3月24日 アルツハイマー病の脳活動(3月11日号 Science Translational Medicine掲載論文)
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3月24日 アルツハイマー病の脳活動(3月11日号 Science Translational Medicine掲載論文)

2020年3月24日
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アルツハイマー病(AD)の脳については、CTやMRIで萎縮が認められるとか、最近ではアミロイドβ(Aβ)やTauタンパク質のPETによる検出が可能になり、これを用いた病態の解析などについては論文をよく見るが、脳波などを用いた脳の活動についての研究論文は、あまり目にしたことがない。本当は数多くの論文が出ているのだろうが、発表が専門の雑誌にとどまっているからだろう。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校から脳磁図を、PETによるAβやTauの検出と組み合わせて、リアルタイムの脳活動記録とアルツハイマー病の病変との関連を調べた研究で3月11日号のScience Traanslational Medicineに掲載された。タイトルは「Neurophysiological signatures in Alzheimer’s disease are distinctly associated with TAU, amyloid-β accumulation, and cognitive decline (アルツハイマー病の脳機能的特徴はTauとアミロイドβの蓄積および認知低下と明瞭に相関している)」だ。

研究ではまず脳の電気活動を詳しく捉えることが脳磁図計を用いて、安静時のα波とδ波について、各領域での神経活動が脳全体の活動とどの程度同調しているかについてADと正常で比べている。すると、α波で見た時、後頭葉や左側頭葉では同調性が強く低下している一方、δ波で見ると前頭葉や頭頂葉など比較的広い範囲で同調性が高まっていることを発見する。

このような変化がこれまで明らかになっていなかったのかどうか、判断できないが、これがわかるとあとはPETを用いたAβ、Tauの蓄積や、認知機能など、他の AD指標と相関させることができる。

まず症状との関わりでみると、α波の同調性の変化が認知機能の程度と強く相関しているが、δ波では相関が強くない。すなわち、α波の同調性が症状と最も強く連関している。また、全体の認知機能指標との相関で見ても、α波の同調性低下が最も強く相関していることが明らかになった。

次にAβとTauの蓄積具合との相関を調べると、症状と強く相関するα波同調性低下領域はTau蓄積領域とオーバーラップするが、Aβ蓄積部位との相関はない。一方、δ波の同調性が高まっている領域ではAβ蓄積部位と一致することがわかった。さらに、それぞれの脳磁図の変化は,TauおよびAβの蓄積程度とも相関することも明らかにしている。

以上が結果で、まとめるとAβの蓄積が始まると、その場所でδ波がなぜか同調する。その後、Tauの蓄積が始まると、α波の同調性が特に後頭葉などで低下し、これが実際の認知機能と関わるというシナリオになる。

これまでAβの蓄積で神経活動が変化し、これがTauのリン酸化と蓄積を誘導し、その結果症状が現れるという考えとうまくフィットした結果だ。もちろん、この結果だけでは、なぜこのような脳磁図上の変化につながるのかについてはまだわからない。ただ、病理的な変化を脳神経活動に変換できたことで、病態の解析は確実に進むのではと期待している。

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3月23日 神経を電線にしてしまう(3月20日 Science 掲載論文)

2020年3月23日
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光遺伝学で輝かしい業績を上げ続けているKarl Deiserothは、難しい課題を設定した上で、それを様々な材料や技術を組み合わせた新しい方法を開発して解決するという論文が多く、読む方はいつも驚かされる。さらに驚くのは、開発されたテクノロジーは神経操作に限らないことで、例えば原理的にあらゆるmRNAの発現を組織レベルで調べることができるバーコードを利用した方法を読んで、なんと柔軟な頭の持ち主かと感心した(Youtubeで紹介している)。結果、次はどんな新しい方法が開発されるのか、新しい論文が待ち遠しくなる。

そして今日紹介する論文では神経細胞自体を伝導性あるいは絶縁性のポリマーで包んで神経細胞の活動を見た研究で3月20日号のScienceに掲載された。タイトルは「Genetically targeted chemical assembly of functional materials in living cells, tissues, and animals (遺伝子操作で機能的材料を生きた細胞、組織、動物に構成する)」だ。

この研究は、他の研究室で開発されていた細胞膜上に有機ポリマーを形成させる方法にヒントを得て、生きた動物の神経細胞を伝導性、あるいは絶縁性のポリマーで包んでみるという、これまで誰も考えたことのない課題にチャレンジしている。もともと神経は、ミエリン鞘という絶縁物質で覆われることで、早い伝達が可能になっているので、絶縁体で包めば興奮効率が上がると予想されるし、伝導性のあるポリマーだと電位差が解消され神経興奮がうまく伝わらないのではと予想できる。

この研究では、細胞外から供給される伝導性のアニリン、絶縁性のethylenedioxythiophen(`DAB)といった分子を、細胞が発現するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(Apex)で重合させ、目的の細胞だけポリマーで包めるかを調べている。

