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3月11日 RNAワールドを可能にするRNAポリメラーゼを再構成する(3月5日 Science 掲載論文)

2026年3月11日
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ありがたいことにこの歳になっても大学から講義を頼まれ、若者との交流を持つことができる。一回の講義の場合は「生命誕生からChatGPT38億年」というタイトルで、今我々が目にしている生物活動から生まれた様々な情報がAIにより統合されつつある大きな変化を講義しているが、二回講義していい場合、我々がまず目にすることはない「無生物から生物の誕生」過程の研究を紹介している。この講義では非平衡熱力学や、有機化合物による秩序形成により可能になる核酸やアミノ酸合成を経て、RNAワールド、そしてコドン形成まで研究の現状を紹介している。そして、RNAワールドやコドン形成を考えるとき、チャールズ・サンダース・パースの記号論の面白さも脱線して話している。パースの記号論では、記号はイコン、インデックス、シンボルに分かれるが、RNAワールドをインデックスとして、またコドンの誕生をシンボルとして提示している。

RNAは高分子として自然に構造を持つことで酵素反応を媒介できるようになるが、他の高分子と異なり要素自体が配列という情報性を持つ。一種のインデックス性で、このおかげで同じ構造をもう一度再現する可能性が生まれる。即ちRNAワールドはイコン性とインデックス性を両方備えた新しい世界の誕生を意味する。そしてこれを支えるのがインデックスをイコンへと変えるRNA複製活性を持つリボザイムになる。

RNAに存在する酵素活性、即ちイコン性の発見以来、RNAを複製して再現可能なRNAワールドを支えるRNA複製リボザイムの設計が試みられてきた。今日紹介する英国医学協会の分子生物学研究所からの論文は、これまで示されてきたRNA複製酵素より遙かに小さな、高々45塩基からなるRNAがRNA複製活性を持ち、さらに自分自身の複製までやってのけることを示した画期的な研究で、今年の講義には是非使いたい論文で、3月5日 Science に掲載された。タイトルは「A small polymerase ribozyme that can synthesize itself and its complementary strand(小さなポリメラーゼリボザイムはそれ自身、そして自身のネガティブストランドを合成できる)」だ。

これまで分離されてきたRNAポリメラーゼリボザイムは大きさが300塩基以上で、ポリメラーゼ活性はあっても、大きく複雑なため、自己の複製は難しかった。実際、講義で話すときにいつも困った。このグループはもっと小さなRNAストランドでRNAリガーゼ活性を持つリボザイムが作れないかを、ランダムに合成した配列を持つリボザイムをプライマーと結合させ、リガーゼ活性を持つものが残るようにして選んでいる。この時RNAポリメラーゼとして頭にあるのは、現在のように1塩基ずつつなげるのではなく、複製したいストランドに結合する主に3塩基の鳥ヌクレチドを結合させるリガーゼ活性になる。

この活性を持つリボザイムが3種類得られ、その中から51塩基の配列を選んで活性を至適化している。即ち、たった51塩基という小さな構造がポリメラーゼ活性を示した。この構造をスタートに、最終的に45塩基からなるリボザイムを設計し、まず様々なテンペレート、そして鋳型に結合する様々なトリプレットを用いて、QT45と呼ぶリボザイムが、かなり複雑なRNAも含めて、90%以上の信頼性で複製することが出来ることを示している。

45塩基と言う長さは、ついにリボザイム自体が自己再生できる可能性を大きく開いた。そこで、QT45のネガティブストランド、またネガティブストランドからポジティブストランドの合成可能である事を示した上で、ポジティブ、ネガティブがハイブリッドを形成したブルストランドから、コンスタントにポジティブストランドが形成され、リボザイムが供給されるプロセスを再現している。

結果は以上で、こんな小さなリボザイムでRNAワールドが可能になることを示しせたことは本当に大きいと思う。Abiogenesis過程を実際目にすることはまずないと思うが、しかし頭の中では38億年前の世界が思い描けるようになっている。今年も講義の予定だが、この論文のおかげで少し楽になった。

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