10月21日 遺伝子治療薬の設計の難しさ(10月18日 Nature Medicine                         オンライン掲載論文)
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10月21日 遺伝子治療薬の設計の難しさ(10月18日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2021年10月21日
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現在我が国のワクチン接種率はほぼ70%になりつつあるが、アストラゼネカのアデノウイルスワクチンは言うに及ばず、ファイザー/ビオンテック、モデルナとも、一種の遺伝子治療を受けたとみてもいい。どちらのケースも、身体の中で高いタンパク質合成が得られる様に、様々な工夫が凝らされている。

このとき、必ずしも効果や副反応を完全に見越して遺伝子の設計ができるわけではないことが、まれではあってもアデノウイルスワクチンにより免疫性血栓性血小板減少症が誘導されたことからよくわかる。

今日紹介するフィラデルフィアにある子供病院からの研究は、脊髄小脳変性症の治療のために設計したアデノ随伴ウイルスベクターコンストラクトが、予想外の副反応がサルに誘導されたことについての報告と、その原因についての研究で、10月18日号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「Toxicity after AAV delivery of RNAi expression constructs into nonhuman primate brain(アデノ随伴ウイルスベクターによるRNAi発現コンストラクトのサルへの毒性)」だ。

1型脊髄小脳変性症はAtaxin-1と呼ばれる遺伝子のCAGリピートの数が増えて細胞が変性する病気で、メカニズムはハンチントン病と同じだ。CAGリピート由来のポリグルタミンが細胞変性の原因なので、当然遺伝子発現や翻訳を抑えて、病気発症を抑える遺伝子治療開発が試みられている。

この研究ではAtaxin1mRNAをRNA干渉でノックアウトするmiRNA型の遺伝子治療を開発し、ヒト・サル共通配列部分に対するmiRNAをアデノ随伴ウイルスでパッケージする方法を開発した。この効果や副作用については、これまでマウスを用いて確認が取れたので、人間に応用するステップとしてサルの小脳に注入する遺伝子治療を始めたところ、3ヶ月目から急に運動障害が発生したため、治療実験は中断、副作用の原因を調べている。

病理的にはMRIでも確認できるネクローシスを伴う神経細胞死が誘導されており、このコンストラクトを投与したことで起こることが確認された。ただ、他の病理症状についてはほとんど記載がないので、細胞死という結果しかわからない。ただ、病変カ所の遺伝子発現解析で、強い免疫反応が示唆されているので、もし浸潤はなくても、強い自然免疫反応で細胞変性が誘導されたのかもしれない。

そこで、今回設計した遺伝子コンストラクトを様々に改変して、この毒性の原因を探ったところ、ウイルスパッケージをガイドするコンストラクトの両端に存在するInverted Terminal Repeatが、コンストラクトの長さ調整に用いた遺伝子の影響でプロモーター活性を発揮してしまい、その結果発生したRNA、あるいはそれ由来ペプチドが、神経変性を誘導することを突き止めている。

これを確かめるため、miRNAはそのままで、他の領域を完全に置き換えると、毒性は完全ではないが、強く抑制できることを示している。

結果は以上で、細胞死が誘導されたメカニズムは、誘導された免疫反応の内容も含めて明らかにはなっていない。しかし、

  1. アデノ随伴ウイルスコンストラクトに用いるInverted Terminal Repeatも、間にコードされている遺伝子によっては、設計とは異なる遺伝子転写を誘導するプロモーター活性を持つこと、
  2. このような転写が起こると、おそらく自然免疫系を介して(これは勝手に私が解釈している)、神経細胞死が誘導されること、
  3. そして、マウスでは完全に安全性が確認されていても、動物が変わるとプロモーター活性が出てしまうこともある、

が、この研究で明らかになった。

メカニズムはクリアでないにせよ、脳への遺伝子治療が急速に増加することを考えると、心に留める必要がある研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