もちろん目論見通りApexを発現した細胞膜上だけにポリマーが形成され、組織を固定して乾かした後、伝導性を調べると、神経細胞自体が一種の電線になっており、抵抗がなくなることを示している。

次にマウスの脳細胞にApexを発現させた後、切り出した脳切片上でアニリン、あるいはPDABを重合させ、神経に電流を加えて興奮を調べると、予想通りPDABで絶縁した時は興奮スパイクが減り、逆に伝導性のアニリンを重合させた時は、興奮スパイクが増える。

最後に、この系を線虫の咽頭筋肉細胞、あるいは運動に関わる興奮ニューロン、あるいは抑制ニューロンに発現させ、それぞれのシステムを絶縁した時、あるいは細胞外での伝導性を高め、行動を調べている。

答えは予想通りで、絶縁すると神経伝達の効率は高まり、伝導性を高めると伝達性が落ちるという結果が示されているが、重合反応が生きた動物の中で正確に進み、神経細胞の性質を見事に変化させたという結果に感動してしまう。

Deiserothの仕事は、これからさらにいろんなことが始まるぞという予感というか、ワクワク感を与えてくれるが、この研究も決して神経細胞の操作に止まらないだろう。要するに、細胞膜上のマトリックスを人為的に形成できることで、神経や細胞間相互作用すら操作できる。つくづく天才の存在を感じる驚くべき論文だった。

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3月22日 再び食研究の難しさ:人工甘味料(3月3日 Cell Metabolism 掲載論文)

2020年3月22日
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昨日に続いて食研究がいかに難しいかを示す論文を紹介する。昨日は、食物成分、身体、そして腸内細菌叢が絡み合って、果糖が脂肪肝を引き起こすメカニズムについての研究を紹介した。これでも十分複雑だが、実際には食は常に味に対する脳の反応を伴い、これによって習慣づけられると、知らず知らずのうちにより甘いもの、より辛いものを求めることになる。すなわち、食を栄養としてだけ捉えることができない。

今日紹介するイェール大学からの論文は栄養と甘みに対する感覚がどのように合同して身体の代謝能力に影響するかを調べた面白い論文で3月3日発行のCell Metabolism に掲載された。タイトルは「Short-Term Consumption of Sucralose with, but Not without, Carbohydrate Impairs Neural and Metabolic Sensitivity to Sugar in Humans(スクラロースを炭水化物と合わせて摂取した時だけ脳と糖に対する代謝感受性を変化させる)」だ。

この研究の目的は人工甘味料の一つスクラロースの糖代謝に対する影響を調べることだ。もともと、ショ糖の600倍もの甘さがあり、カロリー摂取の心配が全くない甘みとして普及してきたスクラロースも、多くの人工甘味料と同様に再検討され、逆に肥満を誘導する可能性を示す論文も散見されるようになった。ただ、疫学研究にしても、動物実験にしても、食の実験だけに条件を揃えることが簡単ではない。ただ、人工甘味料の甘みが強く脳を刺激するので、この効果を栄養から切り離して研究することの重要性が認識されていた。

この研究ではスクラロースを単独で、或いは30gの甘みのない炭水化物と合わせた飲料を2週間に7本摂取させたとき、インシュリン感受性と甘みに対する脳の反応がどう変化するかを調べている。コントロールには30gのショ糖を摂取させ同じように検査している。

簡単な実験だが、結果は驚くべきもので、スクラロースを炭水化物と合わせたドリンクを飲んだ時だけ、ブドウ糖負荷に対してインシュリンがより分泌されるにも関わらず、グルコースを処理する能力が低下し、血糖が上昇するインシュリン抵抗性が生じ、さらに甘みに対する脳の反応が低下することを示している。

この変化はスクラロースと炭水化物を同時に摂取した時だけで、同じカロリーを持つショ糖だけ、あるいはカロリーのないスクラロースだけでは全く起こらない。この実験で炭水化物が含むカロリーはたかだか120Kcalで、トータルで840Kcal、研究期間も2週間と短いので、肥満などの長期の体質変化を誘導する実験ではない。もしショ糖もスクラロースも全く同じ甘み受容体を通して感じられるとすると、強い甘み刺激が実際の栄養と組み合わさった時だけ、急性のインシュリン抵抗性が誘導されたことになる。

