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3月22日:酵素なしのTCAサイクル(Nature Ecology & Evolutionオンライン版掲載論文)

2017年3月22日
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   地球上で最初の生命が誕生するまで、地球上に存在した様々な無機物を使って有機物が合成されていたことは間違いない(だから私たちが地球に存在している)。1953年に発表された有名なユーリーとミラーの実験に端を発し、この過程を再現するための様々な研究が続いている。この結果「生命に必要なほとんどの有機物を合成することは可能」であることを、この分野の研究者は確信しており、さらに高いレベルの合成化学へのチャレンジにつながっている。この新しい課題の一つが、一続きの代謝経路を生命の関与なしにどこまで再現できるかという課題だ。中でも最も重要な目標が、生命の代謝経路の中心に鎮座しているTCAサイクルの再現だ。
TCAサイクルは糖や脂肪を酸化によって燃やし、ATPやNADHなどのエネルギー交換のための分子生成に使われるだけでなく、アミノ酸などの合成にも必須の、生命の基盤回路として酸素呼吸を行うすべての生物に存在している。しかしこのサイクルは何段階にも分かれており、その全てに特異的な酵素が必要だ。すなわち、すべての酵素が揃わないと動かないように見える。ただRNAワールドだとしても、10種類近い酵素を全て揃えるためには天文学的時間がかかる。そのため、無機物でこの回路をどの程度動かせるか研究が行われていた。
   今日紹介するケンブリッジ・システムバイオロジー研究所からの論文はほとんどのTCAサイクルを単純な硫酸鉄を含む鉱物だけで動かすことができることを示した論文でNature Ecology & amp; Evolutionオンライン版に掲載された。タイトルは「Sulfate radicals enable a non-enzymatic Krebs cycle precursor (硫酸ラジカルは酵素に頼らない前駆的クレブスサイクルを可能にする)」だ。
   研究はクエン酸、アコニット酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸の5種類のTCAサイクル中間体分子を、地球に実際存在する様々な鉱物とともに反応させ、合成される有機物を質量分析器で分析する単純なものだが、実際には4850回の実験を行い、合成されたすべての成分の絶対量を測定する大変な実験だ。
   詳細はすべて省くが、結果は硫化第一鉄と混合した時にTCAサイクルが動き始めたとまとめられるだろう。反応は双方向性で、反応で生まれるおよそ半分が現存のTCAサイクルの構成物で、他の反応はほとんど起こらないことを示している。
   基本的に酵素反応は、加えた安定な分子を活性化して、他の分子と反応できるようにすることだが、硫酸鉄の表面でほぼすべての分子を活性化できることを示している。もちろん、酵素反応と比べるとそれぞれの反応の効率は大きく異なり、収率は高くない。しかし、1−2過程を除いてすべてのTCAサイクル過程が可能になったことは大きい。このような条件に、一つのリボザイムや酵素が加わるだけで、TCAサイクルを完成させ、収率をあげることができるようになる。最後のプロセスの実験的再現もそう遠くない気がする。
   このような地球化学と、有機化学が一体化した生命以前の世界の再現実験にはロマンが溢れているが、着実に進歩していると実感している。
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