昨日はガン免疫を助けるプロバイオの論文だったが、本当によく使われる乳酸菌などがガン抑制に寄与するかは臨床研究が必要だ。以前紹介した観察研究では、菌を問わずヨーグルトをいつも食べている人では逆にチェックポイント治療が逆効果になることすら示されていた。このように、一般的なプロバイオだけでは確実にガン免疫を誘導できると結論できないとすると、当然人工的にプロバイオ菌を操作して、確実にガン免疫を誘導できるプロバイオを目指すことになる。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、皮膚に常在して皮膚菌叢を変化させることが知られている表皮ブドウ球菌(Se)の遺伝子操作法を開発し、これによりガン抗原を発現したSeを作成し、ガン免疫を安定的に誘導できることを示した研究で、4月14日号 Science に掲載された。タイトルは「Engineered skin bacteria induce antitumor T cell responses against melanoma(操作した皮膚常在菌によりメラノーマに対する抗ガンT細胞を誘導できる)」だ。
常在細菌Seは上皮を超えて侵入すると感染症が成立するが、それをT細胞が防いでいることが知られている。すなわち体外にいても、上皮に存在する樹状細胞などにより処理され、免疫が成立している。そこで、ガン抗原をSeに発現させて、ついでにガン免疫も成立させようというのがこの研究の目的だ。
まず、抗原ペプチドから反応するT細胞までほぼ完全にわかっている卵白アルブミン(OVA)に対するT細胞免疫系を利用して、OVAを発現するメラノーマに対する免疫を、OVAを発現するSe細菌を皮膚に塗布することで誘導できないか調べている。
といっても、モデル細菌と異なりSeに遺伝子を導入するのは簡単ではないようだ。まず大腸菌に導入した後、DNAを熱ショックとグリセロール処理後に電気ショックを与える方法を開発し、この方法でSeにOVAを導入している。
とはいえ、ただOVA遺伝子を導入するだけではOVAに対する反応は誘導されず、最終的にCD8T細胞を誘導するペプチドが細胞表面に発現したSeと、OVAを分泌するSeを組みあわせて用いることで、遺伝子操作したSeを皮膚に塗るだけでガン免疫を成立させることに成功している。
重要なのは、CD8、CD4両方のT細胞が誘導される必要があること、および細菌を殺して塗布しても何の効果もないことだ。すなわち、単純なアジュバントと抗原の供給ではなく、皮膚常在によるホストとの免疫バランスが生まれて初めてガン抑制効果が発揮できる。
また、一旦、抗ガン作用が誘導されると、皮膚のメラノーマに限らず、多臓器に転移したメラノーマの増殖も抑制できることから、ガンに対するT細胞は全身に移動して働くことが出来る。
さらに、免疫チェックポイント治療と組みあわせると、多くのマウスでほぼ完全にメラノーマを除去することが可能になる。
最後に、OVAだけでなく、メラノーマが発現するガン抗原ペプチドをバクテリアの表面に発現させたSeと同じペプチドを分泌するSeを作成し、これを塗布しても、OVAに対するのと同じ免疫が成立できることも示している。
以上が結果で、細菌をガン治療に利用する方法の開発はこのブログでも何度も紹介してきたが、常在菌を塗布するという方法でガン免疫を誘導できるというこの研究は新鮮だ。これならガン抗原さえ決まれば臨床研究をすぐ始められるのではと期待する。