残念ながらメカニズムについては何のヒントも示されていない。全く知らなかったが、私たちの腸内にも甘み受容体があるらしく、これが刺激されることでブドウ糖の吸収が高まるらしい。すなわちスクラロースの刺激が強すぎて、その結果ブドウ糖摂取が高まり、インシュリンが普通より多く分泌されることが、インシュリン抵抗性に関わる可能性がある。ただいろいろ説明されているが、私の頭ではなぜスクラロースと炭水化物が合わさった時だけ甘みに対する感受性が低下するのか理解できなかった。炭水化物も何らかのルートで脳に影響しているとしないと説明できない。 いずれにせよ、この結果をそのまま受け入れると、コーヒーにスクラロースを入れて飲むのは問題ないが、食事と一緒にスクラロース入りの飲み物を飲むことはやめたほうがいいという結論になる。甘みが代謝に、栄養が脳に影響するとすると、食を設計することなど夢のまた夢かもしれない。

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3月21日 食を研究することの難しさ(3月18日 Nature オンライン発表論文)

2020年3月21日
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コロナウイルスに対する薬剤開発からもわかるように、創薬では病気の原因分子を探し、それを標的にする薬剤を開発するという大枠はほぼ変わらない。ところが何を食べればいいのかを明らかにし、食を設計するとなると話は急に難しくなる。これは私たちの代謝システムの複雑性を反映しているのだが、最近仕事で色々な相談に乗るようになると、食の難しさをつくづく思い知る。

その典型例が果糖で、最初ブドウ糖の代わりになる肥満を防ぐ甘味料として急速に普及したが、最近それが脂肪肝を引き起こすことがわかり、代謝について再検討が始まり、これまで当たり前としてきたことが全く間違っていることが明らかになってきた。例えば、果糖のほとんどは小腸でグルコースに変換され、この代謝システムのキャパシティーを越える時に初めて、肝臓に入ることを以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/8072)。要するに、一つ一つの分子についての詳しい代謝経路はわかっていないことの方が多い。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、さらに進んでなぜ果糖が肝臓での脂肪合成を誘導し脂肪肝につながるのかを追求した論文で、果糖代謝の複雑性を改めて思い知ることになった。タイトルは「Dietary fructose feeds hepatic lipogenesis via microbiota-derived acetate (食物のなかの果糖は腸内細菌叢由来の酢酸を介して肝臓の脂肪合成を誘導する)」だ。

最初果糖が小腸でグルコースに変換されるにしても、キャパシティーを超えると肝臓に直接入って、脂肪合成に寄与するとすると、脂肪酸合成のハブになるアセチルCoAを合成するにはATP sitrate lyase(ACYL)と呼ばれる酵素が必須と考えられる。ところが著者らは肝臓でACYLをノックアウトしたマウスでも果糖を食べさせれば脂肪が合成され、脂肪肝ができるという意外な結果に到達する。

では果糖はどの経路で脂肪合成に使われるのかアイソトープを使って追跡すると、ほとんどが腸内細菌叢で酢酸へと変換された後門脈を通して肝臓に入り、そこでACSS2と呼ばれる酵素によりアセチルCoAへと転換されることを突き止める。実際、ACSS2を肝臓でノックダウンすると、果糖からの脂肪合成が抑えられる。

もともと酢酸は、酪酸やプロピオン酸と並んで重要な短鎖脂肪酸で、体に良いとされてきた。もし腸内細菌からの酢酸が肝臓脂肪合成に使われるとすると、これは大騒ぎになる。幸いそんな簡単な話ではなく、酢酸が脂肪合成に使われるためには肝臓で脂肪合成を行うための分子がセットになって高まっている必要がある。実際、果糖を長期間摂取することで、肝臓の脂肪代謝システムが理プログラムされる。すなわち、長期間果糖を取り続けると、肝臓での脂肪合成システムが高まり、そこに栄養として処理しきれなかった果糖を腸内細菌叢が酢酸へと転換し、この酢酸がそのままASCC2により脂肪合成の原料として使われるというシナリオが示された。

すなわち、果糖は、肝臓の脂肪代謝システムを高める能力、そして腸内細菌叢で酢酸へと転換する能力が揃っているため、脂肪肝の原因になることが明らかになった。果糖代謝の複雑性を知れば知るほど、食についての研究が21世紀の重要課題であることが実感される。

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3月20日 NK細胞とパーキンソン病(1月20日号米国アカデミー紀要掲載論文)

2020年3月20日
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パーキンソン病にはαシヌクレインの蓄積が重要な働きをしており、シヌクレイン症として包括的に捉えるようになった。その意味で、アミロイドやタウタンパク質の蓄積によるアルツハイマー病と同じ土俵で考えられる過程も増えてきている。特に、蓄積したタンパク質をミクログリアに貪食させ、神経死をある程度抑えるプロセスについては共通性が高い。

少し古い論文になるが今日紹介するジョージア大学からの論文は沈殿したシヌクレインの除去にNK細胞も関わる可能性をモデルマウスで示した研究で米国アカデミー紀要に1月20日発表された。タイトルは「NK cells clear α-synuclein and the depletion of NK cells exacerbates synuclein pathology in a mouse model of α-synucleinopathy (NK細胞はαシヌクレインを除去する。そしてシヌクレイン症のマウスモデルでNK細胞を除去すると病像が悪化する)」だ。

