イコンはものとしての関係が明確な記号同士の関係で、インデックスは例えば温度と温度計のメモリのような指標関係だ。どちらも物理学的に関係付けることができるが、コドンとアミノ酸のようにそのままでは物理関係が成立しない場合はシンボル関係が誕生したことになる。
このシンボル関係が最もわかりやすいのが数字だろう。目の前にある石の数が数字で表されると物理的関係は切れる。今日紹介するピッツバーグ・カーネギー・メロン大学からの論文はまさに数字(シンボル関係)とイコンの関係を処理するための脳領域について調べた研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Numerosity representation is encoded in human subcortex(数の多さの表象は人間の皮質下部にコードされる)」だ。
数字を理解するということは、ものの大きさや多さをシンボルとして表象できる高次の機能で、脳画像を用いた研究から頭頂間溝の皮質が関わっていることがわかっている。ただこれができなくとも多さを感じることは生命にとって重要な機能だ。例えば蜘蛛でさえもどちらが多いかを「感じる」能力を持っているという論文があるようだ。
このことから、著者らはものの多さを感じる場所は、数を処理する皮質より原始的な領域である皮質下部が関わるのではないかとあたりをつけ、この問題を極めて単純な方法で調べている。
網膜で結像した視覚イメージは視交差を通って外則膝状体に入り、後頭部の視覚中枢に投射する。このとき皮質の第4層までは片眼の信号だけが投射しているが、それ以上になると両眼の信号が混じり合う。この視覚と特徴を利用すると、皮質下部で処理されているか、それより上部で処理されているかを調べることができる。具体的には、片方の眼だけに情報を入れて多さを判断させる場合と、両方の目に代わる情報を入れて判断させる課題を行うと、皮質下部で処理される場合、片眼のみに情報を入れたほうが処理力が早まることになる。
このとき、小さな玉の数、すなわちイコンを見せて多いか少ないかを判断させる課題と、数字、すなわちシンボルを見せて判断させる課題を行わせると、イコンの数を判断するときは片眼だけに情報を入れたほうが処理が早い。一方シンボルの場合は皮質上部が必要なため、片眼に情報を入れても、両眼に情報を入れても成績は同じになる。
この研究では皮質下部でのイコンの量の区別の精度を調べている。結果は、イコンの数が4倍以上のときのみ皮質下部は区別できるという結果だ。
この研究も着想だけで、大げさな機械を全く使っていない研究だが、言語やシンボルについてちょうど準備をしている最中なので、とても新鮮に感じた。いずれにせよ、この論文が扱った問題は、言語をはじめとする人間特有の能力を考える上で鍵になるような予感がした。
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