10月22日 赤血球の新しい機能:自然免疫の増幅(10月20日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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10月22日 赤血球の新しい機能:自然免疫の増幅(10月20日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年10月22日
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実は赤血球の存在しない魚がいる。赤血球だけでなく、ヘモグロビンも欠損している。Ice Fishというスズキ科の魚で、低温でじっと暮らす様になった結果、血管を発達させて、液体に溶けた酸素をそのまま使う様になり、赤血球が必要なくなった。低温が先か、赤血球喪失が先か、難しい問題だが、Ice Fishが示すのは、酸素を運ぶ必要がなくなると、赤血球は必要ないという点だ。

だからといって、赤血球の機能を酸素を運ぶだけと考えるのは間違っていることを示す論文がペンシルバニア大学から10月20日号のScience Translational Medicineに発表された。タイトルは「DNA binding to TLR9 expressed by red blood cells promotes innate immune activation and anemia (赤血球表面のTLR9に結合したDNAは自然免疫を促進し貧血を誘導する)」だ。

このグループは感染した細菌やウイルスのDNAや分解途中のミトコンドリアDNAと結合して自然免疫を誘導する受容体TLR9が赤血球という意外な細胞に発現していることを発見しており、この発見の意味を問うたのがこの研究だ。実験は複雑ではないので、結論を箇条書きにすると次の様になる。

  1. 赤血球は通常状態でもTLR9を表面に発現しており、細菌感染などでその量は上昇する。またTLR9を介してCpGモチーフに富むDNAと結合することができる。
  2. 試験管内だけでなく、敗血症患者さん由来の赤血球は、DNAとの結合能が上昇している。以上のことは、細菌から放出されたDNAや細胞死に伴い放出されたミトコンドリアDNAは赤血球に結合して隔離されることも示している。
  3. TLR9とDNAの結合が高まると、メカニズムは定かではないが、赤血球表面が凸凹するとともに、赤血球の貪食を防ぐCD47の発現が低下する。
  4. その結果、脾臓などでの赤血球の貪食が高まり、結果貧血が誘導されるとともに、細胞内に運ばれたDNAにより強い全身性自然炎症が誘導される。
  5. TLR9ノックアウトを用いた実験で、TLR9欠損赤血球は、当然DNA結合が見られないのとともに、赤血球貪食は亢進せず、また自然免疫誘導も低下している。
  6. 赤血球だけでTLR9が欠損したマウスにCpGDNAを投与すると、サイトカイン分泌が低下する。このマウスで敗血症を誘導すると、正常マウスと比べ赤血球の貪食、炎症性サイトカインの分泌が期待通り低下する。
  7. 最後に、同じメカニズムがCovid-19感染でも見られないか調べ、入院が必要な患者さんでは赤血球上に結合したミトコンドリアDNAが上昇しており、重症化するほど赤血球上のDNA量が上昇する。
  8. 赤血球上のミトコンドリアDNA量と貧血とが相関する。

結果は以上で、赤血球がこれまで知られていなかった新しい機能、すなわち末梢での炎症を感知して、全身の自然免疫反応を誘導する役割を持つことが示された。

なぜこのような仕組みが進化したのか考えるのは面白い。この論文では、赤血球成熟過程でおこるミトコンドリアオートファジーのモニタリングのために進化した可能性を示唆しているが、納得できる。

またCovid-19でも示された様に、表面に発現したTLR9が全身性の自然免疫を誘導するなら、TLR9に対する抗体によりサイトカインストームを抑えるという治療法も示された。大変面白い論文だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