この研究は、普通なら関連付けないパーキンソン病(PD)とNK細胞を関連付けられないかと考えたことが全てだ。実際パーキンソン病の患者さんで特にNK細胞の機能が低下したという話はあまり聞いたことがない。ただ、この研究では多くのPD患者さんの脳ではNK細胞が観察され、その数も増えていることを確認する。

あとは動物モデルでNK 細胞とαシヌクレイン、そしてPDとの関わりを調べている。結果をまとめると以下のようになる。

  • 試験管内でNK細胞株は変性シヌクレインと反応して細胞内に取り込み、分解することができる。
  • NK細胞が変性シヌクレインに反応すると、キラー活性が低下し、インターフェロン産生能が低下する。
  • マウスPDモデルで、病気発症が始まる頃に抗体投与でNK細胞を除去すると、発症率が高まり運動機能の悪化が見られる。
  • 病理的にもNK細胞が除去されたPDモデルでは、病変の拡大が見られ、また神経炎症も認められる。
  • ドーパミン神経の細胞死も起こるが、線条体が中心で不思議なことに黒質の神経細胞死はほとんど起こらない。

以上が結果で、黒質の細胞死を促進しないということで、モデルとしては一般的PDの枠内で考えるより、シヌクレイン症一般で見られるNK細胞の特殊な役割を明らかにしたと考えたほうがよさそうだ。これを念頭にまとめなおすと、シヌクレイン症ではNK細胞が脳に現れ、変性シヌクレインを除去するが、その時炎症誘導能が抑えられるので、ミクログリアなどの他の炎症細胞を活性化しない。すなわち、純粋なシヌクレイン除去が可能になるという話だ。その意味で、もう少しミクログリアの状況を調べる必要があったのではと思う。

ミクログリアと比べて炎症が起こりにくいという点で、面白いメカニズムだが、ではNK細胞移植がレビー小体認知症などシヌクレイン症にお治療になるのか気になる。

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3月19日 相分離現象が形態学を変える(3月13日 Science 掲載論文)

2020年3月19日
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皮膚ケラチノサイトは基底層、有棘層、顆粒層と分化し、最後の角化層へ分化するが、顆粒層から角化層にかけて、皮膚を外界から守るバリアー機能が形成される。特に、フィラグリンという分子の変異により、アトピーが起こることがわかってから、顆粒層でのプロセスを皮膚のバリアー機能を準備する段階として研究されるようになった。

さて、顆粒層という名前の由来は細胞内にケラトヒアリン顆粒(KG)が存在するからだが、この顆粒の形成過程や機能についてはほとんどわかっていなかった。今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、KGが、今流行りの相分離現象を反映するのではと着想した大御所フックスの研究室が、これを証明した力作で3月13日号のScienceに掲載された。タイトルは「Liquid-liquid phase separation drives skin barrier formation(液体同士の相分離が皮膚のバリアーを形成する)」だ。

この研究では最初からKG がフィラグリン分子の相分離によって形成されるという仮説に立って進められている。長年皮膚分化あらゆる角度から見続けてきたフックスにとっては当然の結論だし、構造的にもフィラグリンは相分離する可能性が高い。

まずこの仮説を確かめるため、一般的に行われる、相分離を観察したい分子、この場合はフィラグリンに蛍光タンパク質を結合させたケラチノサイトに導入して、確かに相分離が起こることを示している。さらに、KG形成に欠損があるフィラグリンについても同じ方法で調べ、相分離が起こりにくいことを確認し、KGがフィラグリンの相分離により形成される構造であると結論している。

さらに原子間力顕微鏡を用いたKGの観察から、KG形成のオーガナイザーはフィラグリンで、KGへと構造化する分子の種類も、フィラグリンとの関係で決まり、フィラグリンの変異によりKGの成分や力学的性質が変化することまで調べている。

普通の研究はこのへんでよしとなるのだが、さすがにフックスで、蛍光分子を結合させる方法では実際のフィラグリンの相分離能力を正確に測れないと考え、相分離に影響を与えないセンサー分子の開発を行い、正常のフラグリンが相分離した時にそこに集まって蛍光標識できるセンサーを開発している。そして、これらのセンサーを発生段階の胎児皮膚に導入する新しい方法も開発して、実際の皮膚分化で相分離がどのように起こるのか確かめている。完全を求める、この分野の大御所の執念を感じる。

この結果、KG自体がオルガネラのような細胞小器官ではなく、相分離した液体としての性質を持つことを確認するとともに、一つ一つのKGが融合することなく独立したまま大きくなるという面白い特徴を発見する。すなわち、フィラグリンの相分離を調節する別の機構が存在することが示唆され、これにKeratin10(K10)が関わることを明らかにしている。すなわち、K10が相分離してできたKGを隔離して融合を防いでいることを明らかにする。

