現在病気の診断は、具合が悪くなって医療施設に訪れたとき、あるいは定期検診で行っているが、全てスナップショットの検査が診断の中心になる。ただ、定期検診の場合、時間経過が追いかけられるので、同じ検査でも情報量が多いと考えられる。例えば胸のX線検査だけでも、肺の病気だけでなく、骨の状態などもわかる可能性がある。ただ医者の立場で言うと、そこまで考えて診断をすることは希だ。この問題をLLMにデータを学習させることで、特殊な検査なしに経過から病気を診断する取り組みが進んでいる。
今日紹介する中国温州大学からの論文は、百万人規模のコホート研究データを学習させたOncoformerが個人の経過を追跡した検査データからガンの種類やステージを予測できるとする研究で、7月27日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「Advancing cancer detection and treatment using longitudinal routine clinical data(ルーチンの臨床データを経時的に集めることでガンの発見と治療が進展する)」だ。
ここまでは割とポジティブに紹介してきたが、実際にはこの論文にいい印象を持っていない。同じグループは2025年同じ電子データを用いて老化や様々な病気のリスクを予測できることを示し、このブログでも紹介している(https://aasj.jp/news/watch/27704)。この同じフレームワークをガンの発生予測に特化したのがOncoformerになる。手法は全く同じ、経時的な検査からガンが予測できてめでたしめでたしと言う論文になる。しかも、胸部レントゲン以外は胃カメラなどの特殊検査は全くしていないのに、様々なガンの種類を予測できる。
この論文には詳しく示されていないので、2025年の論文から184種類の検査項目を見直してみると、例えば末梢T細胞をCD4, CD8は言うに及ばず、樹状細胞やTregまで調べている。さらにCEAやシフラなど15種類のガンマーカーも検査に入っている。さらに、インターロイキンは8種類、血液ガス、また便中の血液細胞などが含まれている。このような検査を百万人規模で行った中国パワーに驚くが、検査項目はおそらく高級人間ドックでも行われていない詳細なものだ。論文を読むとルーチン検査を続けておれば早く診断が出来るように錯覚するが、これだけの検査を定期的に行うためには膨大なコストがかかると思う。
前の論文で紹介したように、一人の電子レコードを検査ビジットごとの歴史としてトークン化するなどのアイデアはいいのだが、予測精度を争うのではなく、その背景にあるメカニズムも浮き上がるようなLLMの使い方をすべきではないかと思う。
良い例をあげると、Alphafoldは構造予測精度で評価されているが、その背景にあるMultiple sequence alignment, pair representation が重要で、構造予測なしにこれら進化と構造のコンテクストを利用することすら出来る。この研究でもどの項目が予測に役立ったのかを探索しているが、異なるガンでの寄与度や、実際に時系列でどうだったのか(上昇や下降など)でどうだったのかが全く書かれていない。要するに予測競争だけに終始して、経時的データから何がわかるのかの検討が皆無だ。かわりにOncoformerではsingle cell解析のvelocityのように、経過が流れとしてわかりガンへの道筋が見えるとしているが、これも背景を議論せずうまくいったことだけ述べている。
読んでいて正直詳細な結果を紹介する気は失せてしまったので申し訳ない。結局ほとんど文句だけを並べたが、LLMをblack boxの診断ツール開発だけに使うことは、少なくとも医学研究としてはやめた方がいいと思う。これまで膨大すぎて分析できなかった、診断の背景から病気の発生メカニズムが抽出できることが今後の方向だと思う。その意味で、最終的に診断予測精度だけを議論したこの論文は、LLMの悪い使い方として紹介した。
