8月16日 肉を切らせて骨を断つマラリアワクチン(8月13日 Science 掲載論文)
AASJホームページ > 2026年 > 8月 > 16日

8月16日 肉を切らせて骨を断つマラリアワクチン(8月13日 Science 掲載論文)

2026年8月16日
SNSシェア

このブログでマラリア研究論文を紹介することは多くないが、それでも13年で20回ぐらい論文紹介に登場している。それほどマラリア原虫に対する研究の歴史は長く、それが薬剤やワクチンの開発に直結してきた。マラリア原虫は蚊の唾液腺内での有性生殖・接合により形成されたスポロゾイトが血液に入った後、肝臓細胞内に侵入、そこで増殖したあと細胞の膜に囲まれたメロゾイトと呼ばれる集合体を作り、これが肺に移行して赤血球に感染する。病気は赤血球に感染したあと原虫が無性生殖で増殖、赤血球破壊を繰り返すことで起こる。現在スポロゾイトに対するワクチンは広く利用されているが、完璧ではない。

今日紹介するオーストラリア・ウォルターエリザホール研究所からの論文は肝臓で増殖後のメロゾイトを抗原として使うワクチンで、8月13日 Science に掲載された。タイトルは「Chemovaccination with a late-liver-stage antimalarial induces durable immunity against malaria(肝臓ステージ後期を用いる化学ワクチンはマラリアに対する持続的免疫を誘導出来る)」だ。

実はタイトルの Chemovaccination を見て、何をするのかと興味を持って読んだ。そして、マラリアスポロゾイトを感染させた後、クロロキンなどの抗マラリア剤で肝臓ステージから赤血球への感染を防いで、この時に肝臓で合成されるメロゾイトを自然の抗原として利用して免疫する、まさに肉を切らせて骨を断つ免疫法になる。これまでもクロロキンを用いてパイロット治験も行われており、良い成績を収めていた。ただ、スポロゾイトを感染させると言うハードルは高そうで認可されていないらしい。

この研究では、クロロキンよりさらに特異的な肝臓ステージを狙った薬剤WM382(2つのaspartyl protease plasmepsin阻害剤)が開発されたので、これを用いて Chemovaccination が可能かどうかを検討している。

40000個のスポロゾイト(ルシフェラーゼ遺伝子を発現する)をマウス血中に注射、36、48時間後にWM382を経口摂取させると、血中には全くマラリア原虫は出現しない。その後95-167日後に再感染させても、chemovaccination では完全に感染が防げる。この時期には薬剤は完全に消失しているので免疫が成立していると考えられる。

実際抗体を調べると、chemovaccination でスポロゾイトのCSPタンパク質に対する抗体が、581日目まで高い抗体価が維持されている。即ち、肝臓ステージのメロゾイトを抗原として使っていても、しっかりスポロゾイトの感染を抑えられる。同じ実験をクロロキンで行うと抗体価が少し低いので、WM382を使うことが推奨される。

このワクチンは抗体で感染初期を抑えているだけではない。CD8に対する抗体を投与して免役したマウスのCD8細胞を除くと、肝臓での原虫の増殖が起こることから、抗体に加えてCD8T細胞が誘導され、これがおそらく感染細胞を傷害して感染を食い止める。

以上は全てマウスでの実験なので、免疫不全マウスにヒトの肝臓細胞、ヒトの免疫細胞及び赤血球を再構成したヒト化マウスを用いて同じ実験を行い、肝臓ステージの増殖を完全に抑えることができること、そしてその結果赤血球への感染を防げることを示している。

以上が結果で、chemovaccination というユニークな、肉を切らせて骨を断つワクチンのアイデアを学ぶことが出来た。ただ、肉を切らせる部分をどこまで認可されるかが問題だろう。いくら薬剤で抑えられると言っても、ホストの免疫状態など人間の多様性は大きい。ただ、病原菌の生活サイクルを熟知することが新しいワクチン開発に重要であることはよくわかる論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ
2026年8月
« 7月  
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31