血管内皮でアルギニンからNOを合成して血管を拡張させるeNOSについては一般の方にも広く知られているのではないだろうか。特に有名なのは、ペニスの血管でのNOの働きを強め勃起を維持するバイアグラについては多くの紹介記事があふれている。また、NOの産生は私たちの身体だけでなく、細菌叢でも起こっており、以前運動後に起こる血管拡張が口内細菌叢をマウスを種で殺してしまうだけで打ち消されるという驚くべき論文を読んだことがある。即ち運動後の血流上昇に口内細菌が寄与しているという話だ。しかし、NOが本当に吸収されて全身の血管を広げているのかかなり疑問に感じていた。
今日紹介するスウェーデン・カロリンスカ研究所からの論文は、細菌叢からのNO効果は、実際にはNOではなく、バクテリアによりNOから合成されたdinitrosyl iron complex(DNICs)である事を示した、個人的には納得の研究で、8月19日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「Gut microbiota generate dinitrosyl iron complexes with cardiometabolic benefits(腸内細菌叢はdinitrosyl iron complexesを合成して心臓や代謝に良い影響を与える)」だ。
研究は最初から、消化管でNOはバクテリアによりDMICへと変換され、これがNOの受容体システム、」sGC-cGMPを活性化させると仮説を立て、この可能性を検証している。まず、普通に飼育されたマウスと、無菌マウスの血液を分析すると、DNICが細菌叢があるときだけ検出される。また、マウスに硝酸塩と鉄を摂取させると、DNICが上昇するが、細菌叢がないと全く変化がないことから、組織で作られたNOや食物由来の硝酸塩はバクテリアの硝酸還元酵素を持ったバクテリアによってNDICに変換され、これが血中に移行する事がわかった。
重要なのは、NOS機能を阻害してホストのNO産生を止めると、DNICの量が大きく減ることから、バクテリアが合成するDNICのほとんどはホストのNO由来という点だ。最初述べたマウスウォッシュの話に戻ると、結局口内細菌は運動で合成が上がったNOをDNICに変えていたのかもしれない。
次は、DNICがNOと同じsGC-cGMP経路を介して作用することを確認した後、NOと比べて血中で安定で、NOの代わりに安定的に全身に回って血管拡張などの効果を発揮する、重要な分子であることを示している。
その上で、高脂肪食を摂取させたマウスに、硝酸化合物と鉄を同時に摂取させると、血圧の上昇が抑えられ、心臓の機能を正常化できることを示している。もちろんDNIC事態を投与しても同じ効果がある。また、DNICは代謝にも効果があり、高脂肪食による脂肪蓄積を抑え、空腹時血糖の上昇を抑える。その結果、脂肪肝の発生を抑える。
脂肪肝の発生を抑えることは単純に血管への効果だけでなく、DNICは同じsGC-cGMP経路を介してロイシンの細胞内取りこみ抑えることで、mTORのリン酸化を抑制することで、脂肪肝の発生を抑えていることを示している。
結果は以上で、バクテリアが不安定なNOを安定なDNICに変えて循環や代謝を正常に保っているという話で、個人的にはマウスウォッシュ論文で感じていた疑問が解けたおもしろい研究だった。
