気になる臨床論文はまとまるまで紹介せずにためているが、中にはかなり風変わりな論文で、テーマはおもしろいが紹介を躊躇する論文がある。今日は気分を変えて、普通なら紹介しない風変わりな論文を紹介することにする。
まず昨年の9月にハーバード大学からPlosOneに発表された論文から紹介する。タイトルは「Smartphone use on the toilet and the risk of hemorrhoids(スマフォをトイレで使うと痔のリスクが高まる)」だ。
私も新聞をトイレで読む悪習(臭)を持っているが、長くトイレに座ることは痔のリスクがあると言われれば納得する。この研究ではハーバード大学ベスイスラエル医療センターで大腸ファイバー検査を受ける患者さんに様々な項目について自己申告して貰う際、スマフォをトイレで見るかも調査している。大腸ファイバー検査で、痔の存在は正確に診断できるので、痔の発症とトイレでのスマフォ使用の関係をかなり正確に調べることができる。
この調査で、42人は全くトイレでスマフォは使わないが、83人は使うと答えている。そしてその半分はいつもスマフォをトイレで見ている。残りは、週に1−2度程度。多くが5分以上スマフォをトイレで見ており、ほとんどはニュースかSNSの閲覧時間になっている。男性の方がトイレでのスマフォ使用が多く長い。
結果だが、トイレでスマフォを使う人の50.6%は痔核を認める一方、全く使わない人では30%でとどまっている。イメージとして痔核の発見頻度が高すぎる気がするが、スマフォを持ってトイレに入って長く座っているのは、痔になるリスクが高いと結論している。
次は昨年1月BMJのNutrition, Prevention and Healthに我が国四條畷市の透析センターで働いておられる高橋医師からの一種コメント論文で、タイトルは「Can carbonated water support weight loss?(炭酸水は減量を助ける?)」だ。
炭酸水が減量に使われていると知って驚いたが、Webには様々な企業がウェッブサイトでこの可能性を情報提供している。読んでみると、お腹が膨れるので食べる量が減るというのが理由として挙げられている。ところが高橋医師は、透析患者さんの臨床経験から、他の理由も存在する可能性をこの論文で述べている。即ち、透析器を血液が通過するときに二酸化炭素が直接血液に溶け込むのと同じように、炭酸水も二酸化炭素を血液に供給、これが赤血球などの細胞のpHを上昇させ、これが糖分解を促進する可能性だ。4リットルの血液が透析器を通ると、このメカニズムで消費されるグルコースは9gと計算されるようなので、炭酸水による直接のグルコース消費の量はそれほど大きくないだろうが、透析と対応させて考えてみたのはおもしろい。満腹感誘導以外の炭酸水の効果を信じて、毎日飲んでみる気になった。
次の論文は昨年11月にAlzheimer’s Research & Therapyに掲載された英国Exeter大学からの論文で、タイトルは「Drug repurposing for Alzheimer’s disease: a Delphi consensus and stakeholder consultation(薬剤のアルツハイマー病へのリパーパス:専門家パネルと利害関係者の協議による評価)」だ。
他の目的で使われている薬剤がアルツハイマー病(AD)にも効果があるとする論文は多い。この研究では、研究者、医師、企業からなる専門家パネルを組織し、基本的にはウェッブ会議を通して、これらの薬剤について専門家にエビデンスを精査して貰い、最終的に8つに絞った後、全体の議論によって3つに絞り、最後に患者さんの家族やケアに当たる人に、この3つの薬剤を使う現実性について議論して貰い、論文としてまとめている。
こうして残った3種類の薬剤は以下になる。
- 帯状疱疹ワクチン:これについてはまず予防効果については大規模な疫学調査もあり、今後この目的に絞った治験を行う必要があるが、専門家だけでなく治療に当たる関係者も使いやすいと高く評価している。ただ、メカニズム、特にウイルスが直接ADに関わっているのか、炎症など間接効果なのかは明確ではない。
- Riluzole:ALSに用いられる神経保護材で、ナトリウムチャンネル、カリウムチャンネル、そしてNMDA受容体に作用する、複雑な作用機序を示す薬剤だ。ADについては動物実験で、GABA 受容体を高めて、認知機能を高めることが確認されている。臨床研究はALSと比べるとまだ多くなく、第二相・三相の治験が必須。
- Sildenafil: バイアグラのことで、生化学的作用機序はPhosphodiesterase5阻害剤として明確で、勃起不全の特効薬として広く使われてきた。最近では肺高血圧にも効果があるとして、2005年から臨床で使われている。ADに対するメカニズムは、Tauのリン酸化を抑えることが報告され、動物実験でも認知機能改善が示されている。現在第三相の治験が進んでおり、この結果待ち。
バイアグラが有効と証明されるとおもしろい話になる。
最後はワシントン大学を中心としたグループがThe Lancetに今年の3月に発表した論文で、タイトルは「Prevention of urinary stones with hydration: a randomised clinical trial of an adherence intervention(水分摂取による尿道結石の予防:服薬遵守介入試験)」だ。
尿管結石を繰り返す人には、運動と水分摂取が進められる。わざわざビールを飲む人もいると思う。尿量を増やして結石の成分を薄め、出来た石も洗い流すという極めて素朴なアイデアだ。この研究では、尿管結石の既往があり再発が予想される1658人を無作為化し、片方に水分摂取を処方し、摂取できたかどうかもBluetoothで確認する、服薬遵守崩壊入を行っている。
この介入により、治験中に3回行われた24時間尿量検査では、明確に尿量の増加が観察できている。しかし、810日まで追跡した尿路結石の再発は、両者で全く差がなかった。
もちろん水分を欠かすことは絶対に問題があると思うが、普通の量以上の水分摂取は必要無いのかもしれない。当たり前と思わず、治験で確認することの重要性がよくわかる。
以上、風変わりなおもしろい論文紹介も息抜きにいいと思う。
