12月6日朝日新聞記事(福島)細胞内で異物につく分子、東北大・東京医科歯科大が発見。
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12月6日朝日新聞記事(福島)細胞内で異物につく分子、東北大・東京医科歯科大が発見。

2013年12月7日

朝日新聞の福島さんが東北大学のオートファジーに関する研究を紹介した。(http://www.asahi.com/articles/TKY201312040406.html)論文はMolecular Cell誌に掲載され、タイトルは「Endogenous Nitrated Nucleotide is a key mediator of autophagy and innate defence against bacteria(細胞内のニトロ化核酸はオートファジーと細菌に対する自然防御に必須の役割を持つ)」だ。しかし、「細胞内で異物につく分子・・・発見」と言う見出しを見た時、一般の人はどう感じるのだろう。私は見出しを見た時何を言っているのか全くわからなかった(勿論記事を読んで納得したが)。多分中途半端にものを知っていると、コミュニケーションが図れないのかもしれない。
   さて論文を読んでみるとこの仕事が、A型連鎖球菌が貪食細胞に食べられた後どう処理されるのかを丹念に調べた仕事だとわかる。一つ一つの分子の詳細は全て省くが、まず細菌成分による刺激でNO(一酸化窒素)が発生し、次にこれに反応してニトロ化cGMPが作られる。次にこの分子が細菌上の蛋白質を直接変化させることで、細菌はオートファジーが起こる様印がつき、オートファジーが進んで小器官に閉じ込められた後、分解されると言う一連の過程を解明している。この研究の売りは、NO発生によりニトロ化cAMPが作られ、これが細菌の蛋白を変化させることで、オートファジー経路に導かれると言うメカニズムの発見だ。はっきり言って、派手さのない極めて専門的な仕事で、一般の人にはわかりにくく福島さんも記事にするのに苦労したと思う。勿論、記事の最後にまとめられているメカニズムについてはうまく書けている。しかし、なぜこの論文を記事に選んだのか勿論私にはわからないが、おそらくオートファジーについての研究と言う事が理由ではないだろうかと推察する。オートファジーは、現東工大の大隅さんが酵母の電顕の観察から着想を得てライフワークとして進められた独創的な研究で、分子メカニズムが大隅さん達によって明らかになり、今では細胞内での不用な分子を処理する重要な機構である事が世界に認められている。即ち、我が国発のオリジナルな仕事だ。細胞内にはもう一つ不必要な分子を処理する機構がある。ユビキチン化と蛋白質分解による処理だが、この機構の発見には既にノーベル賞が与えられている。このため、大隅さんは今年のノーベル賞の有力候補だと言う記事が多くの新聞をにぎわせた。おそらく今回の記事も、この事が頭にあるのではないだろうか。それなら、日本の誇る大隅さんも含めて紹介すればもう少しわかりやすかった様な気がする。研究は歴史的に見てみると一般の人にもわかりやすい。特に日本オリジナルな重要な概念については、歴史についても紹介して欲しいと思う。ともかく、「どこかの誰かが、よくわからないけど重要な事をしたようだ」と言った記事はいただけない。

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ハイデルベルグ原人のミトコンドリアゲノム解明(Natureオンライン版掲載:12月4日NY Times他多くの欧米メディアが掲載))

