5月13日 臭い刺激は脳腫瘍誘導を助ける(5月11日 Nature オンライン掲載論文)
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5月13日 臭い刺激は脳腫瘍誘導を助ける(5月11日 Nature オンライン掲載論文)

2022年5月13日
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個人的印象だが、中国からの論文には最初からかなり一般受けを狙っているのではないかと思える論文が多いように思う。タイトルに惹かれて、「え、そんなことがあるの」と読んだ後で著者欄をみると、結構中国からということをしばしば経験する。

今日紹介するのは浙江大学からの論文で、匂い刺激が悪性の脳腫瘍グリオーマの発生を促すことを示した研究で、臭いなしに生活できないことを思うとちょっと恐ろしい内容で、結局私も紹介することにした。タイトルは「Olfactory sensory experience regulates gliomagenesis via neuronal IGF1(匂い感覚刺激は IGF1 分泌を介してグリオーマ発生を助ける)」だ。

断っておくが、この研究は全てマウスモデルで、人間でどうかはこれからの話だ。ただ、人間でもマウスでも、嗅神経が投射する嗅球からグリオーマが発生しやすいことが知られている。

この現象を、著者らは、おそらく臭い刺激により嗅球神経が興奮することが、発ガンを促すからではないかと着想した。そこで、まず、発生したばかりのグリオーマが観察できるようにした発ガンモデルマウスを観察し、嗅球が腫瘍発生のホットスポットであることを確認する。

次に、化合物の全身投与で嗅球細胞の興奮を選択的に刺激、あるいは抑制出来る遺伝子改変マウスを作成して嗅球の刺激が腫瘍発生に関わるか調べている。結果は期待通りで、嗅球を慢性的に刺激すると腫瘍発生が上昇し、嗅球の興奮を慢性的に抑えると、腫瘍発生が低下する。

次に、このような人工的セッティングではなく、日常での匂い刺激の影響を調べるため、片方の鼻腔にプラグを入れて匂い刺激が入らなくして、もう片方と比べる実験を行い、臭い刺激の抑えられた側の嗅球細胞では腫瘍発生が減少することを明らかにしている。

最後に、臭い刺激から嗅球細胞の興奮が、グリオーマ発生を助けるメカニズムを探り、

  • IGF1 が興奮した嗅球細胞から分泌され、これがグリア細胞の増殖を誘導し、腫瘍発生を助けること。
  • 嗅球細胞から分泌された IGF1 はシナプスを介さず、直接細胞に働くこと。
  • 嗅球細胞の IGF1 遺伝子をノックアウトすると、腫瘍形成が抑制されること。
  • この IGF1 が嗅球細胞からノックアウトされた細胞では、嗅球の慢性的刺激を加えても、腫瘍発生は上昇しないこと。

などを明らかにしている。

以上が結果で、匂いに敏感な人や、強い匂いにさらされて生きていると、グリオーマが発生しやすいという恐ろしい結論になっている。とはいっても、匂いのない生活は困難なので、気にせず生きていった方が良さそうだ。

カテゴリ:論文ウォッチ