たしか肥満に伴って脂肪細胞の数が増えるとカロリンスカ研究所のグループが以前発表していたと思うが、今日紹介する同じカロリンスカ大学の論文は、成熟した脂肪細胞はまず増殖することはないという世間の常識にたって、しかし細胞周期プログラムが活性化されていることを示した研究で、正しければ肥満について新しい展開が開ける。タイトルは「Obesity and hyperinsulinemia drive adipocytes to activate a cell cycle program and senesce(肥満と高インシュリン血症により脂肪細胞の細胞周期プログラムが活性化され、細胞老化が誘導される)」で、10月4日Nature Medicineにオンライン掲載された。
脂肪細胞が増殖するかどうかを問うのはカロリンスカ研究所の伝統の様だが、この研究では痩せ型から高度肥満まで、13人の皮下脂肪組織を提供してもらって、遺伝子発現から調べ、成熟脂肪細胞でも様々な細胞周期プログラムの発現が見られ、肥満の人ほどG2期分子の転写が高いことを発見する。
ただ重要なことは、これまで観察されて来た様に、50万個の成熟脂肪細胞を観察しても、細胞分裂像は一個も見られない。すなわち、細胞周期に入るが分裂前のG2期で停止し、2倍のDNA量を持つ細胞が、特に肥満の人では増加していることがわかる。
このように、G2期のプログラムが発現している細胞の数は、血中のインシュリン濃度と相関するので、フレッシュな脂肪細胞を培養してインシュリンを加える実験を行うと、インシュリンシグナル経路の活性化と並行して、DNA合成細胞の数が増加、これとともに脂肪細胞の大きさが増大することを確認する。すなわち、分裂せずDNAが増大し、細胞が巨大化することを試験管内で再現できた。
このように、細胞周期プログラムが発現したまま、細胞分裂が進まないと、細胞にストレスがかかり、細胞老化が進むが、実際巨大化した脂肪細胞の多くは細胞老化マーカーを発現し、肥満で老化細胞が増加することがわかる。また、試験管内の実験系で、脂肪細胞がインシュリンの作用を持続的に受けると、細胞老化に陥り、様々な炎症性サイトカインを分泌することを明らかにしている。
結果は以上で、結局インシュリンの分泌が高まることが、脂肪細胞を分裂がない細胞周期へと導入し、その結果脂肪を多く蓄積することはできるが、細胞老化が進み、炎症性サイトカインにより、老化が全身に及ぶというのがこの研究の結論だ。
乳ガンに使われるCDK4阻害剤やメトフォルミンが、このような細胞分裂のない細胞周期進行を抑えることも示している。
いずれにせよ、なぜ脂肪細胞が巨大化できるのか、また老化や炎症の中心になるのかについて、面白い答えが出たと思う。