3月6日 膵臓癌を論理的に制御する薬剤の組み合わせ(Nature Medicineオンライン版掲載論文)
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3月6日 膵臓癌を論理的に制御する薬剤の組み合わせ(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2019年3月6日

ゲノム研究が進んでも、膵臓癌は私たちの努力をあざ笑うかのように治療の最も困難なガンとして、医学に立ちはだかっている。実際、膵臓癌のゲノム研究論文を読むと、ドライバーとガン抑制遺伝子が組み合わさって発癌する典型といえるガンで、ほとんどのガンがRasの変異をドライバーとして使っており、p53などのガン抑制遺伝子の機能異常も多くの症例で見られる。また、Ras変異とp53変異を組み合わせることで、マウスでも膵臓癌を発生させることができる。とはいえ、RasやRasの下流のシグナルを抑制してもビクともしないことが多い。これまでの研究で、この原因がRas経路が阻害されると、本庶さんの前にノーベル賞を受賞した大隅さんが発見したオートファジーが活性化され、ガン自身で細胞死を免れるためでなないかと考えられるようになっていた。

今日紹介するユタ大学からの論文はこの可能性を証明し、オートファジーを阻害することで膵臓癌を論理的に治療する可能性を示した論文でNature Medicineにオンライン出版された。タイトルは「Protective autophagy elicited by RAF→MEK→ERK inhibition suggests a treatment strategy for RAS-driven cancers(RAF-MEK-ERKシグナル経路阻害により防御的オートファジーが誘導されることからRasをドライバーとしているガンの一つの治療選択を示唆している)」だ。

この研究ではオートファジーが促進しているか低下しているかを、オートファジーが起こって酸性の環境になっても蛍光を発する赤の蛍光とオートファジーが起こると消えるグリーンの蛍光を指標にして、モニターできるようにした細胞株を用いて定量できるようにし、まずRasをドライバーとするガン細胞株のRas経路を抑制すると、オートファジーが促進されることを確認している。そして、このオートファジーの促進が、LKB1-AMPK-ULK1のリン酸化や脱リン酸化を介して起こっていることを示している。

オートファジーを誘導する完全なプロセスが解析されたわけではないが、これらの結果はRas経路を止めて、オートファジーを抑制するとガン細胞を殺せる可能性を強く示唆している。そこで、Ras下流のMEK阻害剤トラメチニブを用いてRas経路を止めた細胞のオートファジーをクロロキンで抑制すると、期待通りがん細胞の増殖をつ色抑えることができることを明らかにした。クロロキンはオートファジー以外の経路も抑制できるので、遺伝的にオートファジー特異的に低下させられる方法を用いて同じ実験を行い、トラメチニブの効果を抑制しているのがオートファジーであることを明らかにしている。

また、マウスに癌を移植する実験系で、トラメチニブとクロロキンの同時投与でがん細胞の増殖を強く抑えることができることを示している。

ここまでだけなら普通の研究で、これまでも指摘されていたことだが、あまりにも効果が明確なので、著者らは実際の患者さんでこの結果を確かめようと、一般的な化学療法に全く反応しなくなった膵臓癌の患者さんを選び、トラメチニブの量は固定して、患者さんのガンマーカーを見ながらクロロキンの量を増やしていく治療を行い、なんとクロロキンの濃度あ1200mgを超えた時、急速にガンマーカーが低下し、CTで転移癌の大きさが減少した後、4ヶ月経過してガンが抑えられたままの患者さん1例を症例として示している。

もちろん正式な治験を経ないとこの治療が有効とは結論できないのはわかるが、万策尽きた患者さんで急速にガンの縮小が見られたこと、4か月再発がないことから、かなり期待できるのではと直感する。また、治療自体が論理的なので、条件さえ合う患者さんなら、かなりの効果が期待できるような気がしている。最近クロロ菌ではなく、より特異的なオートファジー抑制薬剤が開発されてきていることを考えると、こうして症例が示されたことで結構興奮する論文になったと思う。

このように、本庶さんのガンのチェックポイント療法だけでなく、大隅さんのオートファジー研究もガンをはじめ様々な病気の標的として大きく医学に貢献していることがよくわかる。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月5日 腸管上皮の小胞体ストレスがIgAを誘導する(3月1日号Science掲載論文)

2019年3月5日

様々な場所に生息する細菌叢に興味が集まってから、当然とはいえ上皮を通して分泌されるIgAの機能を特定しようとする研究が増えてきているように思う。色々読んでみると、IgAのことをあまり知らなかったことに気づく。

