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7月30日 経験の抽象化と記憶(8月18日号 Neuron 掲載論文)

2021年7月30日
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生命誌研究館に在籍中は、現役時代にはほとんど読むことのできなかった様々な分野の研究論文や本を読んで、その時考えたことをまとめておいた。その時の内容は、このHPでは生命科学の現在https://aasj.jp/lifescience-current.html)としてまとめている。少し古くなったかもしれないが、普通大学ではなかなか系統だって習えない分野だと思うので、是非ご覧いただきたい。

この中の言語の誕生https://aasj.jp/news/lifescience-current/10954)には人間特有の言語に必要な条件について書いているが、私たちが経験する感覚インプットを、一度抽象化し、具体的なイメージとは異なる(言語の場合)音節と連合させることが、記憶力を高めるのにどれほど貢献しているかについてまとめておいた。ただ、この時はこの問題を扱った文献を紹介できなかった。

今日紹介するParis-Saclay大学からの論文は、まさにこの課題を扱った研究で、複雑なイベント情報を記憶するために、私たちの脳は、イベントの経験を法則化や抽象化していることを示した研究で、8月18日号Neuronに掲載される。タイトルは「Mental compression of spatial sequences in human working memory using numerical and geometrical primitives(人間は作業記憶形成時、空間的なイベントを数的•幾何的因子を用いて脳内で圧縮する)」だ。

門外漢には理解しづらい論文だが、人間の脳科学で用いられる方法論がよくわかる研究だと思う。

課題は円状に並んだ8つの点を、一定の法則に従って結ぶ矢印(すなわち点Aから点Bへの矢印)が画面上に現れるのを見ているうちに、いつ法則に気づくかを調べている。ただ法則は数多く存在するため、当然複雑になるとパターン予測は難しくなる。

実際には、矢印の提示を11回見ている間に、いつ法則に気付いて予測ができるようになったかを被験者にボタンで教えてもらう。また、パターンを覚えておいたあと、パターンに合致しない矢印を提示し、間違いに気づくかを調べる。

そしてこの課題を行なっている間に脳磁図を記録し、被験者の脳の活動パターンを計測している。通常、脳磁図解析は、行動に対応する脳部位を特定するために利用されるが、この研究では全く違う使い方がされており、なるほどと納得する一方、脳が上手く働いていると言う以上のことがこのような研究から明らかにされるのかと心配にもなる。

この研究では、課題を行う一定期間に記録した脳活動を機械学習させ、被験者の脳と同じように、機械も正しい判断ができるようになるか、そしてできるようになった場合、どのような情報を使って正確な予測が可能になっているか、を調べている。

期待通り、脳の活動パターンを学習した機械は、問題に向かっている被験者の脳の活動から、問題提示後150msで被験者が出す答えを予測できるようになる。すなわち、脳の活動パターンをデコードできたことになる。

面白いのは、問題が提示される少し前から活動している脳のパターンを組み入れると、初めて被験者の判断を正確に予測できる点で、それまでの学習で得られた抽象的な条件が、脳へのインプットが始まる前から活動していることがわかる。

もちろん、それぞれのドットの場所や、現れる順番認知に関する脳の反応パターンも機械学習でデコードすることができる。そして、順番回数に対応する脳のパターンは問題を解く間に周期的に現れる。

以上のように、実際のイベントの作業記憶が、数や順番、そしてそれをさらに抽象化した法則として脳内に記憶され、実際の体験を評価するのに使われていると言う結論になる。

基本的には、脳活動を解析するのではなく、脳活動が機械学習で予測可能になるかだけが実験のアウトカムなので、古い頭ではどうしても戸惑ってしまうが、脳の活動から行動を予測できるようになったので、次は脳のどの部位の、どの時間の活動がデコードに重要かが明らかになると、言語野の関与をはじめ、体験の抽象化やカテゴリー化の謎も解けるかもしれない。

このテクノロジーの究極を、例えでわかりやすく言うと、藤井聡太さんの対戦中の脳活動を機械学習させ、藤井二冠の次の手を予測するというゴールがあるように思う。その時、どの要素が機械学習結果に大きな貢献をするのか、興味がある。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月29日 ウイルスもヒストン遺伝子を持っている(8月5日号 Cell 掲載論文)

2021年7月29日
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感染される人間側から見ると、新型コロナウイルス粒子で一番重要なのは、当然、感染に使うスパイク分子ということになるが、ウイルスから見たら、ウイルス粒子の中で壊れやすい一本鎖RNAと結合して、絡まないよう守ってくれるNタンパク質は重要だ。

ウイルスの核酸を想像しているとき、ほとんどの人は裸の核酸を頭に浮かべているが、ウイルス粒子内で核酸と結合しているタンパク質は重要で、この差がウイルスの核酸の様式を決めていると思う。例えば、全ての真核生物の線状DNAがヒストンと結合してヌクレオソームを形成していることから考えると、原核生物と同じような環状DNAを持つウイルスと線状DNAを持つウイルスでは、間違いなく核酸と結合するタンパク質の重要性は異なっているはずだ。

