昨日は抗体の膣腔への移行に、B細胞が膣組織へと移動する必要があることを示す論文を紹介し、全身を循環する抗体が必ずしも全ての組織に同じように浸透できるわけではないことを知った。
今日紹介する論文は母体から胎児への抗体の移行を決める条件についての研究で、6月27日発行予定のCellに掲載されている。同時にハーバード大学及びデューク大学から2編の論文が掲載されており、母親の抗体が必ずしも平等に胎児に移行できるわけではなく、移行しやすい抗体と、そうでないものに別れることを示す研究だ。
この多様性の原因についての解明についてはハーバード大学からの論文が進んでいるが、胎児の感染症予防という臨床研究として見ると、デューク大学の方が苦労がにじみ出ているのでそちらを中心に紹介することにした。タイトルは「Fc Characteristics Mediate Selective Placental Transfer of IgG in HIV-Infected Women (Fc部分の特徴がHIVに感染した母親のIgGの胎盤通過の選択性を媒介する)」だ。ちなみにハーバード大の論文では「Fc Glycan-Mediated Regulation of Placental Antibody Transfer(Fc糖鎖が抗体の胎盤通過の調節に関わる)」と、より明確だ。
さてデュークの論文に移ろう。この研究では、米国とマラウィで行なわれているHIVに感染したエイズの妊娠女性のコホート研究を利用し、出産時に母親の血清と臍帯血中の血清を比較して、抗体の胎盤通過性に差があるのか、差があるとしたら何により差が生まれるのかを調べている。
まず様々な抗原に対する抗体を母親と胎児で比較し、母親により胎盤通過性が大きく変化していることを発見する。特に重要なのは、比較的病気がコントロールされ、状態のいい米国の母親と比べた時、マラウィの母親では抗原にかかわらず、抗体の胎児への移行率が低く、新生児の抵抗力を伝えることができていないことがわかる。
このように、エイズの程度と抗体の胎盤移行度が反比例することがわかったので、この差を決めている要因を探っている。このために、抗原に対する抗体の移行率から、移行のしやすさを数値化し、それと母体の状態や抗体の性質との相関を順番に調べている。
母親側の問題としては、エイズの重症度を示すCD4T細胞の数、及び高ガンマグロブリン血症との相関は見つかったが、これは予想されていることで、メカニズムを示すはっきりしたものは見つかっていない。
そこで抗体の生化学的性質との相関を調べ、最終的に胎盤に発現するFc受容体との結合性を決める、サブクラス(IgG1とIgG4が移行しやすい)、そして糖鎖修飾の差が移行度に影響することを示している。そして糖鎖が、フコース化、2分化、シアル化されていると、胎盤を通過しにくいことを発見している。
これらの結果から、胎盤移行は一つの要因だけで決まるのではなく、様々な要因が重なって抗体の胎盤通過が決まると結論している。
エイズ患者に絞った目的のはっきりした研究だが、はっきり言って明確な答えを出すという点ではフラストレーションの残る論文だった。一方、ハーバードの方は、出産時の母親と臍帯血の血清の解析から、NK細胞を活性化する抗体が胎盤通過をしやすいことに着目して、抗体の糖鎖に2つのガラクトースが結合した場合に通過しやすくなることを明確に示している点で、結論は明確で、今後の臨床応用への目標は設定しやすい。
今後、それぞれの結果はさらに検討されると思うが、この研究により、母親へのワクチン接種で子供を守る際の免疫方法へのヒントが示されると期待している。