10月28日 新しい脳内GPS研究(10月20日 Nature オンライン掲載論文)
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10月28日 新しい脳内GPS研究(10月20日 Nature オンライン掲載論文)

2021年10月28日
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オキーフとモザー夫妻がノーベル賞を受賞し、外界に存在する現実の場所やグリッドに対応して脳内に地図が形成される過程が、脳内GPS として話題になったのは、2014年のことだ。一般の人はほとんど覚えておられないと思うが、この分野の研究は現在も盛んで、分野外の人間にもわかりやすく、面白い論文が多い。

ただ、外界の場所に対応する細胞は、サルや人間ではなかなか特定できず、場所を記憶するときのインプットの違いが、場所細胞が鮮明に現れるかどうかを決めるのではと考えられていた。

今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校からの論文は、視覚情報が完全にバーチャルリアリティ(VR)でコントロールされた条件で、顔の向きと動いた距離とだけで、目に見えないゴールを探す、一種水迷路と呼ばれる課題に近い課題を設定し、課題を繰り返すうちにゴール達成時間が短くなる学習過程での海馬の神経活動を調べた研究で10月20日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Linking hippocampal multiplexed tuning, Hebbian plasticity and navigation(海馬の複合的調整、ヘッブ可塑性、そしてナビゲーションの関係)」だ。

実際には4メーターほどの空間を視覚的VRで実現し、ラットは回転するボールの上で歩くと、外界がそれに合わせて変化するようになっている。基本的には水迷路課題を、スタート場所を変えて行わせる。水迷路と同じで、課題を繰り返すうちにストレートにゴールに到達するようになる。

このときの400個弱の神経活動を記録して、迷路を移動する時の何に神経が反応しているのかを調べる。詳細を省いて結果をまとめると、次のようになる。

  1. 外界から来る情報に基づく場所に対する反応は強くなく、これまでラットで行われてきた単純な迷路実験とは全く異なる。
  2. 場所に対応する細胞は、迷路のスタートポイントと、ゴール近くに集中している。
  3. 代わりに、歩いた距離、そして目指す方向性にリンクした細胞のクラスターがナビゲーションに大きな役割を果たしている。
  4. これまで、場所の特定は異なる神経細胞で表彰されていると考えていたが、この課題では、驚くことに一つの神経が外界からわかる場所、距離、そして目指す方向性の2つあるいは3つの情報を同時に含んでいる。
  5. 課題を繰り返すうち、確かに一個の細胞の興奮スパイク数も少しは上昇するが、興奮する細胞の増加の方がもっと著しい。

結果は以上で、

場所、距離、向きを総合して最終的に場所記憶が成立する状況がラットを用いて再現できること、それぞれの情報を統合して表象する細胞が存在すること、そして学習により、一つの状況に対応する神経細胞クラスター内の、シナプスの結合性の高まりを基盤とするネットワークされた細胞数が増加することで、熟練していくことが示された。最後のシナプス結合可塑性を通した細胞のリクルートのことが、タイトルにあるヘッブ可塑性になる。

以上、実験がVRになればなるほど、今後は創意に満ちた研究が可能になる例だと思う。例えば、東京から急にパリに飛んだらどうなるのかなど、面白い実験ができそうだ。

カテゴリ:論文ウォッチ