わが国でのアトピー患者の増加と石鹸の消費量が正比例していることを、現役時代、第一三共株式会社の後援で開催していた六甲カンファレンスで聞いたとき、清潔な環境がアレルギーを招き入れるのかと不思議に納得したが、この現象については皮膚のバリアー機能強化として臨床応用が進んでいる。
同じような話は他にも指摘されており、都会の環境に比して農家の環境が喘息などのアレルギーを予防する効果があるという疫学的調査はその例だ。今日紹介する東フィンランド大学からの論文は部屋の中の細菌叢に着目してアレルギー予防に関わる農家の環境をより明確化しようとした論文でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Farm-like indoor microbiota in non-farm homes protects children from asthma development (農家ではないが室内の細菌叢が農家型の家庭の子供は喘息から守られている)」だ。
この研究はフィンランドで行われている半分以上が農家で生まれた子供のコホート研究と、ほとんどが都会で生活している子供のコホート研究を利用して行われた調査だ。2ヶ月時に家庭内の細菌叢を調査し、その後の喘息の発生比率と相関を調べている。
まず農家と都会の家庭の細菌叢を比べると、はっきり差が見られる。簡単に言ってしまうと、細菌叢に含まれる細菌の多様性が農家では高く、家畜についている細菌が農家で多く存在する一方、人間についている細菌は都会の家庭環境に多い。
このような差の中から喘息の発生率と相関する要因を抽出して、都会の家庭の環境を農家型とそうでない型に分けられるか調べ、バクテリアと古細菌の存在比率をモデル化した指標が農家の喘息を予防する家庭環境と相関していることが明らかになった。この結果をもとに、FaRMIと名付けた家庭環境が農家にどれだけ近いかを測る指標を開発している。この指標には様々な要素が寄与しているが、これまで指摘されていたバクテリア量や、エンドトキシン量などはあまり寄与していない。
一方、バクテリアの細胞壁の成分のムラミン酸には相関が認められた。都会の家庭で家の中でも靴を脱がない、兄弟が多い、室内の湿度が高い、家が古いなどがFaRMIが高くなる原因として関与している。
この指標はフィンランドのコホート調査をもとに開発されたので、同じ手法でドイツのコホート調査からFaRMIを算出し、FaRNI指標と喘息について確かめている。ドイツの家庭をフィンランドのFaRMIで調べても、フィンランドの家庭をドイツのFaRMIで調べても、農家の環境に近いほど喘息が低下していることを示している。これを血液検査指標で検出できるかも調べているが、一言で言うと可能だが簡単な方法では難しそうだ。
結果は以上で、要するに都会でも外の土が入ってくるような自然により開かれた環境が作れれば喘息はある程度予防できるという話だ。靴のまま家に上がるとはわが国ではほとんど難しい。もちろん、農家の環境を売り出すのはかなりハードルが高いことだが、テレビコマーシャルを見ていると、今だに自宅の環境は外部と遮断することが重要で、そのため帰宅した子供にスプレーするなどが推奨されているようだが、考え直す時期に来ているかもしれない。