重要なのは、このKGの形成や構造、さらには構成成分がpHの変化を引き金に大きな変化を示す点で、これにより核が細胞から放出され、角化が進むことまで示している点だ。

話はここまでで、皮膚の機能的バリアーとの関係はまだこれからの課題だと思うが、この分野に新しい方向性を示した重要な貢献だと思う。さらに、相分離という、分子の構造化という現象が、形態学を刺激して新しい分野を形成しようとしていることがよくわかった。

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3月18日 新型コロナウイルス感染動態(The Lancet オンライン掲載論文)

2020年3月18日
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各国の厳しい対応を見ていると、一旦始まった感染は次から次へと広がると思ってしまうが、実際にはそれほどでもないという論文を最後に紹介したい。もちろん気を緩めろというわけではないが、恐すぎるのもどうかと思う。

The Lancetに3月12日、16日と相次いでオンライン出版された論文で、最初は米国イリノイ州のEpidemic Intelligence Serviceからの論文で、タイトルは「First known person-to-person transmission of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) in the USA (米国での最初の人から人への感染が確認された新型コロナウイルス感染)」、16日はシンガポール厚生省からの論文で、タイトルは「Investigation of three clusters of COVID-19 in Singapore: implications for surveillance and response measures (シンガポールで起こった3つのCOVID-19感染クラスター:検査と対策についての示唆)」だ。

まず最初の論文だが、12月25日から1月13日まで武漢に滞在した女性からの二次感染の記録で、この女性は帰国後1週間目に発熱、倦怠感で診察を受け、最初の受診後7日目になってようやくPCRで新型コロナと診断されている。この女性がクリニックを訪れてから11日目に夫も発熱したので、すぐに検査して、家庭内感染と診断された。

夫は慢性閉塞性呼吸器疾患を持っていたが、どちらも入院後症状は回復、20日目には自宅待機で様子を見ている。症例自体は特にどうということはないが、確定診断時、鼻腔、口腔粘膜のシュワブだけでなく、喀痰もウイルスが検出され、さらに他の場所からウイルスが消えても長期間検出された点が気になった。すなわち、喀痰なら採取方法を工夫すれば、自分で採取して検査所に送ることができ、コロナと思ったら病院に行く前に電話という指示に適合するように思う。実際、確定診断はウイルス検査なので、結局病院に行くことになるのでは元も子もない。

さて、この武漢から帰国した女性および夫とコンタクトした人を、CDCの基準を使って3段階に分けて2次感染を調べると、ハイリスクの高い夫以外は全てウイルス陰性という結果で、また医療スタッフにも感染しなかったことが確認されている。すなわち2次、3次と感染が広がる可能性は高くないと期待させる。

この結論は、16日に発表されたシンガポール厚生省からの論文からもサポートされる。この研究では、シンガポールに訪れた中国人観光客から感染したと思われる3つのクラスターについて調べている。

一つのクラスターは感染していた中国人観光客が立ち寄った宝石店と健康グッズの店で接客した店員で、30分程度の接触だが、握手を含め身体的接触があったケースで、なんと6人が感染している。ただ、2次感染は一人の家族だけに止まっている。

次のクラスターは会議のため世界から人が集まり、会議、会食などを行なったケースで、この中に感染した中国人も参加していたと考えられる。この会議に参加した3人のシンガポール人、2人の韓国人、1人のマレーシア人、そして4人の英国人が感染している。この時の会議場やホテルのスタッフには2次感染はない。ただ、マレーシア人、英国人の家族で2次感染が確認されている。

3番目のクラスターは、教会の礼拝に中国から来た参加者が感染していた例で、最初の感染者はわかっていないが、5人がこの礼拝を通して感染している。幸いこの場合は家族感染も含めて2次感染はなかった。

以上が結果で、一緒に生活をする場合は2次感染が起こっているが、それぞれのクラスターから家族以外の2次感染がないということは、家族的な濃厚接触がない限り、伝染する可能性は低いということを示している。

一方、店頭での接客、会議と会食、礼拝などは、他人でも握手を始め直接の身体的接触があるため、多くの人が感染したことになる。

以上が結果で、読んでみると確かにまだ発症前の人からの感染が一番やばいという事が分かる以外は特に新しいことはないが、改めて肌と肌の触れ合いの危険性がよくわかった。また、今行われている対応は全て適切で、要するに、一定の距離をおく付き合い、これがコロナ対策一丁目一番地ということになる。とすると、日本は比較的対策が取りやすい国と言えるかもしれない。

明日からは普通の論文ウォッチに戻すが、もちろん重要な論文は重点的に紹介するつもりだ。

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3月17日 新型コロナウイルス治療法開発についての展望(ACS(米国化学協会) Central Science オンライン掲載論文)