今日紹介するフランス・マルセーユの国立科学センターとコロラド大学からの論文は、最近注目の巨大ウイルスの一つ、マルセイユウイルスがヒストンに似た分子を持っており、巨大なウイルスゲノムを畳んでいることを示した面白い研究で、8月5日号のCellに掲載された。タイトルは「Virus-encoded histone doublets are essential and form nucleosome-like structures(ウイルスゲノムにコードされたヒストン2量体はウイルス増殖に必須でヌクレオソーム様の構造を形成する)」だ。

コロナウイルスも大きなウイルスだが、マルセイユウイルス科はさらに10倍以上大きなゲノムを持っており、当然、絡まないようにDNA結合タンパク質が存在すると想像するが、これまでの研究で真核生物のヌクレオソームを形成するH2A、H2B、H3、H4ヒストンに相同のタンパク質をコードする遺伝子を有していており、しかもH2AとH2B、 H3とH4が一つの分子にまとまっていることが知られていた。

と言っても、私にとっては初耳で、イントロンも持つ大きなウイルスゲノムが、しっかり真核生物と同じヒストンを持っているのは驚きだ。

とはいえ、それぞれの相同性は30%しかなく、実際にヌクレオソームを形成しているかどうかを調べるのがこの研究の主目的だ。ただ論文を読んでいくと、ウイルスの精巧さがよくわかるので、それを頭に置きながら、結果を次のようにまとめてみた。

  1. ウイルス粒子の中のDNAにマルセイユウイルス(MV)ヒストンは存在して、DNAと結合している。
  2. MVヒストンはホスト細胞内で核だけでなく、ウイルスの転写や粒子形成が行われるウイルス工場にリクルートされ、ウイルスクロマチンを形成する。この結果は、ウイルスが真核生物のヌクレオソーム進化に関わった可能性すら示唆する。
  3. ウイルス工場は感染後期に働きだす。すなわち、感染後すぐウイルスゲノムはホスト核内のメカニズムを使って転写を行うが、その後何らかのシグナルにより、核膜の機能が低下し、多くのタンパクがウイルス工場で利用できるようになる。
  4. 4種類のヒストンにDNAが巻きつく基本構造はほとんど同じであることがクライオ電顕を用いる構造解析でわかる。ただ一つのヌクレオソームに結合するDNAの長さは120bpと短い。
  5. 詳細は省くが、真核生物のヒストン4量体と比べると、様々な構造的違いを認めることができる。その結果として、真核生物のヌクレオソームと違い、DNAがオープンになりやすくなっている。これにより、ウイルスゲノムの転写が抑制されることなく維持されるのだろう。ここでは示されていないが、ウイルスゲノムはメチル化されないようにできているのか興味がある。

肝心のヒストン様タンパク質の構造の詳細は全て素っ飛ばしたが、極めて業目的に設計し直されている。これまで、巨大ウイルスというと、巨大で海に漂っている(https://aasj.jp/news/watch/14390)というイメージだけを浮かべていたが、それだけ大きなゲノムを、うまくホストに合わせながら維持するための進化の見本市みたいなウイルスであることがよくわかる。この研究から、次のクリスパーに匹敵するようなテクノロジーすら出てくる可能性がある。今後も注目だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月28日 ガン抗原特異的キラーT細胞をガン組織で解析する(7月21日 Nature 掲載論文)

2021年7月28日
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ガン組織をsingle cell RNA seqで解析した論文は数多くあるが、最大の問題は遺伝子の解析だけでは、検出しているT細胞がガン特異的に反応しているのかどうかわからない点だ。ガン抗原の数が限られている場合は、MHCとペプチドのテトラマーを用いて、特異性を同じ組織で確認することも可能だが、実際のガンでは様々な抗原に反応しているはずで、組織に存在したキラー細胞がガンに反応しているのかどうかは、解析したT細胞の抗原受容体(TcR)を特定し、再構成して、ガンに反応するか調べるという大変な仕事が待っている。

今日紹介するハーバード大学からの論文はまさにこの大変な仕事をやり切った力作で、これからのガン免疫療法に多くの示唆を与えてくれる研究だと思う。タイトルは「Phenotype, specificity and avidity of antitumour CD8 + T cells in melanoma(メラノーマの抗腫瘍CD8T細胞の形質、抗原特異性、そして抗原結合性)」で、7月21日Natureにオンライン掲載された。。

この研究は、5人のステージ3/4のメラノーマ患者さんからバイオプシーで採取したガン組織の細胞と、末梢血をガン細胞で刺激したT細胞についてsingle cell RNA sequencing (sRNAseq)を行い、形質とともにT細胞についてはTcR配列を決定している。このような研究は数多く存在し、少なくともメラノーマでは、組織内に高い頻度で特定のTcRが現れている。すなわちガン抗原特異的T細胞のクローン増殖が起こっていると想定される。