2013年12月5日

NY Timesを始め欧米のメディアが大騒ぎしている論文を紹介する。このホームページでも、11月14日に紹介したが、ドイツライプチッヒにあるマックスプランク人類進化研究所は今世界の目を引きつけている。これまで、ネアンデルタール人、及びシベリアで発見されたデニソーバ人の全ゲノムを解明し、私たちの起源の理解について極めて大きな貢献をしてきた。もし皆さんが遺伝子検査を依頼して、ネアンデルタール度2%などと返事を貰ったら、これは全てこのライプチッヒの研究所の成果に基づく計算と言っていい。そしてついに、私たちを含む4種類の新しい人類(デニソーバ、ネアンデルタール、フロレンシス、そしてホモサピエンス)の先祖と考えられるハイデルベルグ原人の遺伝子解明に成功した言う仕事だ。Natureオンライン版に掲載され、「A mitochondrial genome sequence of a hominin from sima de los Huesos (Sima de los Huesosで見つかった原人のミトコンドリアゲノム配列)」と言うタイトルがついている。このタイトルにある、Sima de los Huesosは多くのネアンデルタールを含む原人の骨が見つかって現在も発掘が続くスペインにある有名な場所で、特に温度が保たれ、化石にDNAが保存されている期待の大きな場所だ。またいつか詳しくニコ動で紹介したいと思うが、化石DNAの配列を決めるためには、やはりこの研究所で開発されてきた多くの方法やノウハウが必要で、その全てを駆使して今回の解析が行われた。結果はわかりやすい。先ず、今回選ばれた化石はハイデルベルグ原人とネアンデルタールの両方の特徴を持っており、分類がしにくい化石だが、ミトコンドリアDNAの配列を決める事が出来、遺伝子配列からもこの化石が40万年前の原人の物であることが明らかになった。40万年前にゲノムでさかのぼれるのも驚くべき事だ。しかしもっと驚くのは、この化石のミトコンドリアゲノム配列が、ネアンデルタールよりデニソーバに似ていたことだ。この研究を行ったMeyerさんもNY Timesのインタビューに対し、最初は初期ネアンデルタールの遺伝子を調べようと思っていたと答えている。(http://www.nytimes.com/2013/12/05/science/at-400000-years-oldest-human-dna-yet-found-raises-new-mysteries.html?hpw&rref=science )  実際化石には、ネアンデルタールと言える特徴もある。しかし期待に反して、現在のところシベリアでしか見つかっておらず、東アジアに限局していたと考えられているデニソーバ人に近かった。と言うことから、この化石はネアンデルタールやデニソーバではなく、両方の祖先と言うことになる。考古学の常で、何かが明らかになると、更に大きな謎が残る。ハイデルベルグ原人から新しい人類への分離はアフリカで起こったとされているが本当だろうか?ネアンデルタールとデニソーバは同じ領域や時間を共有していたことはあるのか?そもそもデニソーバとはどんな人類か?これまでのシナリオが大きく書き換えられる可能性もある。当分はライプチッヒから目が離せない。

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大気汚染と自閉症(Epidemiology誌オンライン版掲載)

2013年12月4日

今個人的に自閉症研究の現状を調べているため、自閉症についての記載が続く。さて、今日紹介する仕事ははっきり言って「本当か?」と言う疑問と、「こんな事まで調べているのか?」と言う驚きが混じっている。Epidemiologyという疫学関係の雑誌に掲載された南カリフォルニア大学の仕事だ。タイトルは「Autism Spectrum Disorder, Interaction of Air Pollution with the Met Receptor Tyrosine Kinase Gene (自閉症スペクトラム:大気汚染とMETチロシンキナーゼ遺伝子の相互作用)」。これを見ると自閉症と大気汚染?とだれでも先ずいぶかしがる。しかし、この仕事以前にもこのグループはハイウェイ近くの大気汚染と自閉症の関係を疫学的に調べている。即ち、自閉症の原因を求めて、可能なあらゆる事との相関性を調べるのが疫学研究だ。ではMET遺伝子はなぜ選ばれたのか。まずこの遺伝子のプロモーター部位の多型と自閉症との相関が既に知られている。その上で、母マウスが大気汚染物質に晒されると、生まれた仔マウスのMET遺伝子の脳内発現が低下する事が知られている。まさに12月2日に紹介したエピジェネティックな影響の例だ。いずれにせよ、これは疑わしいと言う直感を科学にする必要があるが、このための学問が疫学で、基本的に統計学的手法が用いられている。結果はタイトル通りで、MET遺伝子の一つのタイプと、大気汚染が重なると自閉症のリスクが上昇すると言うものだ。この研究の他にも母体へのストレスによる自閉症発症の研究は多くある(これも調べようと思っている)。有名な所では、第2次世界大戦中のアムステルダム封鎖に伴う飢餓状態の中で生まれた子供に自閉症の多いという報告を挙げる事が出来る。私はこれまで自閉症の分子遺伝学過程ばかりを紹介して来たが、このように遺伝とは異なる要素についての研究も進んでいることを改めて認識した。飢餓であれ、大気汚染であれ、自閉症に遺伝以外の要因の関与がはっきりする事は、予防だけでなく、治療への様々な可能性を開いてくれる。その意味では直感的に疑わしいあらゆる要因を科学的に調べる疫学は重要だ。

