4月14日 脊髄動物特異的Visual cycleは細菌遺伝子を利用している(4月10日号 米国アカデミー紀要 掲載論文)
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4月14日 脊髄動物特異的Visual cycleは細菌遺伝子を利用している(4月10日号 米国アカデミー紀要 掲載論文)

2023年4月14日
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レンズを持つカメラ型の目は脊髄動物以外にも存在するが、visual cycleと呼ばれる、視細胞内で光により構造変換したレチノール(11-cis-retinalからall trans retinolへの転換)を、網膜色素細胞へと輸送し、そこでもう一度 11-cis-retinal へとリサイクルして、また視細胞へと輸送するシステムは脊髄動物特異的で、5億年前に脊髄動物が進化するときに完成したと考えられる。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、視細胞と網膜色素細胞間のレチノール輸送に関わる visual cycle の鍵とも言える分子、interphotoreceptor retinoid-binding protein(IRBP)が、驚くなかれ脊髄動物進化の最初にバクテリアから水平伝搬されてきたことを示す論文で、4月10日米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Bacterial origin of a key innovation in the evolution of the vertebrate eye(脊髄動物の目の進化の鍵となるイノベーションはバクテリアに由来する)」だ。

この研究では IRBP進化系統樹の作成過程で、相同遺伝子が原核細胞には存在するのに、脊髄動物以外の真核細胞にはほとんど存在しないことを発見する。すなわち、脊髄動物が進化の過程でバクテリアから遺伝子が水平伝播したと考えられる。実際にはヒトゲノム計画終了時にもIRBPはバクテリアから水平伝播した遺伝子の一つとされていたが、その後これらは紛れ込んだバクテリア遺伝子のコンタミとして片付けられてきた。

しかし、IRBPはイントロンをもつれっきとした脊髄動物遺伝子で、しかもイントロン構造も含め全ての脊髄動物で保存され、また機能的にも脊髄動物の視覚機能に必須の分子だ。従って、IRBPと相同な遺伝子がバクテリアのペプチダーゼの一つS41であることは、間違いなく水平遺伝子伝播でバクテリアから入ってきた遺伝子であること考えざるを得ない。

S41からの進化過程を調べると、S41は脊髄動物の先祖に一回だけ伝播し、その後ペプチダーゼとしての機能を失った後、二回の遺伝子重複の過程で、現在の構造が生まれ、visual cycleの鍵分子としてリサイクルされたことになる。

脊髄動物に近い、脊索動物や尾索動物のホヤを調べると、尾索動物には全く存在しないが、脊索動物には存在している。この結果は、脊髄動物と脊索動物が別れる前にS41遺伝子が伝播してきたことを強く示唆するが、よく調べてみると、エクソン/イントロン構造が異なっていること、より脊髄動物に近い後索動物に騒動遺伝子が存在しないこと、そして脊索動物の相同遺伝子より、バクテリアのS41のほうが脊髄動物IRBPに近いことから、脊索動物の相同遺伝子は、独立した水平伝播の結果だと結論している。

同じ様なS41水平伝播が起こっていないかをさらに調べた結果、ゲノムデータベースに残るS41相同遺伝子の多くはバクテリアのコンタミネーションだが、真菌の仲間には一度水平遺伝子伝播が起こっていることも確認している。

以上が結果で、水平遺伝子伝播が、全く新しい機能の創発を助けていることがわかる。現在のところ、脊索動物の相同遺伝子の機能は全くわかっていないので結論できないが、もし脊索動物でも脊髄動物と同じ機能を持つとすると、独立した水平伝播が同じ機能へ収束したことを示す重要な例になる様に思う。

カテゴリ:論文ウォッチ