この想定を、出現頻度が高まったガン組織でクローン増殖が起こったと考えられるキラーT細胞のTcR遺伝子を再構成し、正常のT細胞に遺伝子導入し、TcRが反応している抗原を特定したのがこの研究の凄い点だ。そして、ここまでやらないとわからないことは多かった。詳細を省いて、結論を箇条書きにすると、

  1. 出現頻度の高いTcRは期待通り、ガン組織に反応しているキラー細胞だった。ただし、ガン抗原(ネオ抗原orメラノーマ特異抗原)に反応するTcRを持つT 細胞のほとんどは、いわゆる抗原刺激後疲弊したTex細胞だった。
  2. 組織キラーT細胞でガン抗原以外に反応するTcRの多くはウイルス抗原に反応しており、そのほとんどはメモリー型の細胞だった。
  3. メラノーマ特異抗原に反応するキラー細胞TcRの抗原結合性は低いが、ネオ抗原を特定できたTcRとネオ抗原との結合性は高い。また、この結合性の解析から、突然変異によりMHC分子との結合性が高まる場合に、TcRの結合性が上昇した。
  4. 疲弊型Texは末梢血にはほとんど流れてこないが、末梢血でガン組織と同じTcRを持ったTexが多く検出されると、患者さんの予後が悪い。逆に、メモリー型の細胞が多い患者さんでは、予後が良い。

結果は以上だが、この徹底的な研究により、以下のことがはっきり理解できた。

  1. ガン抗原特異的T細胞は組織中に存在し、増殖している。
  2. ただ、疲弊型なのでほとんどは組織内で消滅する。逆に、PD-1抗体でこの疲弊を止めることの重要性がわかる。
  3. これまでガン組織からガン抗原特異的T細胞を分離する試みが行われているが、すぐに疲弊型のT細胞へ分化してしまうことを考えると、TIL採取前から様々なチェックポイントを抑制し、組織内でのメモリー型を増やす必要がある。、また、培養でも疲弊を避ける方法が必要。
  4. 組織内に高い頻度で現れるTcRの解析は、プレシジョンメディシンにとって重要な情報になる。
  5. 疲弊型のT細胞をさらに前駆細胞型と、分化型に分けることができるが、前駆細胞型の多い患者さんの方がPD-1抗体治療に反応する。

この結果が他のガンにも適用できるのかどうかはわからないが、チェックポイント治療の方法や、組織内の自己キラー細胞を活用する治療に向けた大きな一歩が記されたと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月27日 2万年以上前に東アジアでおこったコロナウイルス流行の爪痕(8月23日号 Current Biology 掲載予定論文)

2021年7月27日
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以前、ペーボさんたちが発表した、ネアンデルタール人由来のcovid-19重症化に関わる遺伝子多型(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13992)、および抵抗力に関わる遺伝子多型(https://aasj.jp/news/watch/15012)について紹介した。これらの論文は、我々の遺伝子が強い感染圧力の元で進化してきたことを示唆している。しかし、これら遺伝子多型がネアンデルタール人で起こったコロナウイルス流行の爪痕である可能性は低いと思う。

では、かって人類が遭遇したコロナウイルス流行の爪痕を知るための方法はないのだろうか。今日紹介するオーストラリア・アデレード大学からの論文は、ウイルスタンパク質と直接相互作用を行うホスト側の遺伝子に絞って、世界各地域をカバーする1000人ゲノムデータを比較し、多くの遺伝子領域で25000年以上前のコロナウイルスによる選択の爪痕が見られることを示した研究で、8月23日号Current Biologyに掲載予定だ。タイトルは「An ancient viral epidemic involving host coronavirus interacting genes more than 20,000 years ago in East Asia(東アジアで20000年以上前におこった、コロナウイルスと相互作用する遺伝子が関与するウイルス流行)」。

これまでコロナウイルスタンパク質と相互作用を示すホストタンパク質は400種類ぐらい特定できているが、この研究では、これら遺伝子領域に頻度高く保存されている領域がないか調べ、なんと日本人を含む東アジア人だけで、約50種類の遺伝子にselective sweepと呼ばれる保存されたストレッチが、高い頻度で維持されていることがわかった。

すなわち、東アジアだけで、コロナウイルスと関わる約50種類のタンパク質をコードする遺伝子の多様性を、強く低下させる出来事が、起こったことを示している。もちろん、他のウイルス感染により同じことが起こる可能性はあるが、これまで知られている他のウイルスタンパク質と関わる分子をコードする遺伝子で同じ検索を行っても、ほとんど引っかかってこないことから、コロナウイルスの流行が起こった確率が最も高い。