今日紹介するハーバード大学からの論文はIgAの一部はT細胞ではなく腸管上皮が小胞体ストレスを受けた時に誘導される分泌性シグナルにより誘導されるという研究で3月1日号のScienceに掲載された。タイトルは「Epithelial endoplasmic reticulum stress orchestrates a protective IgA response(上皮の小胞体のストレスは防御的IgA反応を調整する)だ。

この研究は小胞体ストレスを高めるXBP1遺伝子が欠損したマウスの小腸を調べるとIgAを分泌する形質細胞が上昇し、組織および血中のIgAが上昇することを発見したことに始まる。すなわち、腸管の上皮のERストレスが高まることで、IgA産生細胞が腸管で誘導されることがわかる。

もともと腸管上皮で小胞体ストレスが起こると、腸の炎症が起こることが知られているが、今回見つかったIgA産生細胞の増加は、炎症に対して促進的に働くのか、あるいは抑制的に働くのか、IgA遺伝子の定常部位が欠損したマウスのXBP1遺伝子を欠損させて調べている。IgAが産生できないマウス腸管上皮に小胞体ストレスがかかると、腸管の炎症が誘導されるが、その程度はXBP1ノックアウトだけのマウスと比べるとはるかに重症で、広い範囲に広がっている。また、IgAは発現できても、それを腸管の管腔内に分泌できなくしたマウスで同じストレスをかけると、同じように強い炎症が起こる。このことから、小胞体ストレスで起こる腸炎を、同じ刺激で誘導されるIgAは軽減していることが明らかになった。

このIgA産生細胞がどのように腸管内で用意されるかを様々なノックアウトマウスと掛け合わせて検討している。T細胞受容体が欠損したマウスでもERストレスでIgA産生細胞が誘導されることから、この上昇はT細胞に非依存的な反応であることを明らかにしている。

このようなT細胞非依存的抗体産生細胞は通常B1細胞と呼ばれるB細胞から分化してくるが、確かに小胞体ストレスが腸管上皮に加わると、腹腔内のB1B細胞が増殖する。さらに、片方は腸管で小胞体ストレスが、もう片方ではストレスがかからないマウスの血管をつないで血液だけ両方の個体を循環できるようにすると、ストレスのかかった方のB1B細胞がIgA産生細胞へと分化し、腸管に分布していることを示し、1)腸管上皮小胞体ストレス、2)B1B増殖分化因子の分泌、3)B1B細胞の増殖およびIgA産生細胞への分化、4)B1B細胞の腸管への移動、5)IgAによる腸内細菌叢の活動抑制、6)腸炎の抑制というシナリオが成立していることを示唆している。

最後に、小胞体ストレスで誘導される分化因子を調べる目的で、無菌動物を用いた実験を行い、IgAは細菌の作用を抑えて炎症を抑える作用を持つが、IgA自体の誘導には細菌叢は必要ないことも明らかにしている。

残念ながら、上皮が分泌するIgA産生細胞誘導のメカニズムは明らかになっていないが、抗原とは無関係に誘導されてきたIgAが細菌叢に作用して腸管の炎症を抑えるという現象を見つけたことは、B1B細胞の機能を知る上でも面白い実験だと思う

カテゴリ:論文ウォッチ

3月4日:ゲノム不安定性による胎生致死は胎盤の炎症によるものでテストステロンや抗炎症剤により抑えられる(Natureオンライン版掲載論文)

2019年3月4日

DNAが複製される時、2本鎖DNAはMCM2〜7の6種類の分子が集まって形成されるヘリカーゼにより解かれながらそれぞれの鎖が複製される。こうしてほどかれた複製中のDNAを複製フォークと呼んでいる。このヘリカーゼの機能異常は複製時のストレスを誘導し、その結果ゲノムの不安定性が生じる。この結果、癌が発生したり、細胞質内でDNAを感知し炎症反応を誘導するGAS-STINGを刺激、炎症が起こることが知られている。

MCM2-7複合体の各コンポーネントは互いに機能をうまく補っているため、一つの分子に変異が起こってもマウスは発生して生まれてくるが、それぞれが組み合わさった変異が起こるとヘリカーゼ機能異常によるゲノム不安定性が高まり発生途上で致死になる。この時、不思議なことにこれはメスだけに起こることが知られている。

今日紹介するコーネル大学からの論文は、ゲノム不安定性は両性で起こるはずなのに、なぜメスだけが致死的になるかを調べた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Female-biased embryonic death from inflammation induced by genomic instability(ゲノム不安定性の結果メス特異的に見られる胎生致死はゲノム不安定性により誘導された炎症が原因)」だ。

