4月3日 Tauに対する抗体治療が可能な理由(3月31日号 Science 掲載論文)
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4月3日 Tauに対する抗体治療が可能な理由(3月31日号 Science 掲載論文)

2023年4月3日
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アルツハイマー病(AD)の最初の引き金になると考えられているアミロイドβに対する抗体レカネマブは、細胞外の沈殿型アミロイドβと結合してミクログリアで処理されることで除去を促進し、蓄積を抑えるのがメカニズムだと思う。ただ、ADの神経変性の直接の引き金になるTauの蓄積に対しても抗体治療が可能であることが動物実験で示されており、これはTauが細胞外に吐き出されたあと、他の神経へとプリオンの様に進展するのを防ぐからだとされてきた。この場合も、防御の主役はミクログリアになる。

ところが今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は、抗体がFcレセプターを介してミクログリアの処理を高めるのではなく、抗体とともに細胞内に入ったTauを細胞質のTRIM21分子を介して分解することで病気を防ぐことを示した研究で、3月31日号の Science に掲載された。タイトルは「Cytosolic antibody receptor TRIM21 is required for effective tau immunotherapy in mouse models(細胞質に存在する抗体結合分子TRIM21がマウスモデルのTau免疫治療に必要)」だ。

TRIM21は細胞質に存在するユビキチンリガーゼで、抗体と結合している分子を認識してユビキチン化し、それをプロテアソームに分解させる機能を持っている。通常はウイルスに対する防御機構の一環と考えられる。このグループは、沈殿型Tauがプリオンの様に他の神経に感染するとき、抗体があるとウイルスと同じように分解処理する結果、ADの進展が防げることがTauに対する抗体治療のメカニズムではないかと考えた。

そこで、Tau/抗体複合体を培養神経細胞に加え細胞学的に調べると、細胞外で形成されたTau/抗体結合体が神経細胞にも取り込まれ、TRIM21と近接して存在すること、また抗体が存在することで、細胞質内での分解を促進し、Tauのプリオン様作用を抑え、細胞内でのTau沈殿を抑制することを明らかにしている。

これまでTauに対する抗体は、Fcレセプターを介すると考えられてきたので、抗体Fcに変異を導入、Fcレセプター結合性、あるいはTRIM2結合性を変化させる実験を行い、TRIM21との結合がTau伝搬阻止の主役であることを確認している。そして実験の締めくくりとして、マウスのTauによるADモデルにTRIM21ノックアウトを導入し、抗体治療にはTRIM21が必須であることを、短期・長期の抗体投与実験で明らかにしている。

最後にこれが人間でも可能であることを示すために、ヒトiPSから神経細胞を誘導し、TRIM21がヒト神経でも働いて、ウイルス/抗体コンプレックスの処理に関わることを明らかにし、おそらくTauの伝搬でも同じ効果を持つことを示唆している。

以上が結果で、これまで全てのTau処理をミクログリアの作用と考えてきた私にとっては、大変面白い論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