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オキシトシンによる自閉症児治療の可能性(アメリカアカデミー紀要掲載論文)

2013年12月3日

11月29日ドイツボン大学の研究を少し面白おかしく紹介するため、このオキシトシンを恋人と添い遂げる媚薬と呼んだ。実はこのオキシトシンは媚薬としてより、人間の社会性を高める働きがある神経刺激ペプチドとしてもっと良く知られている。例えば仲間内での信頼性や、他人の感情を読むのがオキシトシンで高まる事が知られている。今日紹介するのは、アメリカアカデミー紀要に掲載されたエール大学の研究で、オキシトシンが自閉症の脳機能を高めるかどうか調べている。タイトルは「Oxytocin enhances brain function in children with autism(オキシトシンは自閉症時の脳機能を高める)」だ。
  これまでも、オキシトシンを自閉症患者に投与すると社会性が増す事が知られている。ただ、その結果進められた長期効果を見る臨床治験ではこれまでのところあまり期待できる結果にはなっていないようだ(これについても一度詳しく紹介する)。この状況を受けて、オキシトシンが実際に脳機能に本当に影響があるかどうかを調べたのが今回紹介する研究だ。研究では、8−16歳の自閉症患者が選ばれ、オキシトシンを鼻にスプレーした後、目を見て他人の心を知るテストを行わせ、機能的MRIで脳機能を測っている。この研究により、オキシトシン投与により幾つかの脳内部分が活性化されるが、この部分は自閉症で異常があるとされている部分と一致する事が示された。そして、目から他人の心を読むなどの社会行動課題を行わせる時オキシトシン投与を受けた患者さんでは、これら領域の一部の活動が確実に促進しているが、社会性と関係のない課題を行うときの神経活動には抑制的に働く事が明らかになった。要するに、オキシトシンは確かに自閉症児の社会的行動に連動した脳活動を特異的に促進させている。ではなぜこれほどの効果があるオキシトシン投与の臨床治験がうまく進まないのだろう?この研究では、これまでの臨床治験が社会行動に関わる課題と無関係に投与されていることが失敗の原因ではないかと想像している。きめ細かに、先ずオキシトシンを投与し、その上で自閉症に効果があるとされている社会行動に関する課題を課すという、2段階の治療を積み重ねる治験を行う事を必要であるというアドバイスを論文の結論にしている。今後、この科学的知見に基づく新しい治療が始まると期待できる。
   これまで見て来たように、自閉症は複雑で手の施しようがないと思われて来たが、脳内分子生物学的プロセスがゲノム研究をきっかけに明らかになりつつあり、早期発見が可能で、MRI検査レベルで特異的脳領域を調べる事が可能になり、薬剤と行動課題を組み合わせた治療が開発される、などの急速に研究が進んでいると言う感触を持っている。オキシトシンが媚薬だけではなく、心の特効薬になる日は十分期待できる。。