2020年3月17日
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SARS,MERSに関する論文を紹介してきたが、今日紹介する米国化学学会が主導で専門家を集めて発表した総説は、新型コロナの治療法開発を展望するために、SARSやMERS も含めた開発研究の現状分析で、かなり新しい話まで網羅しており、役に立つ総説だと思う。タイトルは「Research and Development on Therapeutic Agents and Vaccines for COVID-19 and Related Human Coronavirus Diseases(Covid-19と関連するヒトコロナウイルス疾患に対する治療法とワクチンの研究開発状況)」だ。

現在新型コロナウイルス感染は拡大の一途を辿っており、ヨーロッパの状況を見るとその感染力の高さに目をみはるが、一方でこれを大きなチャンスと捉えて、ビジネスと割り切って行われる研究も急速に増えている。実際出版される論文の数は毎週大きく増加し、1月から現在まで500を超えた。最初は、ゲノム、臨床例についての報告が圧倒的に多いが、すでに紹介したように創薬につながる基礎研究も増えてきた。このスピードには圧倒されると同時に、将来への希望を感じる。

この総説はこれらの論文から明らかになったことを、公開特許出願との関連で紹介しているのが特徴で、治療手段を開発するためにはこのような目配りが必要になるのだろう。

化合物の探索。

ウイルスに対する根本的な治療は、抗ウイルス薬と免疫になる。抗ウイルス薬の標的としては、ウイルスタンパク質の成熟に必要なペプチダーゼ3CLpro と PLproに対する阻害剤で、SARS,MERSに対し開発されたLopinavirやritonavirがこれに相当し、新型コロナにも使われている。

 また、RNA依存性RNA ポリメラーゼ阻害剤としてレムデシビルやリパビリン、そして我が国で騒がれているアビガンもこれにあたる。新型コロナに対する治験結果も4月には出てくるだろう。

 もう一つ重要な標的は、ウイルスの感染経路だが、スパイクタンパク質とその受容体、ウイルス粒子の融合に関わるTMPRSS2などに対する薬剤がすでに存在する。これらについては表2にまとめられているので、そのまま掲載する。

他には、ホスト細胞側のリソゾームの状態を変化させるクロロキンなども治験が進んでいる。

驚くのは、すでに薬剤が開発できているこれらの標的に対する化合物特許が他にも数多く存在することで、例えばプロテアーゼなどは多くのウイルス共通に効果がある可能性があるため、2000を超す化合物が特定されている。

このような中から、薬剤として開発が進んでいる化合物も増加している。

この表を見ると、我が国もシオノギ、小野、そして京大萩原さんが創業したキノファーマなど、ちょっと斜めから攻めているユニークな薬剤開発が行われており、期待したい。

生物製剤

炎症や免疫系に対する薬剤や、ワクチンが含まれる。新型コロナにも適応されるパテントで見ると、ワクチンが363、抗体薬99、RNA薬35、そしてサイトカイン療法が22種類も存在する。

 驚くことに、SARSやMERSに対する抗体薬もすでに開発されており、ほとんどはスパイクに対する抗体だ。このうち新型コロナと交差反応するものはすぐにも使えるだろう。エボラの治験でも最も効果が見られたのは抗体薬だ。

これ以外にアクテムラなどの炎症性サイトカインを抑える抗体が、サイトカインストームを抑えるために治験されている。最近公開されたものでは炎症性ケモカインIP-10に結合する抗体薬なども注目されている。

  ウイルス自体はインターフェロンなど自然免疫で抑えることができるので、インターフェロンを中心に様々な治験が進んでいる。全部紹介するのは大変なので、掲載の表をカットアンドペーストしておく。

肝炎ウイルスなどに対して抑制性RNAが使われるようになってきた。この分野も期待が持てるし、一昨日動物実験でこの手法を使った治療実験を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12590 )。また実際多様な方法が開発されているが、今回は割愛する。

ワクチン

反ワクチン主義者のトランプも、今回ばかりはワクチンの開発を心待ちにしていることと思う。ワクチンは当然ウイルス粒子そのもの、あるいは粒子を形成するタンパク質を抗原として使う。すでにSARS.MERSの準備があるため、ウイルス粒子を抗原とするワクチンでも、同じラインで作れる可能性が高い。もちろん安全性などから考えると、スパイクなど部分タンパク質を抗原にするワクチンが開発されており、GSKと中国のベンチャー企業のワクチンは治験に近い。

  抗ウイルス免疫にCD8T細胞が重要であることがわかっており、これは蛋白抗原では誘導できない。そのため、DNAワクチンやRNA ワクチンも開発が進んでいる。RNAについてはすでに米国で治験が始まっている。