メスの胎児のみが致死になる原因として真っ先に考えられるのはX染色体の不活化がうまく行かない可能性だが、X染色体に導入した蛍光遺伝子で調べると正常に不活化が起こっているので、この可能性は否定される。

もう一つの可能性は、Y染色体が存在すること自体が胎児死亡を防いでいる可能性だが、これはXXで性が逆転するよう雄を決定するSry遺伝子をX染色体に導入することで、胎生致死を防ぐことができるので、Y染色体自体ではなく、結局雄であること、男性ホルモンが胎児が死ぬのを防いでいることがわかった。

そこで、MCMの複合変異を持つ胎児を妊娠している母マウスに男性ホルモンを注射すると、生存率を大きく改善することができた。あとは、テストステロンを起点に、マウス胎児の生存を伸ばす分子メカニズムを探索し、

  • MCM複合変異によるゲノム不安定性によりDNA損傷が上昇すると、GAS-STING経路が活性化され、胎盤で炎症が起こる。
  • この炎症は、オスではテストステロンによって誘導される、IL-10により抑えることができるが、メスではテストステロンが分泌されないため、炎症がそのままになるため、胎生致死になる。
  • このプロセスは、DNA複製時のフォーク形成の異常が起こると、MCM以外の変異でも発生する。
  • そしてIL-10の代わりに抗炎症剤イブプロフェンでもメスの胎生致死を防ぐことができる。

すなわち、ゲノム不安定性というとすぐにゲノム上の問題だけに起因すると思ってしまうが、実際にはDNA損傷を感知するGAS-STINGを介する炎症がその原因であることもあるというレッスンになる。謎解き型の典型といえる研究で読む方は面白い。

折しも3月7日号のCellに国北京の国家重点拠点のグループが、このGASがアセチル化されることでその機能が抑制され、分裂時に起こるDNAの変化に反応して炎症が誘導される心配はないが、DNA損傷によりアセチル化が外れることで免疫反応が誘導される事、そしてアスピリンがこの脱アセチル化を抑制できることを示している(Dai et al, Acetylation Blocks cGAS Activity and Inhibits Self-DNA-Induced Autoimmunity 176, in press, 2019: https://doi.org/10.1016/j.cell.2019.01.016)。すなわち、自己免疫病がDNA損傷で起こるメカニズムは、今日紹介したヘリカーゼ異常でメス胎児が死亡するのと共通性を持っている。アジュバントもそうだが、ますます細胞内での核酸断片の作用の理解が重要になってきた。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月3日 大麻成分を出芽酵母の中で合成させる(Natureオンライン版掲載論文)

2019年3月3日

2015年酵母を使ってモルヒネを合成するための中間体レチクリンを酵母に作らせることに成功したカリフォルニア大学バークレイ校の研究を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/3463)。また、レチクリンからコデインまではやはり酵母で作らせることができる。とすると、発酵技術を用いて麻薬を作ることが実際の視野に入ってきて、倫理的にも、社会的にもどう規制するのかを真剣に検討する必要があると思った。

我が国では大麻を栽培したり所持したりすることは違法だが、最近は医療用に限らず大麻の使用を解禁する国が出てきており、今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文(2015年に紹介したのとは同じグループではない)将来も社会的問題にはならないと思うが、今度は大麻カンナビノイドの主成分であるテトラヒドロカンナビノール(THCA)やカンナビディオリック酸(CBDA)を、単純な糖から作ることができる酵母を遺伝子工学的に作るのに成功したという研究だ。タイトルは「Complete biosynthesis of cannabinoids and their unnatural analogues in yeast(大麻成分とその自然にはない類自体を酵母で完全合成する)」だ。

大麻草でカンナビノイドは、糖から合成されたアセチルCoAがメバロン酸経路を通って造られるGPPとマロニルCoAやヘキサノイルCoAを通って合成されるOlivetolic acid(OA)が結合して合成される。基本的には脂肪酸合成経路の一つとみていい。この研究では、まず酵母にOAを合成させる一群の酵素を再構成し、ガラクトースがあれば1リットル中に1.6mgのOAを合成する酵母を作成する。一方で、この酵母のメバロン酸合成経路が促進した酵母株を作り、糖があればOAとGPPが合成される酵母株を作っている。