この領域の保存された長さから、いつ選択されたかなどが推定できるが、これらの遺伝子の頻度は770−970世代前に集中していることがわかる。今回リストできた全ての遺伝子で、この選択はほぼ同じ時期(世代数から25000年以上前と計算できる)に起こり(すなわち頻度が上昇し)、その後は大きな変化はない。

それぞれの遺伝子の発現と多型との関係を調べると、基本的には発現調節領域に関する多型で、遺伝子そのものの機能を変化させる変異はほとんど観察できない。

面白いことに、この遺伝子多型のほとんどは、肺を中心に、Covid-19の病態に関わる組織や臓器に発現しているが、重症化や感受性に相関するゲノムを調べたときに必ず登場する免疫機能との相関は低い。現在のcovid-19への抵抗力や感受性を調べると、当然免疫系の細胞と強く相関する遺伝子多型がリストされるが、最初からウイルスタンパク質との相互作用でホストの遺伝子を選ぶと、免疫系の遺伝子は完全に除外されるのだろう。

以上、読者には本当かどうか確かめがたい結果だが、東アジア人の先祖が25000年前に受けたレッスンが、もし、東アジア人の抵抗力につながっているなら、デルタ型も何とかしのげるかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月26日 小腸で合成された善玉コレステロールが肝臓の炎症を抑える(7月23日 Science 掲載論文)

2021年7月26日
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善玉コレステロール、悪玉コレステロールという用語は、それぞれHDL、LDLに対応する言葉として一般の方に広く認知されている。それぞれが、なぜ身体に良かったり悪かったりするのかについては、理解が進んできているが、炎症という切り口は、両者の機能を考える上で重要だ。

というのも、動脈硬化にせよ、糖尿病にせよ、同じ内因性炎症メカニズムが核になっていることが明らかになり、LDLやfreeコレステロールが炎症を誘導する細胞内のインフラマゾーム形成を活性化することがわかっている。

一方、HDLの作用は血中のコレステロールを回収する働きで善玉コレステロールと呼ばれているのだが、実際にはLPSを中和することで炎症に直接関わることも知られている。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、小腸で作られるHDL3が門脈を通って直接肝臓に入り、クッパー細胞のLPSによる活性化を阻害して炎症を抑える働きがあることを示した研究で7月23日号Scienceに掲載された。タイトルは「Enterically derived high-density lipoprotein restrains liver injury through the portal vein(腸由来のHDLが門脈を介して肝臓障害を抑える)」だ。

まずタイトルを読むと、「HDLは肝臓で作られているのに、腸で合成されたHDLがなぜ必要になるの?」と違和感を感じる。実際、HDL合成に関わるコレステロールトランスポーターABCA1は小腸でも強く発現しており、小腸でのHDL合成の必要性はよくわかっていなかった。

この研究では、まず小腸で合成されるHDLは、肝臓で合成されるHDLより小さなサイズのHDL3と呼ばれるタイプで、門脈中のHDLのほとんどを占めることを明らかにしている。

そして、この小型のHDL3こそがLPS結合性タンパク質と結合して、LPSと自然免疫に関わるTLR4との結合を阻害し、これにより肝臓のクッパー細胞の自然炎症誘導を抑えていることを明らかにしている。実際、肝臓で合成されるHDL2ではこの活性は低い。

この結果から、肝臓で合成できるLDLではなく、門脈へと移行できる小型LDL3をわざわざ小腸で合成することで、肝臓を炎症から守っていることが想像される。そこで、小腸の2/3を切除することで、腸内細菌叢のLPSの門脈への流入を高める方法を用いて誘導する肝臓の炎症モデルを用い、このとき残った小腸でのHDLの合成をノックアウトする実験を行い、期待通り炎症が増強することを確認している。

HDL合成に関わるABCA1遺伝子発現誘導にLXR核内因子が関わることが知られている。そこで、小腸切除による肝臓炎症誘導モデルマウスに、経口的に定量のLXR刺激化合物GW3965を投与すると、この薬剤は残っている腸管内だけで働き、腸内でのHDL合成を高め、肝臓での炎症や線維化遺伝子の発言を抑え、肝臓の炎症を抑えることを明らかにしている。

詳細なデータは全て割愛して結果を紹介したが、なぜHDLをわざわざ小腸で合成する必要があるのか、その理由がしっかり理解できた。

著者らは、この作用がLPSだけに限らないと考えているようで、もしそうなら経口的に少量のGW3965を服用することで、肝臓の炎症一般をかなり抑える可能性すら存在する。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月25日 C型ニーマンピック病の新しい理解(7月21日 Nature オンライン掲載論文)

2021年7月25日
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C型ニーマンピック病はリソゾームに局在するNPC1およびNPC2遺伝子の変異により、リソゾームからコレステロールの排出が障害された結果、リソゾームに脂肪や糖脂質の蓄積が起こり、神経変性が起こる。ただ、このリソゾームの変化から神経変性への過程については理解が進んでおらず、結果リソゾーム内での蓄積を阻害する間接的な治療を除いて、根本的な治療法は現在のところ存在しない。