  現在特許として現れるのは、SARS,MERSに対するワクチンだが、どのようなタイプのワクチン開発が進んでいるのか、特許から調べた図を再掲する。

例えば精製タンパク質を使うワクチンだけでも100以上のパテントが存在し、おそらくこれらは新型コロナとも重なるだろう。おそらく全世界の人が心待ちにしているワクチンは、想像を絶するビジネスチャンスと言っていい。もちろん、一発で全て解決というわけにはいかないと思うが、とりあえず重症者の数を減らして、最後は一発で全て解決というワクチンに置き換わればいい。

以上で紹介を終わるが、新しい治療法やワクチン開発の可能性が高いことがわかり、安心できるレポートだ。一方で、世界中が消費収縮におののいているとき、ここに大きな消費機会を求めて壮烈な競争が繰り広げられていることもよくわかった。

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3月16日 MERSについて学ぶ( The Lancet オンライン掲載総説)

2020年3月16日
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新型コロナウイルスについて理解するとき、やはり強い肺炎を引き起こすことが知られているSARSやMERSなどのコロナウイルスについて知っておくことは重要だが、両方とも我が国では流行が起こらなかったため、専門家を除くと知識が欠けていることは確かだ。幸いThe Lancetのオンライン版にMERSについての総説が発表されたので、自分の頭の整理を兼ねて今日はこの総説を下敷きにMERSについてまとめておく。

ウイルス学

30-31Kbの大きなRNAウイルス。すでに名前から分かるように、新しいコロナウイルスはSARSの仲間として分類され、これらと比べるとMERSウイルスは少し遠縁になる。

  最も面白いのは、スパイクがSARS と異なりDPP-4に結合する点だ。ただ、違うと言ってもDPP-4はSARSスパイクが結合するACE2と同じ膜型エンドペプチダーゼだ。スパイクの結合にエンドペプチダーゼが必要なのか不思議だ。またインシュリン分泌に関わるインクレチンを標的にしている点でも、ACE2がアンギオテンシンIを対象にしているのと似ている点もあり、治療標的として期待されるスパイクの進化を考える意味で面白い。

疫学

ラクダがウイルスのキャリアーで、その結果中東に流行が限られている。ただ、人から人への感染があり、ラクダからを一次感染、人から人へを二次感染と呼んでいる。二次感染症例は大体50%。

 この結果、人から人への多くは医療施設で多発する。韓国での流行も、中東からの帰国者が入院した施設から始まっている。すなわち、感染クラスターの重要性は全てのコロナ感染症共通だ。例えば韓国で起きた中東帰国者からの流行では、16の医療施設を巻き込んだ5人のスーパースプレッダーに由来することが突き止められている。

病理

信仰上の理由から報告された剖検例は2例しかない。ウイルス粒子は肺だけでなく腎臓などからも検出されるが、呼吸器のみで病理変化が認められる。基本は、出血性壊死性肺炎で、肺胞への浸出がつよい。動物モデルがあるので、期待できる。

免疫反応

免疫反応はウイルス防御と炎症誘導という諸刃の剣。

すなわち、抗原特異的免疫反応と自然免疫がうまくバランスされて初めて防御が成立する。

  MERS の場合まずCD8T細胞が、その後CD4T細胞と抗体反応が続き、2−3週間で免疫反応が見られる。回復が早い場合は、抗体反応も一過性だが、重傷者では長く続く。一方、CD8T細胞反応は重症度にかかわらず長く続く。

  SARSでは面白い現象として自然免疫が感染後長く続くと、抗体の産生が遅れ重症化する(これは新型コロナでも重要な点のように思える)。しかし、MERSではこのようなケースは見られない。かわりに、MERSはT細胞に感染し、サイトカイン反応も抑えられる代わりにウイルスへの反応も低下する。この差は、SARSとMERS で重症化機構が少し違う可能性を示唆して面白い。

感想だが、重症化の引き金を理解する意味でもsingle cell transcriptomics を用いた研究が大活躍すると思う。

臨床像

潜伏期間5−7日だが、免疫能力が低い高齢者などではもっと長い潜伏期間があり得る(ちょっと不思議な現象で、最初のウイルス増殖に免疫が役立っているのだろうか?)。

 新型コロナと違い、無症状は5割以下。症状は熱、悪寒、こわばり、頭痛、空咳、喉の痛み、関節痛、筋肉痛などのあと呼吸困難。新型コロナと違い、消化器症状も多い。 

  高齢者や基礎疾患のある場合重症化し、ウイルス感染が遷延する。一方、子供の感染は少ない。

  個人的印象では、X線所見は新型コロナとかなりよく似ている。

ウイルス診断。

MERSもSARSも最終診断はウイルス感染の証明だが、DPP-4の分布などからわかっているのは、スワブのような上部の検査だけでなく、痰に存在するウイルス検査が確定診断には必要な場合が多い。