次は、この酵母がカンナビノイド前駆体を作るための酵素を再構成し、最終的にyCAN43と名付けた、なんとかカンナビノイドを合成する酵母株に到達している。あとは、この株の合成経路の効率を確かめ、遺伝子の量を増やしたりなどを書く経路で繰り返し、yCAN53という株ではTHCAが1リットル当たり8mg合成できる。

書いてしまうと簡単だが、再構成する酵素の細胞内局在にまで操作を加えて、ようやくここまで到達したという大変な話だ。おそらくこの段階から、より高い効率でカンナビノイドが合成される条件や細胞株が改良されると思う。この研究で最も重要なのは、最初の原料を変えると同じ酵母株が自然には存在しない様々なカンナビノイドを合成する点で、これらの薬理活性を調べることで、現在の大麻成分よりはるかに優れた鎮痛剤や、抗てんかん薬が開発できるのではと期待している。

以上が結果で、より自然のカンナビノイドを作れるという点では高く評価できる論文だ。しかし、同じ方向の研究は、今後私たちが麻薬として取り締まっている多くの物質を酵母で作らせる可能性を開くのではと想像する。そろそろ真面目に社会としての対策を考えても良さそうだ。

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3月2日 米国のファストフードは不健康食品への道を歩んできた(Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics オンライン掲載論文)

2019年3月2日

米国で暮らしたことがないので、個人的印象になるが、最初に旅行した頃レストランの食事はまずくて量が多いという印象しかなかった。ただ、最近はお金の余裕もあり、また行く街も大都会に限られているためか、この印象は大きく変化している。しかも、街でジョギングしている人を見ると、米国でも多くの人が健康に気をつけて生活するようになったのかという印象を持っていた。

もともと個人の印象など全く当てにならないのだが、私の印象とは全く逆の結果、すなわち米国のファストフード店で提供される食品がこの30年間、ずっと不健康な食品になり続けてきたことを示す論文がシンシナティ大学からJournal of the Academy of Nutrition and Dieteticsオンライン版に発表された。タイトルは「Fast-Food Offerings in the United States in 1986, 1991, and 2016 Show Large Increases in Food Variety, Portion Size, Dietary Energy, and Selected Micronutrients(1986,1991,2016年に米国のファストフード店で提供された食品は、種類、量、カロリー、そして一部の栄養素で大きく上昇している)」だ。

研究方法は単純だ。1986年、1991年についてはThe Fast Food Guide、2016年についてはウェブに公表されているファストフード食品の成分表から、栄養学的な様々なデータを取得している。これを米国の人が最もよく使っているファストフードサービス10社について調べ、それぞれの年で提供されている食品を、主食、サイド、デザートに分類し、一品あたりのカロリーや食塩やミネラルの含有量などを調べグラフにしている。

驚くことに、少なくとも2016年まではファストフードは栄養学的に不健康になり続けているというもので、以下のようにまとめられる。

  • 提供される食品の種類が急速に増えており、主食では1986年に167種類だったのが、2016年にはなんと557種類に増えている。同じように、サイドやデザートの種類も増え、デザートに至っては5倍に増えている。
  • 一品あたりのカロリーも上昇を続けており、主食で1986年430Kcalが、2016年では480Kcal。特に問題はデザートで、1986年217Kcalが2016年298Kcalに上昇している。
  • 次に、食塩などのミネラルだが、なんと食塩で1986年から2016年で35.9から47.2と大幅に増加している一方、妊婦さんで不足が指摘されている鉄分では18.0から15.6へと大幅に低下している。

以上が重要な結果で、結局身体に必要な成分は低下し、肥満や高血圧の原因になる成分は上昇しているという結果だ。現役を退いてからアメリカには毎年行っているが、ニューヨークだけで他の街は知らない。しかし、NYの中心で感じることとはまるで逆の食生活が米国を今も蝕んでいることを知って驚いてしまった。

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3月1日 自閉症児の恐怖症をバーチャルリアリティーで取り除く(2月15日Journal of Autism and Developmental Disorders オンライン掲載論文)

2019年3月1日

自閉症スペクトラム(ASD)の主症状は、社会的なコミュニケーションの困難と反復行動だが、これとともに半分の人たちで様々な対象に対する恐怖症がある。例えば、特定の場所を極端に嫌がったり、髭を生やした人だけを恐れたり、特定の動物を恐れたり、 一種の脳のアレルギー反応のように見える。そこで、アレルギー治療のように恐怖の対象を思い出して脱感作するCognitive Behaviour Treatment(CBT)治療法が試みられているが、想像することが苦手な子供はCBTで仮想的に脱感作を行うのは難しかった。

