飛行機で長距離移動中で、予約投稿がうまくいかず、今帰国して投稿し直しました。公開が遅れました。
今日も自閉症スペクトラムの研究を取り上げるが、昨日のように動物実験を用いた生命基礎科学のトップジャーナルに掲載される研究の対極にある、調査研究を取り上げたいと思う。タイトルは「Clustering of Co-Occurring Conditions in Autism Spectrum Disorder During Early Childhood: A Retrospective Analysis of Medical Claims Data (ASDでは幼児期に合併症が集まる:保険請求データの解析)」で、Autism Researchオンライン版に掲載された。
タイトルからわかるように、この調査研究は被保険者が保険会社に対して請求した医療費のレセプトから、ASDと他の疾患が合併する確率を調べた研究で、いろいろなバイアスはあるとしても、大規模に病気の統計を取ることができる重要な方法だ。
この研究では28万人の一般児と、非保険会社がASDとして医療費を支払った児童3278人を、7種類の児童がよく罹患する7種類の病気(保険支払いが行われたケース)の罹患率を調べてまとめたものだ。
7種類の病気には、中耳炎などの耳の病気、発達遅延(言語の遅れを含む)、消化器病、アレルギー、精神疾患(ムード障害や、 ASDHを含む)、てんかん、そして睡眠障害が含まれている(これらは全て疾患コードの一致をもとに計算している。)
この7種の状態と、ASDの合併を調べると、一般児の合併率が2.3疾患であるのに対し、4疾患とASDのケースでは合併率が跳ね上がる。その内訳をみると、一般児の罹患の多い耳の病気、アレルギー、消化器の病気でも、罹患率はASDの方が多く、てんかんや、精神疾患の合併症はASDでさらに差が大きい。
重要なのは、合併症を多く持つASDでは、精神疾患と消化器病の合併率が強いことで、合併症の多いASD児童は別に考えていく必要があることを示している。
さらに5年の観察で見たとき、てんかん発作も含めほとんどの合併症は2年程度で落ち着いてくるのだが、ムード障害などの精神疾患の合併は年齢が上がるほど上昇する。
以上が結果で、合併症の出方でASDの児童を分けることができる可能性を示唆している、臨床的には大事な統計だろう。
しかし私がこの論文を取り上げたのは、論文の内容より、保険請求項目が医療統計に極めて重要であることを示すためだ。米国の場合、この請求は各保険会社により管理されていおり、最近ではビッグデータとして用いる研究をよく見かける。
もちろん我が国もこの重要性はよくわかっており、支払基金に溜まった膨大な請求データを、実際の医療データと連結させるための「次世代医療基盤法」が施行されて1年以上が経過している。ただ、この作業については、日本医師会が新しい法人を作って事業者として名乗りをあげるという話を聞いてはいるが、実際にはほとんど進んでいないのではないだろうか。おそらく、セキュリティーの敷居が高すぎて、なかなかうまくいかない。また我が国では、請求が医療機関によって行われることを考えると、医師会しか事業者がないことは大きな問題だと思う。
結局ビッグデータの掛け声は大きいが、この状況を見ていると、我が国がますます医療データの後進国へと落ちていくように感じてしまう。