5月8日 膵臓ガンを守る中皮由来の線維芽細胞(5月5日 Cancer Cell オンライン掲載論文)
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5月8日 膵臓ガンを守る中皮由来の線維芽細胞(5月5日 Cancer Cell オンライン掲載論文)

2022年5月8日
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何度も紹介したが、膵臓ガンの大きな特徴は間質細胞の増殖が著しく、おそらくこれがガン細胞の悪性化を誘導している点だ。また、ガンに対する免疫細胞の侵入を阻むことで、ガンを守っていることも知られている。このため Single cell RNA seq が可能になってから、膵臓ガン特異的な間質反応を調べる研究が続けられてきた。この中で scRNAseq の力を示した発見が、線維芽細胞の中にCD4T細胞へ抗原提示出来る Class II 組織適合性抗原(MHC)を発現する細胞の存在の発見で、これがガン免疫を変化させているのではと考えられている。

今日紹介するテキサス大学からの論文はこの抗原提示能を持つガンの間質細胞( apCAF )が、内臓を取り巻く中皮由来で、これが制御性 T細胞(Treg)を誘導しやすい環境を作っていることで膵臓ガンが守られていることを示した研究で5月5日 Cancer Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Mesothelial cell-derived antigen-presenting cancer-associated fibroblasts induce expansion of regulatory T cells in pancreatic cancer(中皮細胞由来の抗原提示ガン間質細胞が膵臓ガンで制御性T細胞を誘導する)」だ。

この研究ではまず、自分のデータを含む膵臓ガンの間質細胞(CAF)についての scRNAseq データを集め、class II を発現した apCAF が膵臓ガンが伸展するほど増加することを明らかにするとともに、ポドプラニンやカドヘリンの発現などから中皮細胞由来ではないかと着想する。

そこで、中皮をラベルした後、膵臓ガンの CAF を追跡すると、中皮細胞が確かに侵入し、線維芽細胞様に変化することを突き止める。そして、この変化が膵臓ガン中で誘導される組織損傷や炎症によって分泌される IL-1 と TGFβ の作用によることを、中皮細胞株を用いた誘導実験で示している。即ち、膵臓ガンの apCAF が中皮由来で、ガンの進行とともにガン組織に組み込まれ、局所で上皮間質転換を遂げて CAF として働いているという発見がこの研究の重要な柱だ。

そしてつぎの柱が、apCAF によって Treg が誘導されることの確認だ。即ち、中皮や apCAF と T細胞を共培養すると、Treg の特徴である CD25 が発現し、実際キラー細胞を抑制することを示している。通常の ClassII MHC 発現、抗原提示細胞では様々な免疫共刺激分子が存在し、その結果炎症性やヘルパーなどの CD4T 細胞が誘導されるが、apCAF は共刺激シグナルを発現していないため、Treg が優先的に誘導されると考えられる。

面白い結果だが、最後の柱として、中皮に発現するメゾセリンに対する抗体を用いることで、中皮から CAF への変換がブロックされ、その結果膵臓ガンに対する免疫抑制が外れ、ガン免疫が回復することを示している。

メソセリンの機能は完全にわかっているわけではないが、膵臓ガンを含む様々なガン細胞にも発現していることが知られ、これに対する抗体やCARTはガン免疫療法として研究され続けている。従って、この発見は、メゾセリンの抗体を用いることで、ガンだけでなく、間質自体を正常化できる可能性を示している。 いわれてみれば間質に中皮由来の間質が存在してもおかしくないのだが、考えたことはなかった。さらに、中皮そのものも Treg 誘導を起こす能力があるとすると、ガンに限らず様々な新しい研究が生まれる予感がする

カテゴリ:論文ウォッチ