今日紹介するニューカッスル大学からの論文はCBTに映像を用いたバーチャルリアリティーを加えてASD児の恐怖症を取り除く治療法の開発で2月15日号Journal of Autism and Developmental Disordersにオンライン掲載された。タイトルは「A Randomised Controlled Feasibility Trial of Immersive Virtual Reality Treatment with Cognitive Behaviour Therapy for Specific Phobias in Young People with Autism Spectrum Disorder(ASDの若者の特定の恐怖症を取り除く没入型バーチャルリアリティーを組み合わせたCBT治療の可能性を確かめる不作為化対照試験)」だ。

タイトルからわかるように、この研究はBlue Room VREと名付けれれた特許化された360度全面に映像が映る部屋と、その部屋で映写するソフトがセットになったシステムの治験研究で、この部屋で行われる治療の様子はYouTubeに掲載されている。(https://www.youtube.com/watch?v=9U-rRC8jc28

この研究では、8−14歳のASDの児童32人をリクルートし、ASDであることを確認した上で、各人の恐怖症の対象を特定している。実に様々な対象が恐怖症の対象になっており、ハチ、広い場所、エレベーター、犬、暗いところ、昆虫、見つめられること、天気の変化、風船、コウモリ、トイレ、車に乗ること、自動オモチャなど、驚くことにバナナまでその対象になっている。そして、それぞれの対象に応じたビデオプログラムを作成し、治療に提供されている。例えば広場の嫌いな子供には、そこに鳩が飛んでくるような設定で安心させるプログラムなど、結構工夫がいるように思える。

治療では、まずCBTの訓練を受けたセラピストと部屋に入り、海の中をイルカが泳ぐといったリラックスするセッションの後、その子の恐怖症に合わせたプログラムをセラピストとともに受けて、想像させるのではなく、実際の映像を見ながら反応を確かめ確かめ、恐怖症の対象に慣らしていく。この様子を親は室外のモニターで観察し、いつでも止めることができる。これを2回繰り返して、治療には全く無関係の医師が効果を判定している。

実際の診断スコアがどの程度の変化を意味するのか専門家でないので判断しにくいが、6ヶ月後に調べると40%近い子供に改善が認められた一方、コントロールでは全く変化がない。また、症状が悪化したケースは1例だけで、かなり高い効果があると結論している。

結果は以上で、12ヶ月目でも効果の見られた人のパーセントは変わっていないので、今後セッションを増やしたり、ソフトを変化させたりすることでさらに大きな効果が期待できるような気がする。

ASD治療の第一歩は、普通の人にはない様々な恐怖症を取り除くことであることを考えると、経験的とはいえ応用範囲は広い気がしている。

カテゴリ:論文ウォッチ

2月28日βシヌクレインに対するT細胞株は新しい神経障害性自己免疫過程を教えてくれる(2月20日号Nature掲載論文)

2019年2月28日

私が卒業して4年ほどしてから、T細胞を試験管内で増やして株細胞株を樹立する方法が報告された。まだIL2をはじめとするT細胞を増殖させるサイトカインが全くわかっていなかった時代で、リンパ球をレクチンで活性化させた上清を用意して、それを抗原で刺激したリンパ球に加えて培養するという原始的な方法だった。当時見よう見まねでなんとか結核菌に対するヒトT細胞株が作れないかトライしたのを覚えている。私自身は結局T細胞株を作れないまま、ドイツに留学したが、その後T細胞株を用いた研究はうなぎのぼりに増えた。免疫学を離れてからは、T細胞株が実際どのように現在も使われているのかほとんどフォローできていなかったが、最近になってCAR-Tとして大注目されるようになっている。

今日紹介するドイツゲッチンゲン大学からの論文はβシヌクレンに対するT細胞株を作成し、CAR-T治療と同じように個体に注射することで、場所特異的自己免疫性の神経変性を誘導することができることを示した研究で2月20日号のNatureに掲載された。タイトルは「β-Synuclein-reactive T cells induce autoimmune CNS grey matter degeneration(βシヌクレン反応性のT細胞は自己免疫性脳の灰白質の編成を誘導する)」だ。

実に単純だが、改めてT細胞株の威力を認識させる研究だ。まず、βシヌクレンに反応するT細胞株(Tβ)を樹立する。試験管内で増殖を維持してはいるが、特にクローン化はしていない。同じように、多発性硬化症のモデルとして、ミエリンに対するT細胞(Tm)も作成してマウスに投与、細胞の挙動を組織学的に、またリアルタイムイメージングを用いて比べている。

