4月20日 白血球が脳の炎症を抑える(4月15日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
AASJホームページ > 2021年 > 4月 > 20日

4月20日 白血球が脳の炎症を抑える(4月15日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年4月20日
SNSシェア

例えば脳動脈瘤が破裂して脳出血が起こると、その急性効果だけで浮腫が起こり、脳圧が上がるため、脳外科的に血腫を取り除き、脳圧を下げる治療が必要になる。そして、この時期を乗り越えても、今度は出血が刺激になった炎症が発生し、様々な障害が起こる。ただ、他の部位の炎症と異なり、脳での出血後の炎症のプロセスについてはよくわかっていない。

今日紹介する天津医科大学からの論文は、脳出血に反応して誘導される白血球は、脳内に移行して炎症を抑えて、私たちを救っていることを示した研究で、出来過ぎと違うのかと少し訝しくは思うが紹介することにした。タイトルは「Brain injury instructs bone marrow cellular lineage destination to reduce neuroinflammation (脳損傷は骨髄細胞分化を脳の炎症を抑える方向へ誘導する)」だ。

この研究ではまず脳出血を起こした患者さんの脳手術の際に、頭蓋骨から骨髄を採取し、骨髄内での造血を調べ、血液幹細胞の増殖、および顆粒球/マクロファージ前駆細胞の増加が起こっていることを発見する。すなわち、脳出血が何らかのシグナルを発して、骨髄造血を高めることを発見する。

あとは、正常マウスの脳に自己血を注入して、障害なしに脳出血と同じ状態を作成し、この時同じ様に骨髄造血が高まることを確認している。特に、Ly6発現の低い単球の増殖が高まること、さらにこの細胞は炎症を抑えるIL10を分泌することを発見する。

また、骨髄造血細胞を新しくラベルしたあと、血液を注入して炎症を起こす実験を行い、なんと骨髄のLy6-low細胞はマウスの脳に浸潤し、そこでIL-10を分泌するマクロファージに分化することを明らかにしている。ただ、脳組織の検討が行われていないため、この細胞が実際に炎症を抑えているかどうかは確認できていない。すなわち、IL-10を分泌しているから炎症は抑えるのだろうという話になる。

あとは、なぜ脳への自己血の注入が骨髄に働きかけ、その結果Ly6-low細胞が作られるのかという問題について幾つかの実験を行い、以下の結果を得ている。

  • まず脳に血液が注入されるとおそらくアドレナリン作動性神経を介してノルアドレナリンが骨髄で分泌され、それを受けたβ3アドレナリン受容体を介して造血が誘導され、さらにLy6-low細胞が増殖する。
  • β3アドレナリン受容体シグナルは造血細胞のCd42 を誘導し、このG共役型受容体シグナルを介して、造血幹細胞からLy6-low細胞への分化が促進される。
  • マウスモデルで、β3アドレナリン受容体を特異的に活性化すると、出血による脳の障害が軽減する。
  • また、IL-3を投与して、骨髄でのGM前駆細胞の増殖を高めることでも、脳の炎症を抑えることができる。

などを明らかにしている。白血球がTregの様に炎症を抑えるというのは美しい話だし、荒唐無稽というわけではないが、できすぎた気もする。

カテゴリ:論文ウォッチ