10月19日 アリに備わった集団を感染から守る本能の驚き(10月16日 Science 掲載論文)
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10月19日 アリに備わった集団を感染から守る本能の驚き(10月16日 Science 掲載論文)

2025年10月19日
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動物は自らを様々な感染から守る本能的行動を示すことが知られている。例えば感染した個体を察知して避ける行動などがある。また、感染した個体を巣から取り除くこともある。ただ、今日紹介する英国ブリストル大学からの論文は、アリは集団感染を守るために感染個体の行動が変容するだけでなく、それを察知した健康個体が巣の構造を変化させて感染を防御するダイナミックな行動変化を示すという驚くべき研究で、10月16日 Science に掲載された。タイトルは「Architectural immunity: Ants alter their nest networks to prevent epidemics(建築による免疫:アリは伝染病の広がりを防ぐ為に巣のネットワークを変化させる)」だ。

この研究は、最初から集団の一部が感染したとき、人間のような衛生学的対応が見られるかという問いに向けられている。ガラス容器の中に土を入れて、180匹のアリに巣を作らせる。この時、昆虫の病原性真菌に暴露した20匹の個体を同じ容器の中に入れたとき、感染個体や集団はどのような反応を示すかを詳しく観察している。また、巣の構造についてはCTを用いて解析している。既に述べたように、この実験では感染個体については自分も含めて検知できるということを前提としている。

さて結果だが、まず感染個体は巣の中で過ごすことを避け、なるべく巣の外で過ごそうとしていることがわかる。即ち、自分で感染を察知して自ら自己隔離を行うか、あるいは健康な個体から何らかのシグナルが出て、外で過ごすようになるかだ。これにより、感染を防ぐディスタンシングが可能になる。

ここまでなら驚かないが、その上で感染を感知した健康個体の巣作りが変化する。まず、巣と外界をつなぐ入り口同士の距離が広がり、アリのコンタクトが減る。感染アリは地中で行動しなくなるので巣作りの効率は低下すると予想できるが、全く逆で、健康アリの活動が高まり、より大きな巣ができる。巣全体が大きくなることは感染を防ぐためには寄与すると考えられる。すなわち、健康アリが感染の存在を察知して活動性を上昇させる。

ただ、これにとどまらず巣の構造自体も変化する。まず入り口の距離が離して作られる。そして巣全体が長いトンネルでつながるようになり、部屋と部屋の間が広がる構造をとる。さらに、トンネルや部屋の広さが広くなる。

これらの変化によって本当に感染が防げるかについては実験は行われていない。代わりに、いくつかの条件を決めてシミュレーションを行って感染確率を低下させると結論している。

以上が結果で、できすぎた話に見える。まず感染が察知されることについてはこれまでの研究もあるので、察知して感染個体も非感染個体も行動を変化させることは納得できる。しかし、自然条件では既に巣ができあがっているところに感染が発生すると思うので、感染を察知できても、すぐに全体の構造を新たに変化させることは難しいように感じる。従って巣ができあがった条件では、特に守るべき幼虫を、感染個体から隔離するのが重要に思えるが、ここまでわかるような実験系で是非調べて貰いたいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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