予想通りTmを注射すると、ミエリンが存在する白質に細胞は浸潤するが、Tβの場合は全て神経細胞自体が集まる灰白質が障害される。すなわち、それぞれの細胞株は、異なる脳の層の自己免疫病を引き起こすことができる。

次に、どのようなルートでTβ細胞が脳の灰白質に移動するのかを調べているが、このような実験にはT細胞株は極めて便利で、細胞に導入したGFP遺伝子を指標にして追跡できる。期待通り、移入したT細胞株では血液脳関門を越えるために必要な分子を誘導し、まず軟膜に集まった後、灰白質に侵入する。一方Tmも血管から軟膜までは同じように移動するが、そこから白質に移動する。すなわち、循環中のT細胞は血管から直接抗原のある場所に移動するのではなく、一度軟膜に集まって、そこから細胞間質を通って移動する。そして最終移動場所は抗原が決めている。

そして移動先でT細胞はミクログリアにより抗原提示を受けて活性化し、細胞障害性の炎症が起こるが、この時他の特異性を持つT細胞も動員されることで炎症が増強する。この他の特異性のT細胞動員の主因は局所の強い炎症で脳血管喚問が敗れた結果だろう。しかし、この炎症が白質に移ることはなく、抗原の存在する灰白質で止まる。そしてなんども回復が可能な白質の障害と異なり、灰白質での炎症は回復不可能な神経細胞死につながる。

最後にMSやパーキンソン病の患者さんで同じようなβシヌクレンに対するT細胞が存在するかどうかを調べ、多発性硬化症ではβシヌクレンおよびミエリン、およびαシヌクレンなど、神経細胞が発現する分子に対するT細胞が増えてきていることを明らかにしている。一方パーキンソン病ではミエリンやαシヌクレンに対するT細胞は存在してもβシヌクレン対するT細胞は存在しないことを示している。すなわち、多発性硬化症では常に灰白質にも炎症が及ぶことを念頭に置いて治療する必要があること、またパーキンソン病などの変性疾患でも炎症による細胞障害が起こっている可能性を示唆している。

以上、白質も灰白質も免疫性の炎症は、抗原特異的T細胞が存在するかどうかにかかっており、特にβシヌクレンに対するT細胞が発生すると非可逆的神経細胞死が起こりやすいこと、そして同じメカニズムが多くの人間の変性疾患でも起こっている可能性を示した、わかりやすいが恐ろしい結果だ。しかし、もしこの結論が正しいとすると、病状をモニターし炎症を抑える対策を打つ可能性も出てくる。今後、多発性硬化症のような炎症疾患だけでなく、変性疾患として分類されていた病気も同じ治療で症状を抑えることができるならさらに素晴らしい。

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2月27日PD1を用いたグリオブラストーマのネオアジュバント治療(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2019年2月27日

例えば乳がんの切除前に、あらかじめ放射線をあてたり、あるいはエストロジェン阻害療法を行うことをネオアジュバント治療と呼ぶが、同じようなガンの切除前のネオアジュバント治療をPD-1に対する抗体を用いて行うことが1−2年前から盛んに行われ、論文として目にするようになってきた。PD-1の利用方法を工夫して、適用できるガンを増やすための取り組みだが、外科手術の前のネオアジュバント治療の場合、効くか効かないか前もって予測しにくいPD-1抗体の作用を、手術時に癌組織を取り出し、直接調べることが可能になるというもう一つの利点がある。

今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校からの論文は、手術しても根治はほとんど望めないグリオブラストーマについて、手術前にPD-1投与を行うネオアジュバント群と、行わない対照群を様々な観点から比較した論文でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Neoadjuvant anti-PD-1 immunotherapy promotes a survival benefit with intratumoral and systemic immune responses in recurrent glioblastoma(抗PD-1抗体を用いたネオアジュバント治療は再発するグリオブラストーマ内および全身の免疫反応を高め患者さんの生存を延長できる)」だ。

この研究ではグリオブラストーマが再発して、腫瘍のサイズをともかく縮小する目的で手術を行う患者さんを選び、無作為化した後ネオアジュバント群と対照群に振り分け、手術の2週間前に1回抗PD-1抗体を投与(対照群では投与しない)、手術をしてから、全てのケースで3週間に一回抗PD-1抗体を投与するプロトコルで治療を行い、それぞれのグループの経過を見ている。

