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6月6日 1型糖尿病発症の全く新しいメカニズム(5月30日号Cell掲載論文)

2019年6月6日
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1型糖尿病は膵臓のベータ細胞に対する自己免疫反応で起こることがわかっているが、自己免疫反応の引き金になる自己抗原についてはよくわかっていない。おそらくインシュリン自体が抗原になっているのではと考えられているが、1型患者さんのMHC抗原DQ8との結合が弱いためインシュリンに対する強い自己免疫反応の誘導が難しく、インシュリン特異的T細胞を誘導する引き金には他の抗原を探す必要があった。

今日紹介するジョンホプキンス大学からの論文はこの問題に対し「あ!」と驚く答えを示した研究で5月30日号のCellに掲載された。タイトルは「A Public BCR Present in a Unique Dual-Receptor Expressing Lymphocyte from Type 1 Diabetes Patients Encodes a Potent T Cell Autoantigen (T 細胞受容体と抗体の両方を発現した稀なリンパ球サブセットが発現する抗体が自己抗原になる)」だ。

タイトルからしてややこしいが、この研究を一言でまとめると、特定の抗体の可変部のペプチドが自己抗原になっているという話になる。

詳細を飛ばして、なぜこんな話になるのかを説明しよう。

  • まず1型糖尿病(T1D)の患者さんではT細胞抗原受容体(TcR)とB細胞抗原受容体(BcR)の両方を発現しているDE細胞が、正常の人より多く存在する。
  • この細胞はTcR刺激でもBcR刺激でも増殖することができ、これがT1Dで増加している理由。
  • 重要なのはこのDE細胞が発現しているTcR、BcRのレパートリーは限定されている。
  • 特に、BcRは特定のV、D、Jが集まったCDR3に限定されており、異なる患者さんからのDEも全く同じアミノ酸配列のDEを発現している。
  • このCDR3ペプチドが、なんとDQ8組織適合抗原にフィットし、しかも特定のCD4T細胞の増殖を誘導する。
  • こうして誘導されたCD4T細胞はインシュリンにも反応して、結果膵臓ベータ細胞をアタックしてT1Dを引き起こす。

だいたい、TcRとBcRを同時に発現する細胞が存在し、その細胞が生産する抗体が自己抗原になるというこの話は、ifを何回も繰り返す必要があり、にわかには信じがたい。しかし、そんな稀なDEを細胞株として分離しており、またT1Dの治療の観点からも、自己抗原にとどまらず、それを供給する細胞まで特定できている点で、極めて魅力的だ。

このCDR3ペプチドが抗原なら、できる限り早くこれを抑える臨床治験を進めてほしいと思う。

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