今日紹介するテキサス大学からの論文は、細胞内の異常DNAを感知するcGASの下流でインターフェロン誘導に関わる分子STINGのリソゾームへの移行機構を研究する中で、ニーマンピック分子NPC1がSTING活性化と抑制に深く関わり、ニーマンピック病の背景にSTING活性化とそれによる炎症が存在することを示した。この発見は、ニーマンピック病病態理解を大きく進展させたこの分野では画期的な研究で、7月21日のNatureに掲載された。タイトルは「Tonic prime-boost of STING signalling mediates Niemann–Pick disease type C(STINGの活性化と強化がC型ニーマンピック病に関わる)」だ。

cGAS-STINGシグナルが細胞内DNAセンサーとして働いて、IRF3を介するインターフェロンシグナルカスケードを活性化することは広く知られているが、このシグナル経路の理解を難しくしているのが、この過程でSTINGが小胞体からゴルジ、そして最後にリソゾームへと移行する過程と、シグナルとの関係だ。この過程をヒントに、GAS-STING経路がオートファジー制御因子として進化したことを示唆する論文については2年前に紹介した(https://aasj.jp/news/watch/9877)。

この研究ではSTINGのオルガネラ間の輸送に関わる分子を特定する方法を用いて、261種類の分子を特定し、その中からリソゾームへ移行したときにSTINGと結合する分子としてNCP1を発見した。すなわち、リソゾームストーレージ病の最も有名な分子と自然免疫の核となる分子が出会った。

そこで、まずNPC1遺伝子ノックアウトマウスを用いて、STINGの状態を調べると、STINGの小胞体からGolgiへの移行が促進され、さらにリソゾーム移行による分解が抑制され、最終的にSTINGの高い活性が維持され、インターフェロン誘導が持続することを発見する。すなわち、NCP1が存在しないと炎症が長期に続くことが明らかになった。

この結果は、ニーマンピック病を自然免疫の観点から捉え直すことの重要性を示しており、この方向で研究が行われている。様々なノックアウトマウスを用いた膨大なデータなので、詳細を省いて要点をまとめると次の様になる。

  1. NPC1ノックアウト細胞ではリソゾームからコレステロールが出てこないため、小胞体でのコレステロール量が減り、小胞体からゴルジへの小胞体輸送が活性化される。もともとSTINGは、DNAと結合したcGMPにより生成されるセカンドメッセンジャーにより活性化されるが、小胞体輸送が活性化されると上流のシグナルとは無関係に、STINGがSERBP2に結合し、ゴルジ輸送経路へと乗せる過程自体がSTINGの活性化を誘導する。
  2. リソゾームでNCP1はSTINGのアダプターとして働き、STINGのリソゾーム移行による分解を促進する。すなわち、NCP1ノックアウトではSTINGの分解が進まず、結果活性化されたSTINGシグナルが抑制されず残る。
  3. NCP1ノックアウトマウスの神経病態は、STINGノックアウトで著名に改善する。すなわち、ニーマンピック病はストーレージ病だけでなく、神経の自然炎症が増強した結果発症する病気として捉えられる。
  4. ニーマンピック病の症状は、STING下流のシグナルをノックアウトすることで改善するが、cGASの様な上流シグナルをノックアウトしても改善しない。すなわち、細胞内DNAセンサーとは無関係に、STINGが活性化される。
  5. NCP1ノックアウトによるSTINGシグナル活性化は、ミクログリアだけでなく、神経細胞自体の細胞死を誘導する。

以上、ニーマンピック病の原因分子、NCP1欠損、そしておそらくNCP2欠損でも、コレステロール動態が狂い、小胞体からゴルジ輸送を高める結果、上流のシグナルとは無関係にSTINGがゴルジ輸送システムに結合し、その活性化が誘導され、炎症シグナルがオンになる。さらにNCP1がはSTINGのリソゾーム移行による分解も抑制するため、スウィッチが入った炎症シグナルを止めることができず、炎症が持続する。その結果、神経細胞が直接、あるいはミクログリアを介する炎症により変性することで、ニーマンピック病の神経症状が誘導されるという結果だ。

これまでストーレージ病として納得してきたのとは全く異なるメカニズムが示された。この結果が重要なのは、STINGによる自然炎症シグナルを抑制する様々な薬剤がニーマンピック病にも利用できる可能性が出てきたことで、個人的には大きく期待したいと思っている。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月24日 小胞体ストレス応答を用いてガンを殺す治療:乳ガン治療のゲームチェンジャーになるか(7月21日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年7月24日
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昨日は、既存の分子標的薬を論理的に組み合わせるガン治療を紹介したが、今日紹介するイリノイ大学からの論文は、ガンが増殖のために獲得してきたERストレスに対応するメカニズムを逆手にとって殺してしまう、新しいメカニズムを用いた抗ガン剤の開発研究で、7月21日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A small-molecule activator of the unfolded protein response eradicates human breast tumors in mice (小胞体ストレス応答を活性化してマウス内でヒトの乳ガンを根絶する)」だ。