基本的にはこの時手術で摘出した組織を詳しく調べ、抗PD-1抗体によるネオアジュバント治療の効果を詳細に調べた論文だ。まず、16人づつという少ない人数ではあるが、ネオアジュバント治療を行なった群の方が50%生存日数で400日対200日とはっきりとした効果が認められる。ネオアジュバント治療は手術の2週間前に1回だけ行っているので、なかなか絶大な効果と言えると思う。

そこでこの差の原因を追求する目的で、まずネオアジュバント治療後行った手術により得られた腫瘍組織の遺伝子発現を調べると、ネオアジュバント群では多くのケースで腫瘍の増殖が抑えられており、T細胞の活動性が高い患者さんが多い傾向にあった。

次に反応しているT細胞の方を調べると、ネオアジュバント治療を受けた方が、同じT細胞受容体を持っているクローンが増幅している傾向にあった。おそらく、ガンに対するT細胞が増殖した結果だと考えている。また、腫瘍内に存在するT細胞の抗原受容体が末梢血中のT細胞の受容体と同じである確率が高まり、腫瘍組織からガン特異的T細胞が増幅し、また同じ受容体を持ったT細胞がおそらく記憶細胞として循環する可能性が示された。

以上の結果から、手術で腫瘍摘出を行う場合は、術後ガン抗原が急速に消失することを意味し、その結果ガンに対するキラーT細胞を維持することが難しくなる。そこで、最初に抗PD-1抗体を注射してキラーT細胞などを活性化したまま維持することで、腫瘍細胞の数が低下しても、少ないガン細胞でキラーT細胞活性化し、ガンの増殖を抑制し続けることができると結論している。

もともと、グリオブラストーマでは突然変異の数は多い方ではない。それでも、ネオアジュバント治療がこれほど効果を示すことは、手術を行うがんについては常に行ったほうがいいという結論になる。ただ、生存期間が良くなったとはいえ、根治を達成できるのかは次の問題で、それも含めてこの治療の適用が議論されるだろう。

残念なことは、これほど詳しく解析をしても、チェックポイント治療がうまくいく患者さんを予測するバイオマーカーが見つかるまでには至っていない。この点もまだまだ努力が必要だ。

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2月26日 粘着テープを用いる皮膚細胞採取でアトピーのタイプを明らかにする(2月20日号Science Translational Medicine掲載論文)

2019年2月26日

昨日に続いて2月20日号のScience Translational Medicineに掲載されたアトピーの論文を紹介する。今日紹介するのは、デンバーにあるNational Jewish Healthという組織からの論文で子供のアトピーのタイプを、バイオプシーではなく、粘着テープを同じ場所に繰り返し用いて、表面から深い層まで順に回収した細胞を用いて皮膚細胞の性質をかなり正確に明らかにできることを示した研究だ。タイトルは「The nonlesional skin surface distinguishes atopic dermatitis with food allergy as a unique endotype(病巣とは別の皮膚の表面の性質から食物アレルギーの合併したアトピー患者さんを合併しないアトピー患者さんから区別できる)」だ。

皮膚科の確定診断というとすぐにバイオプシーを考えてしまうが、、アトピーの子供で、病巣とは離れた場所の皮膚をバイオプシーするのは拒否される確率が当然高い。この研究では、皮膚に貼ってから一定時間後に剥がすと、薄い細胞層が回収できるD-Suame Tape Stripと呼ばれる一種の粘着テープを用いて、皮膚の層を深くまで順番に回収する方法を用いて、それぞれの層に存在する細胞の様々な性質を測定して、アトピー誘発に関わる皮膚の遺伝子について調べている。30回程度貼ったり剥がしたりを繰り返して、順々に深いところにある細胞層を回収できるなら、確かにバイオプシーに代えることができる。子供が対象でも、多くの患者さんで病巣とは無関係な場所で30回もこの操作を繰り返せるということは、今後確実性は劣るが、皮膚の細胞を調べる方法として普及するように感じた。

この研究の最大の目的は、食物抗原に対するアレルギー反応が明確なアトピー(1群)と、この点がはっきりしないアトピー(2群)では、皮膚の構造や性質に質的な差があることを示すことだ。

研究ではまず皮膚からの水分の蒸発を測定し、アトピーの症状が著明な病巣では水分の蒸発では1群、2群とも両者にあまり差がない一方、病巣とは異なる場所では、明らかに食物抗原に対する反応を示す1群のアトピーの患者さんの方が皮膚のバリアーが壊れており、その結果水分の蒸発が高まっていることを明らかにしている。すなわち、皮膚の蒸発を防ぐバリアー機能の低下が、病巣と離れた皮膚で見つかることは、1群の患者さんではアトピーの皮膚病巣ができる前から皮膚のバリアー機能が変化していることを示唆している。

