老化は遺伝子に変異が蓄積するぐらいで済ましていた我々の時代とは違って、調べれば調べるほど様々な老化の原因が見えてくると言うのが最近の現状だろう。
今日紹介するケルン大学からの論文は、DNAをRNAへと転写する酵素PolIIのスピードが年齢とともに増加して、転写の失敗が増えることが細胞の老化につながることを示し、老化の原因が意外なところにも存在することを示した研究で、4月12日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Ageing-associated changes in transcriptional elongation influence longevity(転写伸長の経年変化が寿命を決める)」だ。
全ゲノムについて転写速度の平均値を割り出すことは簡単ではないが、転写中のRNAの配列を決めて、特定のイントロンに注目して転写産物がどこまで到達したかを丹念に読み取ると、転写スピードが速いほど遠くまで読み取られたRNAの数が増える。
これを利用して、線虫から人間まで、年齢と転写速度を比べると、全ての動物で年齢とともに転写速度が上昇する。さらに面白いことに、ダイエットやIGFシグナルを変化させたりして、老化速度を遅くしてやると、転写速度も元に戻る。すなわち、転写速度の指標は老化の指標になる。
では、PolIIを変異させて、転写速度を遅くしたら老化を遅らせられるか?線虫とショウジョウバエで転写速度が低下したPolIIを導入すると、線虫で20%、ショウジョウバエで10%寿命が延びる。
次にPolIIによる転写速度が高まると、老化が起こる原因を調べ、転写が早いためどうしてもスプライシングにミスが発生すること、また転写時のミスマッチによるエラーが増えることを示している。わかりやすく言うと、転写という細胞活性の根幹が少しせっかちになってミスが増え、それが細胞の老化を促進しているという結果になる。
しかし老化したからと言って、PolIIの構造が変化したわけではない。なぜ同じPolIIの転写スピードが速くなるのか原因を調べ、最終的にクロマチンを形成するヒストンの量が減って、染色体がルーズになっている可能性を突き止める。
そこで単純に H3、H4ヒストンの遺伝子量を増やす操作をヒト細胞で行うと、細胞老化を抑えることが出来る。また、ショウジョウバエで同じようにヒストンH3を強発現させると、寿命が1割程度延びる。
以上が結果で、結局は高齢になるとクロマチンが緩んでしまって、その結果転写速度が高まり、変異した転写産物が増えるという、新しい老化のシナリオが示された。