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12月3日朝日新聞記事:赤ちゃん、目を見て人認識

2013年12月3日

最近希少難病ナビに自閉症についての最新の研究を紹介してきた。その中で11月7日赤ちゃんが人の顔のどこに注目するのかを調べると、自閉症の早期発見が出来ると言うNatureに掲載されたアトランタ自閉症センターの論文を紹介した。その時、日本では新生児の脳研究がどのように行われているのか少し心配になったが、今日朝日新聞は中央大学のグループがNeuropsychologia誌に発表した論文を紹介した(http://www.asahi.com/articles/TKY201312010064.html) 
 新生児の頭蓋は薄いため、酸化、非酸化ヘモグロビンの脳内分布を測る事で、機能的MRIと同じように脳内活動を調べる事が出来る。この仕事では、新生児が人の顔を認識する時、目と周りの顔との調和の重要性について調べている。これは、2009年に人の写真による顔認証について写真のポジとネガの様々な組み合わせを見たときの反応がMRIを用いて調べられ、大人では目の周りのコントラストが人の認識時の注目点になっている事がMITの研究でわかっていた。今回新生児の脳の反応を調べた研究により、新生児では顔写真の認識を主に右脳で行い、写真の目の部分がポジになっている時には反応するが、ネガに置き換えると反応しない事が明らかになっている。
   これまで自閉症の研究を紹介して来た側から見ると、この研究は紹介して来た研究と一致する点が多い。即ち、11月7日に紹介したように新生児期早くから目を注目点とした顔認識が成立している事、また11月22日に紹介したように脳の扁桃体の神経が、目ではなく口を見た時に反応するなどの結果だ。これを念頭に考えると、目を見ないで口を見る様な自閉症の子供は、今回の研究で使われた同じような課題にどのように反応するのだろうか興味が尽きない。せっかくこの様な研究を進めているグループがあるのだから、様々な施設と協力して日本でも自閉症の脳認識研究が進んでいく事を期待したい。

   記事は記名ではなかったが、内容は問題ない。ただ、結論が「赤ちゃんが普通の目の白黒のコントラストを見た時に、人と認識している可能性がある」と言う事だが、人と、他の動物や人形についての顔認識の違いを比べた仕事ではないので、少し結論が強すぎる気がした。

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12月2日:獲得形質の遺伝(Nature Neuroscienceオンライン版掲載)

2013年12月2日

今日はNature Neuroscienceオンライン版に掲載されたエモリー大学の大変興味ある仕事を紹介する。タイトルは「Parental olfactory experience influences behavior and neural structure in subsequent generations (親の臭い経験が、世代を超えて行動と神経構造を変化させる)」で、要するに親の経験が子供に伝わると言うことを示した研究だ。これはいわゆる遺伝の話ではない。神経的経験が遺伝子コードに直接影響を持つ事はまずない。ただ、遺伝子の発現を決めているエピジェネティックな変化が子供に伝わる事は知られるようになって来た。特に胎児期の母体の様々な経験によって、生まれた子供の将来が決まる事はよく知られており、エピジェネティックな変化を来す遺伝子も幾つか同定されている。勿論、突然変異ではなく、子供の遺伝子の配列に変異は起こっていない。ただ、これまでの研究は、母体のアルコール摂取や、飢餓と言った胎児への直接影響を否定できない状況についての研究が中心だった。
   今回の仕事は雄の親の神経的経験が子供に伝わるかを調べている点で、より純粋にエピジェネティックの変化が次の世代に伝わるかと言う問題を扱っている。実験は少し複雑だ。まず特異的な臭いと電気ショックなどの恐怖エピソードを経験させ、この臭いとリンクした恐怖経験が子供や孫に伝わるか調べている。臭いを感受する受容体については研究が進んでおり、この研究では臭い受容体M71と呼ばれる分子とその遺伝子に注目している。反応する受容体を特定できると、臭いを感知するための神経構造を詳しく調べる事が出来る。この様な複雑な実験系を構築して、M71刺激と恐怖発作を雄に与え、2週間待って(この間に経験時に存在した精子は無くなる)その精子を、正常のメスの卵子と受精させる。生まれて来た子供、更に孫まで臭いをかがせて反応を見ると、臭いを経験した雄の子供は、臭いに反応して恐怖発作を示すと言う結果だ。これだけでも驚くのだが、恐怖を経験した雄のM71受容体を発現している神経細胞が何倍も増えており、また雄の精子ではM71遺伝子を抑制するエピジェネティックな抑制が外れていたと言う結果をみると、本当に驚く。この方向の研究をこれまでも読んで来たが、神経構造の変化まで示した研究はこれが初めてだろう。
   はっきり言ってこの仕事は言うなれば際物研究で、現象は面白いが、メカニズムは全くわからない。ただ、様々なパラメーターを調べる事のできる実験系が構築できたのは大きいと思う。経験が子孫に伝わるのかはダーウィン以来何度も繰り返して議論されて来た。際物であると言う批判を受けながらも地道な努力を続けているグループがある事を知り感心した。これが本当なら、やはり親になる男性も摂生が必要になる。強いて問題を指摘すれば、元々発現にエピジェネティックな機構が関わる臭いを使った点が気になる。臭いではなく他の経験を使って同じ事が出来ればもっと多くの人が注目するはずで、更に新しい実験系を期待したい。