この研究を理解するには、Anticipatory Unfolded Protein Response活性化を理解してもらう必要がある。unfolded protein response(=小胞体ストレス反応:UPR)は、京大の森さんが発見した機構で、タンパク質が折り畳まれる前に小胞体に停留するストレスを感知するシステムで、シャペロンの合成を促し、翻訳を抑えてストレスを除去する。正常細胞より高い増殖を必要とするガン細胞では、増殖シグナルの下流で、予めUPRを適度に活性化して、通常より多くのタンパク質を急に合成して高い細胞活動を維持する仕組みを持っている。

このグループは、ガンがエストロジェン受容体(ER)を介して急速な転写を行うために、ER依存的にUPRを活性化する経路を、化合物を用いてさらに高めることで、小胞体ストレスをさらに上の細胞死を誘導する段階に誘導して、ガン細胞を殺す方法の開発を目指して研究してきた。これまでの研究でBHP1と呼ぶER結合性の化合物を開発し、ERを発現する細胞を完全に殺せることを示していたが、臨床に用いるには様々な問題があった。

メディシナル・ケミストリーを用いて、BHP1を至適化したErSOと呼ぶ化合物を開発し、この効果を確かめるための実験を行ったのがこの研究で、ErSOがER発現細胞特異的に、UPRを活性化し、細胞死を誘導して乳ガンの治療に使えるか確かめている。

ER陽性の乳ガンには、すでに治療のためにER阻害剤が用いられているが、これはER機能を抑制することで効果が発揮されるが、細胞を直接殺す作用はない。一方、ErSOがERと結合するとPLCγを強く活性化しUPRを活性化することで、直接細胞死を誘導できる。

結果をまとめると、

  1. ERを発現する乳ガン細胞株は全てErSOにより迅速に細胞死に陥る。
  2. マウスに乳ガンを移植する実験型で、ErSOは完全にガン細胞を根絶し、少なくとも半年は再発がない。
  3. 静脈にガン細胞を注入する転移ガンモデルで、ErSOは完全にすべての転移ガン細胞を根絶できる。
  4. エストロジェン非依存性の乳ガンもERを発現していれば、ErSOで根絶できる。
  5. 低用量でわざと再発を誘導して、耐性が獲得されているか調べると、全く耐性は獲得されておらず、通常用量で根絶できる。
  6. この効果は、おそらくSrcなどの活性化が見られるガン細胞のみ誘導され、正常のER発現細胞にはErSOの影響は少ない。
  7. これまでの生化学的研究から想定される様に、ErSOはSrcを介してPLCγを活性化し、強いUPRを誘導することで、ER陽性細胞を殺す。

以上が結果で、ERが一定レベル発現されて居れば、ER自体の機能とは無関係に、UPR反応をん防御的に高めているガン細胞のみを、殺せるという、あまりにも良くできた結果だと思う。もし臨床応用まで進めばER発現しているガンに限るが、画期的な治療法になると思う。また、ER自体の機能とは無関係に、UPRを活性化できるので、治療の難しい卵巣ガンにも効果が期待できる。なんとか、臨床まで持ってきて欲しいし、同じメカニズムの化合物を他のシグナル経路でも開発して欲しいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月23日 分子標的薬を組み合わせた論理的治療(7月21日号 Nature 掲載論文)

2021年7月23日
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今日、明日と、最近気になった分子標的治療について紹介したい。まず今日紹介する上海ガン研究所とオランダ・ガン研究所からの論文は、甲状腺ガンや肝臓ガンなど様々なガンに用いられているレンバチニブの肝臓ガンへの効果がEGFR 受容体と組み合わせることで大きく高まることを示した研究で、7月21日号Natureに掲載された。タイトルは「EGFR activation limits the response of liver cancer to lenvatinib(EGFR活性化が肝臓ガンのレンバチニブに対する反応を制限する)」で、7月21日号のNatureに掲載された。

分子標的薬は一般に一つの分子を特異的に抑制することを目標にするが、一部のキナーゼ阻害剤は、複数のキナーゼをまとめて阻害する力を期待して利用されている。我が国のエーザイが開発したレンバチニブはその代表で、VEGFR、FGFR、PDGFR、c-Kit、RETなどのシグナルを同時に抑えることが知られ、特に手術ができない肝臓ガン、甲状腺ガンに世界中で利用されている。