  検査自体は通常のPCRから、35分で終わる温度を変えないアイソサーマル検査、そして抗体検査まで全て開発されており、これが新型コロナ検査にも生かされている。

治療

現在新型コロナウイルスについて利用されているほとんどの治療方法はすでに試されている。

トリアージだが、56歳以上、高熱、血小板減少、リンパ球減少、CRP2mg/dL以上、痰中のウイルス濃度が高い場合は入院治療。残りはは自宅隔離。

抗ウイルス剤は、インターフェロンも含めて使われているが、科学的治験は現在進行中。おそらく、今回の新型コロナについては患者数も多いことからはっきりした結果が出てくると期待される。一般抗生剤は全く効果がない。また、新型コロナと同じで、ステロイド全身投与もあまり効果がない。

回復患者さんの血清療法は、ウイルスに対する抗体価が1/80以上の血清は確かに効果がある。また、すでにウイルスに対するモノクローナル抗体が開発され、治験中。エボラの経験からも、これは期待できる。

新型コロナ感染で我が国でも効果が示されている体外式人工肺(ECMO)は対症療法としては最も効果がある。

ワクチン

様々なワクチンが開発中だが、多くはスパイクとDPP4の結合を標的にしている。

以上、新型コロナと共通点が多く、学ぶところは多い。ただ、違いも確かにあり、ここからも多くのヒントが得られると思う。研究の第一線では、当然MERS の経験は織り込み済みと思うが、ニュースを判断する意味でもMERSで何がわかって、また何が行われているかを知ることは参考になる。

カテゴリ:論文ウォッチ

3月15日 SARSウイルスの強い炎症に関わるウイルス由来small RNA(3月8日号 Cell Host & Microbe 掲載論文)

2020年3月15日
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CRISPR研究史を見れば、微生物に学ぶところが多いことがわかる。ところが、ウイルスや微生物学について多くの生物学者は意外と学んでいない。私のブログでもCRISPRや細菌叢の話題を除くと取り上げる回数は少ない。これは結局私自身の感染症の知識が乏しいことを示しており、新型コロナ感染を機会に少し勉強してみようと思っている。

以前エボラウイルスが持つ自然免疫から自己を守るメカニズムが、他のサイトカイン誘導にブレーキがかからない状態を作ってあのような激烈な症状をきたすことを紹介した( https://aasj.jp/news/watch/2023 )。SARSや新型コロナの肺病変も同じように一種のサイトカインストームによる強い炎症反応のせいだと思われるが、それぞれのウイルスは自然免疫から自分を守る個別のメカニズムを備えているはずで、このような研究分野は、治療法開発という意味では、時間はかかっても重要だ。

今日紹介するスペイン国立生物技術研究所からの論文はSARSウイルスについてそのようなメカニズムの一端を捉えた研究で、ウイルスの自己防御機能の多様性を実感することができた。タイトルは「SARS-CoV-Encoded Small RNAs Contribute to Infection-Associated Lung Pathology (SARSウイルスは感染した肺病変に関わるsmall RNAをコードしている)」だ。

私たちの細胞機能はsmall RNAと呼ばれる様々なRNAにより調節されているが、ウイルスも同じメカニズムを用いて細胞の持つ防御機能をかいくぐっていることが知られている。この研究では、まずSARSウイルス特異的に合成されるsmall RNAをSARSに感染したマウス肺上皮細胞(マウスにも感染できるSARSウイルスが開発されている)が発現しているsmall RNA配列を網羅的に調べ、3種類のウイルスゲノムにマッチするsmall RNAの特定に成功している。

これらsmall RNA(svRNA)は、複製酵素とN遺伝子と呼ばれる領域に由来し、ウイルスゲノムと同じでセンスRNAであることがわかった。また、ホスト自体のsRNAを作るメカニズムにはほとんど依存しておらず、ウイルス感染により、ウイルスの持つ機構を使って合成される。

複製酵素やN遺伝子の転写や機能についてみると、svRNAは全く影響していない。しかし、svRNAに対応するアンチセンスRNAを持つmRNAの機能を抑えることができる。すなわちmiRNAと同じような働きを持っている。

残念ながらメカニズムについての研究はここまでで、このsvRNAがホスト側のどの分子に対応しているか特定されていない。代わりに、svRNAを抑制することのできる抑制性RNAを設計し、これを経鼻的に投与、その後SARSを感染させると、ウイルスの増殖だけでなく、炎症性サイトカインの分泌を抑えることに成功している。

おそらく、svRNAはホストから自身を守る一つのメカニズムと思われるが、今大事なことは新型コロナウイルスにも同じようなsvRNAが存在するのか、だとしたらホストのどの分子が標的かを大至急調べることだろう。SARSも新型コロナも肺病変の出現の理解が治療法開発に必須になる。幸いSARSに極めて近いという点から、SARS研究の蓄積は心強い。

明日はMERSについての総説を紹介する。

カテゴリ:論文ウォッチ
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