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111月30日 感染症に対する科学の挑戦(Nature オンライン版掲載)

2013年11月30日

  日本にいるとマラリアの感染が問題になる事は、海外からの帰国者のケース以外にほとんどないだろう。しかし、発展途上国に目を移すと、最も厄介な感染症の一つだ。今日紹介する論文は、マラリアに対する新しい薬剤開発の可能性についての合衆国サンディエゴにあるUC San-Diegoとノバルティス社の研究所からの仕事で、今週Nature オンライン版に掲載された。マラリアはこれまでも研究人口の多い感染症だが、なかなか新薬が生まれてこなかった。その意味で、新しい可能性を示すこの研究の重要性はNatureも十分理解しているようだ。タイトルは、「Targeting Plasmodium PI(4)K to eliminate malaria (マラリア撲滅を可能にする原虫のPI(4)Kを標的治療)」で、結構力の入ったタイトルに聞こえる。
   研究ではまず、細胞内に寄生するマラリアを殺す効果のある薬剤を数多くの化学化合物をスクリーニングすることで発見している。昔なら、効果があって副作用がなければそのまま利用可能な薬品へと開発が進められたかもしれないが、最近ではその化合物がなぜ効果があるのか、メカニズムをしっかり明らかにするのが普通だ。即ち、創薬のための標的分子が決まり、メカニズムがわかると、更に優れた薬剤の発見につながるチャンスが大きくなる。この仕事では、マラリア原虫の増殖抑制に効果のある化合物の標的を様々な方法で探索し、PI(4)Kと言う分子であることが決められる。標的分子が決まると、次はメカニズムの研究へと進む。この研究では、PI(4)Kが赤血球内に寄生したマラリア原虫が増殖する際、細胞膜の陥入に必須の分子が明らかにされる。このようにして、マラリア撲滅のための標的分子やプロセスが完成した。創薬標的へ向けたお手本の様な研究に思える。次は、安価で使いやすい薬品を開発するだけだ。タイトルへの力の入れ方から見て、十分期待できそうな気がする。

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恋人と添い遂げる媚薬(アメリカアカデミー紀要 on line版掲載)

