その中で比較的解析が進んだのが、IL7受容体遺伝子上に存在するSNPで、このSNPを持つIL7R遺伝子は6番目のエクソンが欠如しやすく、結果分泌型のIL7Rが作られることが知られている。
今日紹介するテューク大学からの論文は、MSを誘導する分泌型IL7R(sIL7R)合成に関わるスプライシング分子をDDX39Bを特定し、この分子の発現低下がMSを悪化させることを示した論文で3月23日号のCellに掲載された。タイトルは「Human epistatic interaction controls IL7R splicing and increasees multiple sclerosis risk (IL-7Rスプライシングの調節に関わる分子相互作用により多発性硬化症リスクが高まる)」だ。
この研究ではまずIL7R遺伝子の6番目のエクソンのスプライシングに関わる分子を探索しリストされた89種類の分子の中から、DDX39Bと呼ばれるRNAヘリカーゼが第6エクソンのスプライシングをオーガナイズしていることを発見する。そして予想通り、DDX39Bが欠失するとsIL7Rの発現が上昇し、この研究のスタートラインになったIL7R遺伝子自体のSNPと同じ結果が起こる。
この結果はDDX39B遺伝子多型の中にはMSの発症リスクと関わるものが存在することを強く示唆する。ところがそのようなSNPはこれまで記載されていない。この原因は、この分子がやはりMSの発症と強く相関するMHC遺伝子内に存在するためではないかと考え、MHC分子自体のSNPを除外して相関を調べ、ついに15種類のDDX39B遺伝子のSNPを特定している。
リストされた15種類のSNPは全てエクソンの外にあり、遺伝子発現やスプライシングに関わることが想定される。そこでこれらの中からDDX39B遺伝子発現が低下するSNPを、様々な遺伝子型の人から作成したリンパ球細胞株で調べ、rs2523506と呼ばれる場所がアデニンを持っている人で、DDX39B発現が低下することを明らかにしている。
最後にこの多型が実際sIL7R産生とMSリスクにつながるかだが、この多型だけではエクソンスキップをはっきり誘導することは難しかった。しかし、MSと関連するIL7R遺伝子の多型を持った細胞内はDDX39B遺伝子多型が導入されるとよりスキップが高まり、結果sIL7Rの分泌が高まることが明らかになった。また、細胞株だけではなく、正常CD4T細胞でも同じことが観察できることを示している。
話はこれだけで、Cellによく通ったなという感じは受けるが、様々な遺伝子多型の人を揃え、丹念に可能性を追求したという点では力作だと思う。とはいえ、ではなぜsIL7Rで MSが誘導されるのか、肝心なところはわからずじまいで残った。
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