そして、この結果と相応して起こっている細胞の様々な性質の変化を回収した様々な細胞層で比較検討している。結果は明瞭で、水の蒸発促進と並行して、たとえ皮膚のバリアー機能の指標であるフィラグリン分解物の発現が、第15層で低下している。

また病巣以外の領域で、アトピーの指標になる皮膚の緑膿菌の数も上昇し、ケラチンの発現パターンから、未熟で増殖しているケラチン細胞が上昇することも明らかにできた。さらに、やはり食物アレルギーを持つアトピー患者だけで2型免疫反応が活性化され、細胞の転写レベルでも両者を区別できることを明らかにしている。

要するに抗原特異的な食物アレルギーがはっきりした1群のアトピー患者さんでは、炎症巣が起こる前から皮膚のバリアー機能が壊れて、水分の蒸発が高まり、これと並行してフィラグリン分解物レベル、細菌叢、転写、プロテオーム、など様々なレベルの変化が呼応するという結果だ。すなわち、一般のアトピーと食物アレルギーを併発したアトピーとは病気の成り立ちが異なり、後者では皮膚のバリアーが弱いことが先にあって、食物アレルギーが起こり、その上にアトピーの皮膚炎ができるというシナリオになる。したがって早いうちから、皮膚のバリアー機能を診断して、アレルギーを抑えることで、1群のアトピー発症を抑えられる可能性があるという結論だ。

個人的には、粘着テープを用いてバイオプシーに匹敵する検査ができること、そして、病巣ではなく、一見正常にみられる皮膚ですでにこのような変化が始まっていることに最も興味を持った。

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2月25日 汗とアトピー(2月20日Science Translational Medicine掲載論文)

2019年2月25日

先週号のScience Translational Medicineにアトピーについてのちょっと変わった論文が2篇出ていたので、今日、明日と紹介することにした。今日はミュンヘン工科大学からの論文で汗に含まれる成分NaClがアトピーに関わるT細胞にどのような影響があるかを調べた研究で2月20日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Sodium chloride is an ionic checkpoint for humanTH 2 cells and shapes the atopic skin microenvironment(NaClは人間のTH2細胞のチェックポイントになるイオンでアトピーの皮膚環境を形成する)」だ。

汗をかくとアトピーが悪くなるような感触を誰もが持つはずだ。科学者も同じ感触を持っており、アレルギーに関わるT細胞とNaCl濃度との関わりはこれまでも研究されておりNaClが未熟T細胞からアレルギー性炎症を引き起こすTH17を誘導することが示されていた。ただ、未熟T細胞はNaCl濃度が上昇する皮膚には存在しないため、この研究では皮膚に存在している分化したTH2細胞に対するNaClの作用を見るところから始めている。

もちろん高濃度では細胞が死ぬが、50mMNaClではTH2細胞と呼ばれるアレルギーに関わるIL4を分泌するT細胞は増殖し、逆にインターフェロンを分泌するTH1細胞は抑えられることを発見した。そして、これが転写因子の発現が変わることで起こっている現象であることを明らかにする。さらに、NaClだけでなんと未熟T細胞の転写パターンを変化させてアレルギー型TH2細胞へと変化させられることを明らかにしている。

もちろんNaClは特異的なサイトカインとして働くわけではない。調べてみると、結局浸透圧を感知するmTORC、SGK1やNEFAT5システムが働いてT細胞をTH2型に誘導することを明らかにしている。

こうして皮膚にも浸潤してくる分化T細胞をTH2型に変化させるメカニズムを明らかにした上で、今度はアトピーの皮膚でNaClはどうなっているのかを調べると、大きなばらつきはあるがそれでもアトピーの人ではNaCl濃度が高いことが示されている。しかも、アトピーの患者さんでも、皮膚の炎症がない場所ではNaClが上昇しておらず、また一般の炎症ではNaClの上昇が観察できないことから、アトピーの発症には皮膚でのNaClの上昇が何らかの役割をしていること、そしてこれを抑えれば症状を抑える可能性があることを示している。

結果は以上で、NaClがこれほど特異的な効果があるのかと驚く。さらに著者らは、もともとNaCl濃度上昇でも生き残る緑膿菌が抗原となってアトピーを引き起こす可能性にも言及しており、なんとなく汗を掻くとアトピーが悪くなるような印象の一端をうまく説明した論文だと思う。

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