ人の結果は、まだ人間型の脳を持たない原人もアフリカから移動することがあったことを示すとともに、人間型脳への変化は、やはりアフリカで起こり、しかも同じ時期の頭蓋の多様性として示されていることがわかった。

このような論文を読むと、解剖学の凄さがよくわかったし、知人で言えば倉谷さんや小藪さんの顔が浮かんでくる。

カテゴリ:論文ウォッチ