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3月1日 Treg細胞を選択的に増殖させるペプチド薬の設計(2月25日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年3月1日
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3月10日夜7時からジャーナルクラブを開催する予定で準備しているが、今回のタイトルは「中国の創薬」にしようと考えている。というのも、論文を読んでいてこの2−3年、中国アカデミア(製薬企業は除外している)の創薬が創造的で一段高いレベルに到達しているのを強く感じるからである。もちろん人口や資金など量の問題もあるが、それぞれの論文について我が国も真剣に学ぶ必要があると考え計画した。特に政治レベルの緊張関係が存在し、嫌中国が広まる今こそ、中国アカデミアの躍進を冷静に分析することが必要になる。

今日紹介する中国上海にある同済大学からの論文も、免疫の制御に坂口さんのTregを選択的に誘導する方法を開発するという世界共通の課題に、かなりユニークな手法で取り組んで、6アミノ酸がつながったペプチド薬を開発した研究で、2月25日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「A peptide immunomodulator activates MST1 to expand and stabilize murine and human regulatory T cells for immune tolerance(MST1を活性化する免疫刺激ペプチドはマウスと人の制御性T細胞を増やし安定化することで免疫トレランスを誘導できる)」だ。

ペプチド薬は現在創薬研究の重要なモダリティで、我が国では中外製薬が有名だが、この研究ではTregを選択的に増やすペプチドを探索している。この研究がユニークな点は、この探索にあたって通常では考えつかないような生成AIを用いている点だ。現在創薬に大規模言語モデルが使われるようになって、膨大なデータを学習させたモデルが世界中で作られているが、この研究はわざわざ一昔前の、しかも小さなAIを用いる方法を開発している。

その詳細だが、ニューラルネットにタンパク質やペプチドライブラリーを学習させる代わりに、この研究ではタンパク質に存在する構造化していない領域 (IDR) だけを取り出して学習させている。すなわち、Tregの維持に様々なタンパク質がIDR部分を介して相互作用するはずで、これを学習させてそのコンテクストを拾うことでペプチドが設計できると考えた。

コンテクストを拾うために、例えば Transformer などの最新の方法を使うわけでなく、学習したIDRから様々な長さのペプチドストレッチを単語の繋がりのように抽出する N-gram という一昔前の深層学習法を利用している。しかもこの研究では、データベースよりTregで働いていることが知られるたった53種類のタンパク質のIDRを学習させ、N-gramで、2ペプチドから6ペプチドまでの n-gram=ペプチド を設計させ、その中からT細胞に加えた時Foxp3陽性細胞が強く誘導されるDL-6Pを選び出している。

あとはこのペプチドの作用メカニズムを調べ、最後にさまざまな免疫疾患を抑えるかどうか調べている。まずペプチドが結合する標的を探索すると、Tregの安定性を維持することで知られるMST1キナーゼが特定された。即ちDL-6Pが結合することで、MST1が安定したホモダイマーを形成する。しかも、この結合によりIL-2下流のJAK-STAT5シグナルを押さえるSOCS1にMST1が結合してシグナル抑制を外してIL-2への感受性を上昇させるとともに、MST1が核内で直接Foxp3と結合して、Foxp3の分解を抑えることで、Tregを安定化させることを示している。おそらくこんな一石二鳥のようなペプチドを探索できるのも、ユニークな方法の結果だろう。

後は、硫酸デキストランで誘導される大腸炎、歯周炎、さらにGvH反応をモデルに、低い濃度IL-2とDL-6Pを加えることでTregを選択的に誘導し、免疫反応を抑えられること、そしてこの効果はMST1をノックアウトすると消失することから、MST1依存性に起こっていることを証明している。

これがそのまま薬剤になるかどうかは疑問がある。と言うのもMST1はオートファジーからアポトーシスまで様々な過程を調節するため、Tregだけに効果を期待するのは難しい。しかし、試験管内でTregを誘導したり、あるいは急性期に短期に、と言った使い方は可能になると思う。一方で、同じような方法でTregを選択的に抑えるペプチドが開発できれば、ガン局所に注射してガン免疫も高められるかもしれない。3月9日に皆さんと中国アカデミアの創薬力を学ぶことを楽しみにしている。参加希望者は連絡してほしい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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