ただ、肝臓ガンの中でレンバチニブに反応するのは2割程度で、効果を上げるための研究が進んでいた。この研究では、まず、レンバチニブに反応しなくなったガン細胞のリン酸化に関わる酵素をCRISPR/Cas9でシラミ潰しにノックアウトし、レンバチニブの作用を再活性化する分子を探索し、EGFRシグナル経路をノックアウトすると、肝臓ガンがレンバチニブに反応する様になることを発見する。この発見が、研究のハイライトで、あとはEGFRを阻害する薬剤との組み合わせで同じ効果が得られるか、細胞株を用いて調べ、以下の結論に達している。

  1. EGFR発現の高い肝臓ガンでゲフィニティブなどのEGFR阻害薬が、レンバチニブと強調して高いガン抑制活性を発揮する。
  2. 複数のキナーゼを阻害するからと言って、レンバチニブと同じ効果があるわけでははなく、ソラフェニブはEGFR阻害剤と組み合わせても効果がない。これは、レンバチニブがソラフェニブにはないFGFRを阻害活性を持つからで、EGFRを高発現する肝臓ガン細胞の場合、FGFRとEGFRの両方を阻害して、下流のMEK-ERK経路とともに、PAK―ERK経路を抑制することで、FGFR-MEK-ERK経路を完全に遮断でき、ガン増殖を抑えられる。
  3. レンバチニブの場合、FGFR阻害効果だけではなく、VEGFR阻害による血管新生を抑制するとともに、NK細胞の活性を高めることも、ガンの制御に貢献している。

以上の結果に基づいて臨床利用についての研究を行い、

  1. ガン組織検査でEGFRの発現が高い患者さんは、レンバチニブの効果が低く、言い換えるとレンバチニブで増殖が抑制されると、EGFR経路を用いてFGFシグナルをバイパスして、レンバチニブ効果を制限している。
  2. 治療に反応しなくなった12例の肝臓ガン患者さんを対象に、レンバチニブとEGFR阻害剤ゲフィニティブを併用すると、4例でpartial response、4例でガンの進行抑制が見られた。

結果は以上で、現在利用されている薬剤の組み合わせで効果が得られていることから、有望な治療法になると期待できる。ただこれほど論理的な治療の場合、万策尽きて利用するのではなく、乳ガンと同じ様に、ファーストラインの治療として、アジュバント治療、さらにはネオアジュバント治療としても使っていける可能性がある。これが成功すると、肝臓ガンの治療成績は飛躍的に高まるではと期待している。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月22日 意外なメラニン合成促進法(8月5日号 Cell 掲載論文)

2021年7月22日
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私にとって色素細胞は、血液細胞と並んで最も馴染み深い細胞だが、メラニンが形成される複雑な過程は、今なお把握し切れていない。実際、メラニンは「黒」か「白」かという単純なものではなく、メラニン自体EumelaninとPheomelaninに分かれ、皮膚の色の違いをもたらす。さらには、メラニンはメラノゾームと呼ばれる細胞内小器官で合成されたあと、細胞間移行によりケラチノサイトに受け渡され、この細胞過程でも色素の濃さが変化する。そして、これら全ての過程を調節するのがMSHそその受容体MCRシグナルで誘導されるマスター遺伝子MITFで、これら全ての過程の総合として、私たちの皮膚や毛の色が決まっている。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、ミトコンドリア膜のNNT(nicotinamide nucleotide transhydrogenase)を介する還元反応が、メラニン合成経路の酵素活性を変化させて、皮膚のメラニン量を変化させる可能性を示した研究で、少しマニアックだとは思うが、皮膚の色素量を変化させる新しい介入ポイントとして可能性のある標的になるように思う。タイトルは「NNT mediates redox-dependent pigmentation via a UVB- and MITF-independent mechanism(NNTは酸化還元反応依存性の色素形成をUVやMITF非依存的に行う)」だ。

タイトルを見て、メラニンや色素細胞形成のマスター分子MITFに依存しないで色素形成を変化させられるのか、と驚いて読んだのだが、実際には勘違いで、この経路は転写とは関係なかった。おそらく活性酸素とメラニン形成の関係を研究するためだったのではと想像するが、メラニン形成メラノーマ細胞のNNT(プロトン勾配を用いてNADH―NAD反応を調節、活性酸素を調節している)をノックダウンする実験をまず行い、NNT が欠損するとメラニン合成が高まることを発見する。

この効果が、メラノゾームとメラニン形成の核過程が増強される結果だが、MITFによる転写経路を介さないことを確認したあと、この効果がメラニン合成の鍵分子、チロシナーゼが安定する結果であることを発見する。すなわち、チロシナーゼはNNTによる酸化還元反応が関わる何らかの経路を通して、チロシナーゼの分解に関わっていること、そしてNNTノックアウトによりチロシナーゼが安定化する結果、メラニン合成、メラノゾーム形成が増強されること、を明らかにした。

あとは、ゲノムデータベースを用いて、NNT遺伝子の多型を調べ、その中の11種類の多型が、皮膚のメラニン形成と相関していること、またこの多型のいくつかはNNT遺伝子発現量と逆相関することを明らかにしている。

