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3月21日 ミトコンドリアを赤血球膜に包んで細胞内に届ける(3月18日 Cell オンライン掲載論文)

2026年3月21日
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言うまでもなく、ミトコンドリア異常症の治療方法の一つは、異常細胞にミトコンドリアを移植することだ。細胞内でミトコンドリアは独立して存在しているので、異常ミトコンドリアが存在しても、移植ミトコンドリアも増殖できる。ヘテロプラスミーという現象で、うまくいくと異常ミトコンドリアが淘汰され、移植したミトコンドリアが優勢になることも期待できる。

問題は細胞の中に移植する必要があることで、卵子への注入例を除くとほとんど試験管内の方法でとどまっている。今日紹介する中国科学アカデミー、広州生物医学健康研究所からの論文は、細胞から取り出したミトコンドリアを赤血球から調整した細胞膜成分を用いて包んでしまい、これを体内に注射することで様々な細胞にミトコンドリアを移植出来、脳に注射することでパーキンソン病の治療も可能である事を示した研究で、3月18日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Transplantation of encapsulated mitochondria alleviates dysfunction in mitochondrial and Parkinson’s disease models(カプセルで包んだミトコンドリアの移植はミトコンドリア病やパーキンソン病モデルでの症状を改善できる)」だ。

方法は実にシンプルだ。ミトコンドリアを細胞の破砕と遠心分離を組み合わせた一般的ミトコンドリア抽出キットを用いて調整。これをヒトやマウスの赤血球を壊して残る赤血球膜と合わせて自然に小胞を形成させると、2-3割の小胞内にミトコンドリアが含まれている。電子顕微鏡写真で見ると、小胞はミトコンドリアの約2倍の大きさを持っている。

試験管内でミトコンドリア自体も細胞内に移行する事が知られているが、カプセルに包むことで効率は高まり、試験管内で正常細胞に加えて2日目で70%以上のミトコンドリアがドナー由来になり、最終的に35%ぐらいで維持される。また、ミトコンドリアを除去した細胞に加えると、移植されたミトコンドリアは球状から桿状に変化し、細胞内で正常に機能することを示している。また、重症ミトコンドリア症 Leigh 症候群の患者さん由来の細胞に移植すると、移植された細胞では正常ミトコンドリアに置き換わって、ミトコンドリア機能を正常化できることを示している。

次にマウス静脈に注射する実験を行い、肝臓を中心に様々な臓器の細胞に取り込まれることを示している。そして、Leigh 症候群モデルマウスへ注射すると、平均48日ぐらいの寿命を74日まで延ばせることを示している。

最後に仕上げの実験としてドーパミン神経に取り込まれてミトコンドリア呼吸系を阻害してパーキンソン病を誘導する実験系で、静脈注射、あるいは線条体への局所投与でパーキンソン症状を改善することが出来ることを示している。

論文を読んでいて驚いたのは、ミトコンドリア自身でも静脈注射である程度細胞内に取り込まれることだが、これと比べても遙かに効率の高いミトコンドリア移植法が開発されたことになる。一応安全性については問題がないことを示しているが、抽出やカプセルに包み込む過程で傷がつくと、マイトファジーや、自然免疫誘導などなど様々な過程が誘導される可能性が考えられるので、慎重に臨床応用を進めることが重要だと思う。また、パーキンソン病発症にミトコンドリア異常は深く関わっているが、例えばパーキン変異のようにマイトファジー機能不全が存在すると、逆にストレスを高める心配もある。期待できるので、Leigh 症候群のような重症ミトコンドリア症を中心に治療研究を進めてほしいと思う。

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