2013年11月29日

昨日、普通なら一人の相手と添い遂げるハタネズミと、その中に発生する浮気者の遺伝子の話をした。実はハタネズミが一人の相手と添い遂げるという習性に関わる分子はよく研究されていて、オキシトシンと言う神経刺激ペプチドがつがいを形成する前に分泌される事が知られている。また、ヒトでも恋人を思い浮かべる事でオキシトシン刺激回路につながっているVTAと呼ばれる脳の部位が興奮する事が知られている。今日紹介するのは、オキシトシンのこの効果を直接人間で確かめようとするドイツボン大学からの研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Oxytocin enhances brain reward system response in men viewing the face of their female partner (恋人の顔写真を見ている男性の脳内報酬システムをオキシトシンが促進する)」。
   実験は実に楽しい。結婚前の恋愛進行中の男性を集め、恋人と関係ない女性の写真に対する反応を機能的MRIで調べている。写真を見せる前にオキシトシンスプレーを鼻に投与する群と、偽薬を投与する群に分けて、恋人の写真を見た時に興奮度が上がるかを比べている。専門家でないので、どの程度データを信用していいのかはわからない。ただ結論は予想通りで、オキシトシンを投与されると、つき合っている恋人に特異的に反応して興奮するが、偽薬だと恋人の写真と、知らない女性の写真を見たときの反応に大きな差が無くなると言う結果だ。そしてこの時の興奮は、やはり脳内のVTAと呼ばれる部位で起こっている。まとめると、オキシトシンを投与される事で、今つき合っているパートナーをより魅力的に感じる脳内回路形成が促進される事になる。ワーグナーのオペラトリスタンとイゾルデでは、媚薬を飲んだとたん憎み合っていた二人が恋に落ちる。媚薬などこれまでは信じた事がなかったが、この論文を読むと本当の話かもしれないという気がしてきた。
   しかし科学者として長く過ごした私がこの論文で最も興奮した箇所は、論文の出だしだ。「Love and enduring romantic bonds can brind the elation of profound joy and pleasure but also, when broken, the deepest sorrow and despair (愛と変わることのないロマンチックな絆は深い喜びと快楽の高揚をもたらしてくれると同時に、いったん破綻すると、深い悲しみと絶望に突き落とされる)」。科学論文をこんな出だしで一度でも書いてみたかった。

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11月28日:アルコール依存症の遺伝子(11月26日号Nature communication掲載、オリジナル記事)

2013年11月28日

  脳機能のような高次機能について小動物モデルはどれだけ人間を反映できるのだろうかという疑問は、例えばマウスが賢くなったと言った報道を見たとき、大方の一般の人が感じる疑問だろう。研究を行う側は心の片隅に疑問を抱いていたにしても、プレス発表では「この方法で人も賢くなれる」ぐらいの事は言ってしまう。実際は人間を反映する場合もあるがそうでない場合も多い。おそらく、小動物モデルの限界を認識した上で、人間とどう相関させるのかを考えていくしかないのだろう。そんな例の一つが、2007年相次いで論文が出た浮気の遺伝子だろう。最初の論文は、通常は一夫一婦を守る身持ちのいいハタネズミの中で、浮気をする雄を調べると、バソプレッシン受容体の脳内での発現に変化が見られたという報告だった。これでよせばいいのだが、人間でこの受容体遺伝子の多様性を調べてタイプ分けすると、あるタイプを持つ事で離婚率や浮気の頻度が上がるという論文が出た。この論文を見たとき私は秘書に、「結婚するとき相手を連れてきたら、この遺伝子を調べてあげる」などと解説したのを覚えている。勿論この研究が正しいかどうか結論は控えるが、たかが動物の生態とせずに人間で調べてみた研究者に脱帽だ。
  さて、今日紹介するのはその逆の話で、ヒトの遺伝子多型研究からアルコール依存症との関係が疑われていた遺伝子に突然変異を持つ、やはりアルコール依存症のモデルマウスが確立されたという話だ。論文は英国HarwellにあるMRC所属研究所の仕事で、「Mutations in the Gabrb1 gene promote alcohol consumption through increased tonic inhibition (Gabrb1遺伝子の突然変異は神経の緊張抑制を上昇させてアルコール摂取量を促進する)」というタイトルがつけられている。神経細胞同士の伝達にGABAという物質が重要な役割を果たしているが、その受容体遺伝子の多型と、ヒトアルコール依存症との関連がこれまで多く報告されていた。ただ、遺伝子多型の研究をメカニズムの研究まで進めるのは並大抵ではない。そして多くの場合、モデル動物を使う必要がある。このグループは、同じ遺伝子の変異によりアルコール依存症も出るマウスを作成する試みを行い、ついにこの遺伝子に突然変異を起こしたアルコール依存症のマウスを確立した。この突然変異マウスは、水よりアルコールを好み、一日の摂取量も正常マウスと比べると何倍も多い。この研究から結論されるのは、アルコール依存症についてはマウスもヒトのモデルになり得ると言うことになる。詳しくは述べないが、この論文ではモデルマウスの神経細胞を使って、どのレベルで異常が生じているかを詳しく解析している。このようにうまく行くと、モデル動物を使って、普通ヒトでは簡単にできない様々な研究が可能になる。論文では、この型を用いてアルコール依存症の治療薬開発が促進される可能性が唄われていた。一つ強調しておきたいのは、狙った遺伝子をノックアウトする研究と比べると、突然変異を誘導してその中から自分の求める症状を示すマウスを発見する研究は大変な仕事だ。それをやり遂げたこのグループには正直脱帽だ。とは言え、アルコールの魅力はまだまだ奥深いことも間違いないと私は確信している。

