昨日は人間と動物モデルの間には超えられないギャップがあることを示した論文を紹介した。とは言え、臨床から得られた知見の背景を正確に理解するためには動物実験の重要性は言うまでもない。このことを示した論文を最近2編読んだので、今日はまとめて紹介することにした。
最初はシンシナティ医科大学からの論文で、母親由来の抗体が新生児の大腸菌による敗血症発症を予防する効果についての研究で、3月11日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Natural maternal immunity protects neonates from Escherichia coli sepsis(母親の自然免疫が新生児大腸菌敗血症を守る)」だ。
実に地道な論文で、Questionも「母親由来の抗体が大腸菌敗血症から子供を守るか?」という問いだ。一見当たり前に見えるが、大腸菌はほとんどの幼児の腸に存在するのに、何故1000人に1人に敗血症が発生するかを正しく理解して予防法を開発することは重要だ。
論文では最後に示されているが、おそらく実際は幼児のコホートで得られた治験結果から研究が始まっているのだと思う。幼児の大規模コホートで敗血症を発症した患者さんの臍帯血中に含まれる大腸菌に対するIgG抗体を健康な子供と比べると、十分の一以下に低下していることを発見している。特に、大腸菌外膜に存在する膜タンパクOmpAに対する抗体の低下がはっきりしている。まだ母乳を摂取していない臍帯血中の抗体は母親の胎盤を通して獲得されることを考えると、母親のIgG抗体を十分貰っているかどうかが敗血症になるかどうかの分かれ道になることを示唆している。
後はマウスを用いて、大腸菌が腸に移植されるとIgG免疫が誘導され、これが大腸菌だけでなく、同じ属のグラム陰性菌の全身感染を防げること、そしてこの抗体のかなりの部分をOmpAに対する抗体が担っていることを確認している。そして、母親がIgG免疫を持っている場合は、新生児に大腸菌を感染させても敗血症が起こらないこと、そしてこの防御が補体を介した白血球の食菌作用によることを示している。
おそらくマウスの実験だけなら地味すぎて Nature には採択されなかったと思うが、臨床の結果はクリアーで、妊娠前の母親のOmpA抗体価を調べて、抗体価の低いお母さんにはワクチン接種を行うと予防可能である事が示されたのは重要だと思う。
次はコーネル大学からの論文で、乳ガン患者さんの血中に流れるガンと血液の両方のマーカーを発現した細胞が、悪性度の指標に使えることを示した研究で、3月11日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Dual-positive CTCs in patients with advanced breast cancer show metastatic potential and prognostic value(進行乳ガン患者さんで、ガンと血液の性質を示す血中ガン細胞は転移や予後と関わる)」だ。
多くのガンで血中流れるガン細胞 (CTC) を検出されているが、このなかにガン細胞のマーカーとともに、血液細胞のマーカーCD45を発現するCTCが見つかることが報告されている。
この研究ではほとんどがステージIVの進行乳ガン患者さんでCTCを調べ、CTCを検出できる患者さんの4割以上でCD45も発現している dual positive (DP) が検出できることをまず示している。その後、DPの有無で生存期間を調べると、DPがあるかないかで生存期間が24ヶ月vs 36ヶ月と大きく減少する。特にこの傾向はトリプルネガティブ乳ガンで著しいことを示している。
この臨床結果から、2つの問題が発生する。ひとつはDPが転移しやすい細胞か、そしてどうしてDPが出来てきたかだ。
CTCのゲノムを一個づつ細胞ごとに調べると、CTCと比べてDPはより大きな遺伝子の構造変化を持っていることがわかる。従って、悪性度は高そうで、転移もしやすそうだ。しかし、マウスでガンを誘導し、末梢血からCTCとDPを別々に集めて転移能を比べると、特に大きな差はなく、DP自体が転移を誘導していると考えるのは間違いであると結論している。
次の問題は、CD45を発現するようになったメカニズムで、最も考えやすいのはガン細胞と血液細胞との融合だが、ゲノムでDNA量が極端に増えているわけではないので、結論は難しい。ただ、動物にガンを移植、あるいは誘導した実験から、免疫システムが正常でないとDPが発生しないことが示されており、単純にガンの転写が狂った結果ではなく、ガンに対する免疫反応を通して、CD45を発現するゲノムを取り込んだ可能性がある。
以上が結論で、単純な細胞融合ではないが、血液とガン細胞が今まで知らない相互作用を持っていることが、臨床治験をきっかけとした動物実験からわかってきた。
以上、臨床と動物実験のセット論文はいつも面白い。