最後に、NNT阻害剤を皮膚に塗布することで、メラニンの合成を増やして、紫外線から皮膚を守れることも明らかにしている。

残念ながらNNTによるミトコンドリア内のNAD;NADPH合成から、チロシナーゼ分解までの経路が明確になっていないので研究が必要だが、NNTをうまく増強することで、活性酸素を抑えながらかつ美白につながる方法も開発できるかもしれない。

以上が結果で、色素細胞に興味のある医療や美容の研究者には面白いヒントがあるかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月21日 抗体反応を胚中心の反応として捉える(7月16日号 Science 掲載論文)

2021年7月21日
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すでに6割の高齢者がワクチン接種を終えた。私たち夫婦も、昨年の秋mRNAワクチン治験論文を読んで期待したように、接種が終わった6月以降は海外旅行以外、かなりノーマルな生活に戻って楽しんでいる。ただ抗体ができているかどうかは直接確認できておらず、ワクチン効果は論文と自分自身の様々な感染症に対する経験から推察するしかないので、変異株が猛威をふるう今、気持ちが100%ノーマルになることはないだろう。

血中の抗体の上がり下がりのほとんどは、リンパ組織での免疫に関わる数種類の細胞の相互作用の様式の変化を反映したもので、この細胞相互作用が行われる場が、免疫後にリンパ節などで新たに形成される胚中心という構造だ。すなわち抗体が上昇するフェーズで胚中心が形成成長し、抗体が下降するフェーズでは胚中心が縮小、最終的に消滅する。このおかげで、迅速に抗体反応が起こり、また一定期間後反応が低下し、免疫の暴走が止まるようにできている。

今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、免疫反応が暴走せず胚中心が退縮する過程を、生きたマウスのリンパ節の長期観察を含む様々なテクノロジーを動員して解析し、ヘルパー細胞から抑制性T細胞への転換が胚中心退縮の引き金になることを示した力作で、動物モデルではあっても免疫反応がこのレベルまで解析できるようになっているのかと、強い感銘を受けた。タイトルは「Expression of Foxp3 by T follicular helper cells in end-stage germinal centers(濾胞ヘルパーT細胞のFoxp3発現が胚中心の終期に起こる)」だ。

胚中心は、抗原を取り込んだ樹状細胞の周りに、B細胞とTヘルパー細胞が集まって、反応が進むリンパ組織内で起こる一種の炎症反応と見ることができる。この反応は極めて複雑だが、とりあえず上昇期はB細胞と濾胞Tヘルパー細胞(Tfh)の動態を抑えておけば、反応をモニターできる。一方、退縮期に入ると、免疫を抑える濾胞Treg(Tfr)が加わって、B細胞がTfhの支援を阻害すると考えられる。

この研究では、NP-OVAを抗原として、NPに反応するB細胞、OVAに反応しているTfh, Tfr、それぞれの動態を経時的に観察するモデル動物を用いて、抗原注射後支配リンパ節で見られる反応をモニターしている。詳しくは紹介しないが、脳研究の光遺伝学レベルのシステムが免疫でも揃っていて、胚中心の消長を細胞レベルで観察できるようになっている。結果をまとめると、以下のようになる。

  • Tfr機能マーカーFoxp3陽性細胞数は、胚中心の退縮が始まる前に急速に増加する。
  • Foxp3陽性細胞の振る舞いを、例えばB細胞との接触時間などを指標に観察すると、上昇期と退縮期では質的変化が見られる。さらに、上昇期、退縮期前でTfhとTfrが発現するTcRを調べると、上昇期では全く一致しなかった両者が、退縮期にはいると同じTcRを発現している頻度が高まる。
  • 以上のことから、Tfrは胚中心外から移動してくるのではなく、TfhがFoxp3を発現して、Tfr型へ転換すると考えられる。実際、single cell RNAseqでそれぞれの遺伝子発現を調べると、退縮期のTfrは、TfhとTfrの両方の性質を持った細胞になっている。
  • 最後に、タモキシフェンでFoxp3発現を強制誘導できるようにしたTh細胞を移植して胚中心を形成させた後、まだ上昇期の間にFoxp3をThで強制発現させると、胚中心が退縮を始める。

すなわち、胚中心の形成に関わったTfhが、一定の条件(TcRシグナル変化やTGFβシグナルなどが想像されるが、決定はされていない)下でFoxp3を発現し、T細胞とB細胞の反応を止めて、胚中心の退縮にも関わることが明らかになった。

今後、この仕組みが、長期記憶にも関わっているのかなど、面白い研究が続くように思う。抗体反応研究の総合力をまざまざと見せつける力作だと感銘を受けた。

余談になるが、ここで使われているシステムは、1980年代、私が留学していたRajewskyの研究室で開発していたシステムで、B細胞のイディオタイプをB1-8と記載されているのを見ると、40年前を懐かしく思い出した。

カテゴリ:論文ウォッチ
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