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11月24日:自閉症の分子基盤(11月22日号Cell誌掲載)

2013年11月24日

最新の自閉症研究紹介の最後は、11月22日号のCellに掲載されたカリフォルニア大学ロサンゼルス分校からの仕事だ。研究の目的は同じ号に紹介されているもう一つの論文と同じで、自閉症に関わる分子や細胞を包括的な遺伝子発現やゲノムについての研究から明らかにしようとするものだ。タイトルは「Integrative functional genomic analyses implicate specific molecular pathways and circuits in Autism (統合的なゲノム機能研究から示唆される自閉症に関わる分子過程や回路)」だ。
  この研究では先ずヒトの脳の遺伝子発現を調べたデータベースから、遺伝子が発生時期や場所でどのように発現するのかを抜き出し、18種類のパターンに分類する。次に、やはりデータベースから得られる自閉症関連遺伝子がどのパターンを取るかを調べて、自閉症関連遺伝子とそれぞれのパターンを示す遺伝子群を関連づける。最後に、自閉症関連遺伝子の属するパターンを示す遺伝子が大脳皮質の6層のなかのどこに発現するかを調べ、自閉症発症に関わる細胞を特定すると言う研究だ。この研究によって、1)ゲノム研究などから明らかになっている自閉症関連遺伝子は、同じ様な発現パターンを示す事、2)自閉症関連遺伝子は特定の分子ネットワークを形成している事、3)自閉症関連遺伝子を含む分子ネットワークが大脳皮質の発生過程で特定の細胞(皮質の表層)に発現していること、などが示されている。先に紹介した論文と比べると少し見劣りする仕事だが、ゲノムから遺伝子発現、そして生理学を統合しようと様々な試みが行われている事が実感できる。もちろん問題もある。2つの論文を比べてわかるのは、最終的に自閉症に関わるとして特定された皮質層についての結論が異なっている事で、統合的に多くのデータを処理して過程を明らかにするための手法がまだ完全に確立していない事も理解できた。
   とは言え、自閉症の様な複雑な状態に果敢に挑戦している事は重要だ。2編の論文を読んで私が心配するのは我が国がこの様な統合的研究で大きな遅れをとっている事だ。これらの研究からわかるのは、心理学や精神医学の医師に加え、ゲノム研究、インフォーマティスト、コホート研究、データベース作成など様々な分野が一つの目的に動員されている点だ。モデル動物の研究などはここまでの総合力は必要ない。従って、これまでも紹介したように日本も高いレベルにある。しかし、人間についての研究となると、これからは総合力の勝負になる。間違っていたらいいのだが、医学に関わらず多くの分野で、統合的な研究が日本の弱点である様な気がする。ぜひニコニコ動画を使って、今回紹介した仕事を更にわかりやすく解説するとともに、我が国の弱点についても議論してみたい。もし対談していいと言う方があれば是非手を上げてもらいたいと思っている。

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